過去との決着
(くそっ!あの時の光景を思い出したら体が震えやがる。マール。まだ、魔王を敵に回した方が良かったぞ)
数分後、クライスは恐怖を振り払うように、庭へと移動し無心で剣を振る。
翌朝、リズは殲滅の刃の根城に来ていた。そこは、町から十キロほど離れた場所にある屋敷だった。周囲に人払いと防音の結界を張り、施錠もされていない門扉を開け中に入ると目の前に大きな噴水が目に入る。その奥にある屋敷の入口に向かいながら、探知魔法で屋敷の中の人数を数える。
(大体20人ほどか)
その時、二階の部屋から女性の悲鳴と男たちの下卑た笑い声が聞こえ、リズは目の前にある噴水を魔法で破壊し、その声のする方へと移動する。数秒後、窓から何事かと顔を出した男の顔を殴り飛ばし、すかさず部屋に防音結界を張り中に入り男達の人数を数える。
(今蹴り飛ばした男を入れて四人か)
男達は部屋の端まで吹き飛ばされた男よりも、吹き飛ばした張本人がスタイルの良い美女だという事に、顔を緩ませる。
リズは服を破られ、腕を一人の男に押さえつけられた女性を見る。馬乗りになっていた男と、横に立っていた男は剣を抜きリズに近寄る。
「お姉ちゃん。どうやってここに来たんだ?ここがどこか分かっているのか?あいつの治療費はその体で払ってもらおうかなぁ」
と吹き飛ばされた男を指差し、剣先でリズの体をなぞるように動かす。
「ねぇ。まだ何もされてない?」
リズは女性に話しかける。
「は、はい」
そう。と返事をし、歩き出す。
「無視してんじゃねーぞ、こらぁ!何っ!?がはっ」
リズは切りかかる剣を指で挟み取り、鳩尾に蹴りを入れ、それを見て切りかかるもう一人には回し蹴りで剣を折り、唖然としているその顔を蹴り飛ばし落ちてくる剣を掴み、投げつけたそれは男の顔の横に突き刺さる。
「忘れ物よ。・・・で?あなたはいつまでその子を押さえつけるつもり?」
と、目の前で蹲る男の頭を踏みつける。男の顔は床に穴を開ける。
「動くなよ女!動くとこいつの命はないぞ」
男は腰にぶら下げた短刀を女性の首元に当てる。
「お嬢さん。今から起こる事は見ない方がいい。身を瞑りなさい」
「は・・・はい」
目を瞑ったのを確認し、リズは踏みつけた足を戻す。
「今なら、殴るだけで許してあげるわ。降参しなさい」
「この状況でよく言えたな。見ろ、お前にやられた奴らは全員立ち上がっているんだ。多少、腕が立とうがBランク三人相手じゃ結果は目に見えているな。どうだ女。そこに跪き、俺の物になると誓うなら痛い目に遭わなくて済むぞ?」
「俺はこいつに頭を踏まれたんだ。最初は俺が貰うぜ」
「・・・はぁ。ほんと、クズね」
その言葉に逆上した男達はリズの体を掴もうとするが掴めず、その時自分達の手首から先が無い事に気付き悲鳴を上げる。
「な、何をしやがった。この女の命が惜しくないのか?」
「へぇ?」
リズは風の魔法で男を吹き飛ばし女性の元へと歩み寄る。
「周りの音も景色も見えない結界を張ったからもう目を開けて大丈夫よ」
女性は目を開け、慌てて状態を起こし開けた胸元を隠しお礼を告げる。
「もう少し待っていてね」
リズが結界から出た瞬間、男の回し蹴りが繰り出されるがリズはその足を掴み、足払いで転ばせたと同時に顔を踏みつける。藻掻く男を無視し魔法で四匹の蟲を作り出し、下に落とすと男は手首から先の無い腕で懸命に振り払おうとするが、抵抗も虚しく耳からの侵入を許してしまう。蟲は近くの二人の攻撃を躱し、口から侵入する。三人はリズの重力魔法によりその場から動けないようにされ。残る一人は剣に炎を纏わせ蟲を切り、霧散させる。それと同時に三人の悲鳴が上がる。
「女。体術や魔法、それに蟲まで使うとは何者だ?」
「私はあなた達を潰しに来た、ただの美人な魔法使いよ」
男は笑いながら返す。
「俺達を潰しにねぇ。俺達はAランクパーティーだぞ?それをお前が一人で?笑わせる。大人しく俺の女になれ。今なら、この事は不問にしてやる」
「はぁ。戦力差も分からない人に許されるつもりも、あなたのものになる気もないのだけど?私からすればあなた達は、路傍の石と変わらないわ。まぁ、あなたには他の三人よりも苦しい目に遭って、力の差を感じながら死になさい」
と先ほどよりも一回り小さい蟲を作り出し床に投げ、この蟲を倒せたら自分の体を好きにしても良いと付け加える。
男はその言葉に口元を歪ませ、蟲を切り刻む。
「小さくしたぐらいで何とかなると思ったか?残念だな。俺はAランクに近い実力を持っているんだよ」
剣を肩に置きながら歩む男にリズは溜息を吐く。
「そういう言葉は、終わってから言いなさい」
その言葉に振り返ると、蟲は刻んだ数だけ増えており数匹は足元に来ていた。
「くそっ!近づくな!」
と勢いよく踏み潰すが、太ももに違和感を感じた男は潰そうと掌を何度も振り下ろすが、焦りながら股間を押さえる。
「ま、待て!そこは・・・ぎゃぁぁぁぁぁ!」
蟲は押さえつける指を押し退けながら尿道へと侵入し、その激痛に男は座り込み自身が踏み潰した蟲達の残骸にふと目が行く、痛みに苦しみながら見ていると残骸が動き出しその数だけ形を成すとそのまま消えていく。
「入られたみたいね。さっきまでの蟲は性的興奮を覚えると激痛が走るだけで、去勢すれば取り除けるけども、あなたのそれはそれと排泄時にも激痛が走るわ。それを取り除く方法は二つ。私と同等以上の力を有する者に取ってもらうか、あなたが死ねば今の蟲達のように消えていくわ。そろそろ蟲があなたの中に居場所を見つけた頃だから、痛みも引いた頃でしょう?」
その言葉通り、男は痛みが引いて行くのを感じ、横に転がる剣を握りリズの足を切りつけようと薙ぐが、リズの体は陽炎のように揺らめき消える。
「大人しくしていれば苦しむ時間は少なくて済むのに」
リズは男達に本人にとって最も性的興奮を覚える幻覚を掛け、それと同時に痛みが快楽へと繋がるようにし、部屋には男達の悦びとも悲鳴とも言えない声が響く。リズは女性のいる結界の下に転移魔方陣を作り出す。
「もう大丈夫よ。さぁ、立ち上がって」
とリズは女性のいる結界に入り、そう声を掛ける。女性が恐る恐る立ち上がると、そこは先程までの部屋ではなく見た事のない部屋だった。驚く女性の後ろから男の声が聞こえる。
「り、リズ!もう終わったのか!?その娘は誰だ?」
そこは冒険者ギルド長の部屋だった。驚くクライスに事情を説明し、今から二時間後に出発して後処理をするように伝え、女性の事を頼み再び転移し先ほどの部屋へと戻る。
「あ、あの。ここは?それにあの方は一体?」
「まぁ、座ってくれ。ここは王都にある冒険者ギルドのギルド長室だ。俺はギルド長のクライス。あの女はリズ。お嬢さん名前は?」
クライスは女性がソファに座ったのを見て、自身に起こった事の顛末を聞く。
窓へと移動し、中庭を見ると、壊れた噴水の周りを五人の男女が集まっており、リズは噴水の水を操り周囲の全員の気管に水を送り、常に殆ど溺れた状態にし、呼吸が止まると解除され呼吸を開始すると再び溺れる状態にして悶える五人をそのままに部屋を出る。
(ここから一番近いのは、広間にいる五人ね。これは食堂かしら?)
探知魔法で向かい中に入るとそこは予想通りの食堂だった。リズが防音結界を張ったと同時に食事をしていた男女の一人が立ち上がり、リズに向かう。
「誰だお前は?先ほど噴水を壊した者の仲間か?」
「私はあなた達に罰を与えに来た者。仲間じゃなくて張本人よ。それに私一人だから仲間が来る事は無いから安心して」
「罰を与えに?お前が一人で?そんな言葉で油断するとでも思っているのか?」
その言葉に男は抜剣し、それを見ていたもう一人の男は椅子から立ち上がり、同じく抜剣しながら近づく。魔法使いと思しき二人の男女は青ざめた表情で部屋の隅へと移動し、残る一人は意に介さず黙々と食事を続けていた。
(どうやらあの二人の魔法使いは、何かを察して私に敵わない事を悟ったみたいね。ただ、あの男・・・この状況で一瞥もくれず食事を続けるとか色々とおかしいわね)
「よそ見するとは余裕だな」
男達の剣が振り下ろされた瞬間、剣は何かによって粉々に砕け、男たちは驚きの表情を浮かべる。リズは男達に視線を移し、二人の鳩尾に掌を当てる。その瞬間、男たちは吹き飛び食卓にぶつかる。
「あなたはこの状況でまだ食べ続けるのかしら?」
その言葉に男の手は止まり、魔法使い達を見る。
「お前たちが協力すれば、魔法使いの一人ぐらいは容易いだろう?早く片付けろ」
「す、すみませんグラド様」
魔法使い達はそう言いながら、慌てて立ち上がる男達の元へと走り強化魔法を掛け、二人に魔法で作られた剣を渡す。グラドへと歩き出すリズに二人の戦士の斬撃が襲い掛かるが、その攻撃は空を切り二人は驚き振り向くと、そこには倒れ込む二人の魔法使いとリズの姿があった。男達が切りかかろうとすると、リズの姿は音もなく消えグラドの肩に手を置きながら皿に乗っているステーキを一切れ食べ、まぁまぁね、と言った。
「ば、ばかっ!グラドさんの皿に手を付けるとか死ぬぞ」
戦士の言葉は時すでに遅く、グラドはナイフでリズを切りつける。その斬撃は天井を切り裂き、そこからは青空が見える。
「なかなかやるじゃない。さすが竜殺しを単騎で為すだけの事はあるわね。そんな食器でここまでの力が出せるんですもの。でも、二階ごと切り裂かれたら防音結界の意味がないじゃない」
「今のを避けられるとは。貴様、ただの魔法使いではないな?それより、俺の事を知った上で食事の邪魔をしたんだ。死ぬ覚悟は出来ているのだろうな?」
グラドは立ち上がり、傍らに置いていた魔剣ソーサリオンを抜剣する。
「いえ?あなたの事なんて今知ったばかりだけど?あなたに触れ、あなたの記憶を読み取っただけだもの。それに、そんな玩具を使った所で遅い斬撃に変わりはないじゃない。まぁ、私は何でも出来る上に美人な魔法使いだから、あなた程度には負ける事はないけど」
「・・・そうか。ならば死ね」
グラドは自身と他の四人の魔力を魔剣に吸わせる。魔剣は徐々に赤黒く光を放ち出す。
「何それ。人の魔力を使わないと使えない武器なんて使っているの?まさか竜を倒した時もそうしたのかな?」
そう笑うリズにグラドは魔剣を振り下ろす。その速度はかつて神速と呼ばれたサイスに匹敵し、魔力も上乗せされたその斬撃は凄まじく、グラドの前方の全てを吹き飛ばしながら壁に激突するが、その威力は悉く結界へと呑み込まれていく。
「だから遅い斬撃が多少早くなっても、遅い事に変わりは無いって言ったじゃない。それと、結界は補強してこの部屋にしか影響無いようにしたから」
リズは斬撃を振り下ろされている刹那に、結界に衝撃吸収を上乗せし自身はグラドの後ろに座り、そう言う。
グラドは驚きつつも、魔剣に宿る魔力の放出を押さえ、凝縮させ魔剣と自身を覆う。
「ならば我が全力を受けてみろ」
グラドの速度と力は先程とは段違いに向上し、その連撃はサイスの速度を凌駕していた。
「へぇ。少しは早くなったわね」
全て紙一重で避けるリズだが二人の戦士の目には、リズ達がゆらゆらと動いている様にしか見えなかった。
「そろそろ終わりにしてもいいかしら?」
「出来るものならやってみろ」
と、更に速度を上げた剣がドンと大きな音を立て、リズの頭蓋を叩き割れるとグラドが確信した次の瞬間。剣は止まり、グラドの顔は見る見るうちに驚きと恐怖に染まる。
「人の身で音速を超えるなんて凄いじゃない。それでも、その剣の性能は引き出せていないけれどね」
リズは魔剣ソーサリオンを二本の指で止めたままグラドの胸に掌を当て、吹き飛ばす。
「ぐはっ。くっ、俺がこの剣の性能を引き出せていないだと?たかだか魔法使いの分際で何が分かる」
「分かるわよ、作ったのは私だし」
「笑えない冗談だな。その剣が出来たのは500年前と言われているのだぞ?どう見てもまだ20代の娘が作れるわけがないだろう?」
その言葉にリズは笑みを浮かべる。
「正確には534年前よ。それより、あなたは食に困っている訳でもないのに食べるためだけに人を襲い、また、人に影響のない所で暮らす大人しい魔物達を殺したわね?」
「何故そこまで正確に知っているのかは分からんが、食べるために殺す事の何が悪い?」
「・・・私も生きるために殺す事もあるし、逆に襲ってきたから殺すというのは分かるわ。けれども、あなたの行動はただの自己満足に過ぎない。まぁ、さっきのどう見ても20代って言葉は素直に嬉しかったし、特別に選ばせてあげる。あなたがしてきた事を、その身に受けながら死ぬのか、それともこの魔剣の力で魂ごと消滅するのかを」
魔剣の切っ先を向けられながらグラドは不敵に笑い、残る全魔力を見に纏いリズに襲い掛かる。
「どちらもごめんだな」
グラドは素早く背後に回り込み蹴りを繰り出す。その速度は最早、人の領域を外れグラドの全身に骨が軋む音、筋肉と血管が千切れる音が響く。
(剣が使えないからと油断したな。俺は元格闘家、素手でも強いんだよ。このまま蹴り殺してやる。いける。これは俺の人生で最速の一撃になる。死ね女!)
だが、その蹴りは空を切り、体勢を崩したグラドは倒れる。グラドは立ち上がろうと力を入れるが、うまく立ち上がれずその場に再び倒れる。
(ぐっ。全身の骨と筋肉が潰れたか・・・見たところ一歩も動いていないのに何故こいつに)
「何故自分の蹴りが当たらないのか?かな?」
考えを読まれたグラドは歯軋りをし、笑顔で振り向くリズを睨みつける。
「これなーんだ?」
と目の前に投げられる見慣れたそれを見て、グラドは自分の足に目をやる。そこには膝から下の無い足があった。
「あり得ない。一体いつだ!」
「あなたの蹴りが私に当たる直前に剣を振り上げただけよ」
「バカな!お前は後ろ向きであの速度の俺よりも早く切ったというのか?」
「私は体柔らかいし、何よりあの程度の速度私には止まって見えるわ」
とリズは魔剣を床に突き刺し、周囲に魔方陣を展開する。魔方陣から餓鬼と呼ばれる悪食の地獄の亡者達を召喚し、グラドには欠損した部分ですら即座に回復出来るほどの強力な回復魔法を永続的に続くようにし、餓鬼達はグラドの体に無我夢中で噛り付く。グラドは抗おうと出来る限りの攻撃を加えるが、攻撃後の一瞬の隙に腕を取られ齧られる。グラドの魔力は既に底を突き、唯々喰われる激痛に身をよじる事しか出来なかった。
「どう?理不尽に食べられる感想は?因みに、あなたが解放されるのはその子達が満足するか、あなたがその子達を全て殺すかの二つしか無いわ。その子達が満足する事は無いから殺すしかないけれども、これから行く所はもっといるし武器もなく回復した魔力でどれだけ抗えるのかしらね」
魔方陣は光を放ち、餓鬼達に喰われながら沈んでいくグラドは、喉元を喰われながら再生した右手をリズに伸ばすも餓鬼によりへし折られ喰われる。
「その先は地獄。その子達が元居た場所よ。そこでもエゴを通して御覧なさい」
涙を流しながら沈むグラドにそう言い、魔方陣が消えると振り向き四人を見る。尻餅をつきながら涙を流し震える二人の戦士はとうとう次は自分の番かと目を見開く。リズは気絶したままの二人の魔法使いを魔法で起こし、消費した分の魔力を分け与える。
「あなた達はさっきの男に無理やり従わされていただけの様だから、軽めにしてあげる。無理矢理とはいえ、少しは楽しんだのだから罰は受けなきゃね」
目を覚ました魔法使い達は目の前に立つリズに気付き、座りながら後退るも自身に漲る力に驚き互いの顔を見合わす。
「少し与えすぎたかしら?まぁいいわ。あなた達には魔法力を上げる魔法を掛けてあげるわ。それじゃあ、あなた達への罰は鬼退治よ」
リズの横に小さな魔方陣が現れ、そこから餓鬼が現れる。戦士達は恐怖に立ち上がれず、魔法使いは戦士達に強化魔法を掛ける。普段よりも効果が高かったのか、戦士達は驚きの表情で魔法使い達を見る。
「君達魔法使いは気絶して知らないだろうから教えてあげるよ。この子は地獄の住人で餓鬼という。常に空腹でどれだけ食べても満たされない悲しい鬼よ。そんなこの子を今から解放してあなた達を襲わせる。あなた達が助かる方法は一つだけ。この子を殺すこと。無論、それが出来なければあなた達は喰い殺される。なーに。一匹だけだし簡単でしょ?それより、座ったままで良いのかい?」
リズの言葉に戦士二人は慌てて立ち上がり剣を構える。それと同時に餓鬼は解放され戦士達を襲う。
「この子をランクで表すとしたらAよ。Bランクのあなた達でも何とか出来るわ。頑張ってね」
と食堂を後にし、未だ動かない五つの反応がある部屋の前に着くと、リズはパチンと指を鳴らす。すると、全ての防音結界が消え食堂からは争う声が、二階からは悦びとも悲鳴とも言えない声が響いてくる。扉を開け、中に入るとそこにいる全員がこちらを睨みつけ立ち上がる。
(ここは応接間みたいなものかしら?・・・ふーん。全員は一応Aランク相当の力を持っていて、マールはSランク相当の実力はありそうね)
「お姉ちゃん。どうやって音もなく忍び込めたのかは知らないが、相手が悪かったな。お姉ちゃんの目的はなんだ?」
リズは質問には答えず笑顔で問う。
「大人しく投降すれば、マール以外は殺さずにおくわよ?」
その言葉に男達は声を上げて笑う。
「お姉ちゃん。一体何人で来ているのかは知らないが、あんな雑魚共と俺達を一緒に考えていたら痛い目に遭うぜ?お姉ちゃんこそ大人しく投降しな。命だけは助けてやるからよ。まぁ、俺達が満足するまで付き合ってもらう事にはなるけどな」
賢者の男の言葉に男達は再び笑う。
「はぁ。さっきの魔法使いの子達は彼我の差を理解して逃げようとしていたけれど、あなたは分からないのね」
「確かにお前はそこそこ強いのだろう。だがな。魔法を発動する前にこの場にいる接近戦のプロがお前を攻撃すれば、なす術もあるまい。俺はその間にゆっくりと、貴様を捉える魔法を発動すれば良いだけだ」
「浅はかな考えね。マール、あなたは私の事を知っているのでしょう?今の意見はどう思うのかしら?」
その言葉にマールはにやりと笑う。
「勿論知っているさ、元勇者パーティーの魔法使いリズ。俺はお前を初めて見た時から犯したくて仕方がなかったんだ。いかにお前が優れていようと、全方位からの攻撃にはシールド展開をし続けるしかないだろう。だがそれも時間の問題だ。その後はたっぷりと可愛がって俺の性奴隷にした後は、お前の威光を使って楽しい余生を過ごさせてもらうとしよう」
とマールが右手を前に向けると、賢者以外の三人はリズの左右と背後に回り、賢者は詠唱を始める。
「・・・そう。折角死なずに済んだのに・・・ならあなた達は楽には死ねないわよ?」
右からはクレイモアを振り下ろす戦士が、左からは短剣を持ったシーフが、後ろからはレンジャーの弓が飛び、前からは魔法戦士であるマールの雷が襲い来る。金属音が響き、魔法はかき消されリズの防御結界に驚く戦士。
「ぐっ・・・。なんて堅さだ。これなら竜の鱗の方が数倍柔らかいぞ」
戦士の言葉にマールは驚きの声を上げる。
「結界だと?先ほどまでは張っていなかったではないか!土壇場で張ったとはいえ、俺の魔法まで防ぐとはあり得ん!貴様、何かしらの呪具を装備しているな?」
溜息を吐きリズは答える。
「何を言い出すのかと思えば、呪具?あんなものに頼らなくても、あなた達程度の攻撃なんて簡単に防げるわよ。今は四方からの攻撃だったから、動かずに済むようにしただけ。直ぐに終わったらつまらないでしょう?疑うのならそこの大剣持ちに目一杯強化魔法掛けて、全力の一撃でも出してみたら?結界も強化も使わずに防いであげるわよ?」
「面白い。その挑発に乗ってやる。だが、途中で避ける事もあり得るから二人にも同じだけ掛けてその女が避けそうなら攻撃を加えろ。お前も念のために攻撃魔法を詠唱しておけ。」
とマールは賢者に目配せする。
「それで気が済むならやりなさい。それがあなた達の最期の攻撃になるかもしれないから、悔いなきように」
(と言ったものの、全員で攻撃を仕掛けてくるのでしょうね。服が破れなければ良いのだけれど)
はぁ、と溜息を吐いている間に準備が出来たマールは、ニヤッと笑いながらリズを見る。
「死んでも安心しな。秘薬で蘇らせてやるからよ。まぁ、少しだけ脳をいじるが」
戦士の魔力と気が融合した力が剣を覆う。その技は剣を扱うものとしての最高位の力と呼ばれるもので、融合率が高ければ世界最硬度を誇る鉱石オリハルコンにも傷を付けられると言われていた。
「見事な魔技ね。もう少し人並みに欲を抑えられたなら、あなたは歴史に名を刻めたのかも知れないわよ?まぁ、今となってはもう遅いかも知れないけど」
「名など必要ない。我が奥義をくらうがいい、天地剣!」
リズはそれを受け止めようと右手を上げたその刹那、黒き鎖が身体を縛り付け左右からシーフとレンジャーの攻撃が襲い掛かる。
リズはクレイモアを受け止めるが、手足と脇腹を弓が貫き、数瞬遅れで左胸と背中を短剣が貫く。
「・・・もう終わりかしら?なら、次は私の番ね」
リズはニヤッと口元を歪ませ、クレイモアを握りつぶし、驚きの表情を浮かべる戦士の体を蹴り飛ばす。それと同時に鎖は千切れ、霧散する。そして矢と短剣を引き抜き二人に同じ箇所を貫く様に追尾魔法を掛け、賢者には同じ魔法を掛け拘束する。が、その瞬間シーフは倒れ絶命した。
「あー、そう言えば、あなただけは心臓を貫いていたわね」
とシーフの頬に手を触れ、魔法で蘇らせる。シーフが目を開けると、そこには太った色欲に溺れた醜い男が下卑た笑いを浮かべて跨っていた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら近くに落ちていた短剣を男に突き刺すシーフだが、その顔は恐怖と驚愕に歪み何度も短剣を突き刺す。男はそれをものともせず、血まみれになりながらシーフの体を弄る。
「あなたは今まで、そういう人から色仕掛けで油断させ金品を奪ってきたのでしょう?なら、最後はその体を使わせてあげなさい。あなたの心が疲弊したらそれまでの記憶は消去されるから、常に新鮮な気持ちで相手が出来るわよ。嬉しいでしょう?最初と最後が実父で。まぁ、それは亡霊だけど」
その光景にマールと賢者は言葉を失う。
(何だ今のは?リズが立ち上がったと同時に男が実体化して襲いだしただと?そんな魔法は聞いたことも見た事もない)
賢者はその異質な力に背筋が凍り付く。
背後から頭を目掛けて放たれた矢が、リズを狙うがリズはそれを後ろ向きのまま首を傾けるだけで避け、迫りくる矢を全て紙一重で避けながら振り返る。
「ば、化け物」
「化け物だなんて随分な言い方ね。そんな卑怯な方法で今まで気にいらない人を殺してきたのかしら?」
「だったら何?ぐっ、突然耳から何かが」
とレンジャーは左耳を押さえながら片膝を付く。
「ただの蟲よ。あなたはこれからその蟲のおかげで、どんな激痛も気絶することなく感じながら死ねるわ。まぁ、その蟲がいる場所は勝手に修復してくれるから簡単には死ねないけど。死ぬならまだ増殖せずにいる今だけなのだけど、ここには蘇生させられる私がいるから結局死ねないわね」
レンジャーは激痛に耳を押さえ、叫ぶがリズはまるで滑稽なものを見ているかのように、くすくすと笑う。
「その激痛は増殖するためにあなたの体の一部を食べている所よ。良かったわね。ちなみに、あなたが死ぬときは、その蟲達が死ぬとき。それまでは大好きな死角からの攻撃と戯れていなさい」
その時、ギンとリズの頭上で金属音が響く。
「なっ!防御魔法だと!?」
奇襲をしかけたマールは、リズが常時張っている防御魔法に自身の攻撃を遮られ驚きの表情を浮かべ、距離を取る。戦士の攻撃を受けた後に張り直した結界は規格外のもので、常時この強度の結界を覆うとなると、高位の魔法使いでも体から精々1メートル程を覆うのが限界と言われているが、リズの結界は体からほんの1センチ程を覆っている。これは、常に強大で膨大な量の魔力をミリ単位で放出し続けている状態だった。それを悟った魔法の心得のあるマールと賢者の戦意を削ぐには十分なものだった。
「どこに行くの?」
その場から逃げ出そうとするマールの体を、赤黒く染まった鎖が巻き付き身動きの出来ない状態にする。
「あなたは最後よ。そこで大人しく待っていなさい」
許しを請い叫ぶマールを無視し、リズは賢者の元に歩き出す。
「あ、あの鎖は神をも捕らえると言われる伝説の鎖では?」
「よく知っているわね。昔、生意気な神を教育するために作ったのだけど、これも伝わっているのね」
「作った?それが本当なら、あなたは数千年生きている事になるぞ?」
そうね、とリズは笑顔で賢者の腹部に蹴りを入れる。賢者は自身の鎖に縛られ倒れる事も許されず、吐血をする。
「その鎖は相手の魔力を封じ込めるものだから、あなたには効果覿面ね。おかげで、各地で捕まえた魔物達も解放できないみたいで残念ね。まぁ、したところで私には通じないけれど。でも、その程度の事を想定も出来ず打開も出来ないようでは賢者って職業には不釣り合いね。あなたには愚者がお似合いよ」
と雷撃を浴びせる。
「ちゃんと死なない程度にしたから安心しなさい。それと、冥土の土産に教えてあげる。私は不老。今までの生で死にかけた事は何度もあったけれど、その殆どは歴代の魔王や神と呼ばれる者。その中で私は、死なない術を見つけたから私を殺したいのならば、それを破るしかないわ」
リズは倒れた椅子を起こし、座る。
「私はお前達の様に自分の快楽の為だけに弱者を虐げるものを見ると虫唾が走る。私がここにいる発端は二年前の冬。不滅の旗を壊滅させたのは私だ、マール。あの村の惨状を見た私はお前と、自身の意思でお前に加担するものを全て殺すと決めた。そして、お前達に触れ記憶を読み取った私はお前達には断罪が必要だと判断した。私は神ではない。これは単に私の私情だ、故にその裁量は私が決める。お前達に下す罰は苦痛を伴う死」
その言葉にマールは避けられない死に閉口し、賢者は懺悔の言葉と二度としない事を誓う。
「・・・それなら、証明しなさい」
賢者はリズに掛けられた幻覚魔法により、初めは抗う表情を浮かべていたが、やがて欲に忠実な発言をしだす。リズは賢者の拘束を解き、欲望の矛先をレンジャーに向け、更に欲望に従う程に全身を激痛が駆け巡るようにした。
「ぐっ、はぁはぁ。女、女だ。はははは」
痛みに顔を歪ませながらもレンジャーに向かい走り出し、少し痛みが落ち着いたレンジャーは身の危険を感じ、残る一本の矢で賢者の太ももを撃ち抜く。賢者は倒れ込み、その瞬間欲望が消え去り抱いた欲望に比例する痛みが全身を駆ける。賢者は魔法で治癒し駆けだすが、リズに掛けられた魔法の内容は欲が消えたと同時に変異し、死が訪れるまで体中を激痛が駆け巡るようになっていた。
「ぐっ。何故痛みが消えない」
賢者はそう言いながらも、激痛に蹲るレンジャーに近づき、自身に刺さった矢を引き抜きこれで心臓を貫いてくれと懇願する。
受け取ったレンジャーはそれを数瞬見て、自身の喉に突き刺し倒れるが数秒後、傷口を修復し突き刺さった矢を外に出す為自分ごと外に出た蟲を見てレンジャーはニヤリと笑い、蟲が付いたままの矢を賢者の腹部に突き刺す。
「あなただけ楽にはしないわよ。ぐっ」
とレンジャーは倒れた賢者に向かいそう言い、再び襲う激痛に膝を付く。
「ぐっ。一体何を・・・ぐぁぁぁぁ!はぁはぁ。ならば、覚悟を決めて自分に突き刺すことにしよう」
と賢者は矢に貫通の力を付与し、自身の首に勢いよく突き刺すとその衝撃で倒れ込む。
「なんで首にいくのよ!心臓を刺しなさいよ!そしたら間に合ったかもしれないのに!」
そう憤るレンジャーの前で、賢者の首に刺さった矢がもぞもぞと動き出し中から蟲が現れ、矢を排出し蟲は口から体内へと戻る。
「あっはっはっは。そうよ。それを待っていたの。間に合って良かったわ。いつも偉そうにしているからそうなるのよ」
レンジャーは高笑いをしながら賢者を蹴りつける。
「あの使い方に気付いてそれを仲間に躊躇なく使うなんて、惨いわね。ねぇ?そう思わない?」
とリズは恐怖で引き攣るマールの頬を指でなぞる。
「何その顔?まさか怖いの」
「笑ってないで、さっさと殺せ!」
リズの顔から笑みが消え、殺気を含めマールを睨みつける。
「さっさと殺せ?お前はその言葉を言った人を長時間に渡りいたぶり、殺して来たのに?そのお前が楽に死ねるとでも?お前だけは楽には殺さない」
呼吸を忘れ、目を見開きながら涙を流し、小便を漏らすマール。それを見たリズは微笑み、魔法で一滴残らず取り出しマールの口に注ぐ。
「汚しちゃだめじゃない。ちゃんと責任もって飲み干しなさい。これから先、あなたが出した物は全て口から体内へと戻るのだから、今のうちに慣れておきなさい」
そう言い、マールの拘束を解く。その瞬間マールは瞬時に魔力を剣に纏わせ、気を練り身体能力の向上を図りそのままリズの腹部を突き刺し、勢いを止めず何度も高速の突きを繰り出しリズの体は所々穴が開き、蹴りを入れ吹き飛ばす。
「はぁはぁはぁ」
マールは肩で息をし、その場を離れようと走り出すがその直後、肩を掴まれる。恐る恐る視線をそちらに移すと、それは吹き飛ばされ三本しか指がない手だった。マールは叫びながら振り払おうと動き、逃げ出そうとするがその力は凄まじく固定されたように動かなかった。
「どこに行くのかしら?まだ私は死んでいないわよ?」
その言葉に振り向くとそこには、頭の上半分が吹き飛ばされ笑みを浮かべるリズがいた。
「この程度の攻撃では、私の体をいくら吹き飛ばしても同じよ」
そう言いながらも、その体は見る見るうちに再生していく。その様子にマールはどうやっても逃れる事が出来ない事を悟り、抗う事を諦める。
「ぐあっ」
肩から鈍い音が聞こえ、痛みにマールは短く叫ぶ。リズは微笑を浮かべ、再生した手で握りつぶし変形した肩から手を放す。その瞬間、マールは潰された肩を押さえながらその場に蹲る。
「そんな簡単に諦めちゃだめよ?あなたが散々言ってきた言葉じゃない」
マールの脳裏には、簡単に諦めるなと言いながら弱者を虐げてきた日々が甦る。
「もう・・・許してください」
最早、マールに出来る事は許しを請う事だけだった。今までそうしてきた人達を嘲笑い、一層虐げてきた事を思い出しても自身にはそうする事しか出来なかった。
(俺は今までこんな気持ちにさせ、許すこともせず欲に溺れ、犯し、奪い、殺してきたのか。もし、許されるのならばこれからの人生は懺悔と贖罪に費やそう)
「そんな事を心で思っていれば、何とかなると思ったの?無駄よ」
リズはそう言い、呆れながらマールの頭を踏みつける。床にはヒビが走り、ヒビはマールの血で赤く染まる。
「仮に、その言葉が本心だとしても許す事は無いわよ?さっき言ったでしょ?これは私の私情だって。・・・そうだ、良い事思いついた」
とリズはワームの様に細長い体の蟲を二匹作り出し、マールの顔面を蹴り飛ばす。仰向けに倒れたマールの股間に蟲を投げる。マールは青ざめた顔で振り落とそうとするが、蟲はびくともせずズボンの中に入ろうとするが、マールは蟲を掴み阻止を試みるが蟲の勢いは尚も止まらず、侵入を許してしまう。
「片手じゃ無理よ。その子達はあなたの為に特別に作ったのだもの。魔物ランクで言えばA以上の力を有しているわ。そうね、その子達を止めるのならさっきの剣士の天地剣でも使わないと無理よ」
「ぐあぁぁ」
突如、マールの尿道と肛門に激痛が走る。蟲達は口の中に全方位に生えた小さく鋭い歯を使い、回転しながらマールの中を掘り進む。
「あぁぁぁぁぁ!」
マールは涎を垂らし、泣き叫ぶ。
「後は掃除ね」
マールに一瞥し、リズは新たに蟲を作り出しマールの体から出た全てを口に運ぶように命じ、魔方陣をマールの下に作る。
「体内に入った蟲は回復と再生をしてくれるから死なないし安心して。それと、その先は時間の進みがこちらと違って、そっちの10年が大体こっちの一か月程だから長く楽しめるわ。精々自分の寿命が短い事を祈りなさい」
「た、たすけ・・・」
魔方陣ごと消えたマールを見て、恐怖に引き攣る三人には目もくれずリズは自身の蹴りで気を失っている戦士の元へと歩を進める。
(この男はマールの卑劣な罠により敗北し、理性の箍が外れる呪いの掛かったクレイモアを無理やり装備させられ、人の為に戦うという道から落とされた。でも、元凶を砕いても今までの行いの記憶は消えない。目を覚ました時、未だ欲に溺れているのかそれとも)
リズは右手を翳し、戦士の眠りから覚ます。
二時間後。クライス達ギルドメンバーが到着すると、驚愕と恐怖の表情を浮かべる。
「ぎ、ギルド長。これは一体」
「何があったのかは分からんが、とりあえず彼らが殲滅の刃の一員なのか照合しろ。俺達は先に中を確認してくる」
クライスは壊れた噴水の周りにある死体に目を向け、部下を連れ屋敷の中へと入る。
(一人は首を切られた跡があるが、あれは同士討ちの様だった。幻覚でも見せられたか?)
これは後に、リズ曰く首を切る事で水を出そうと考えたがそれでも状況は変わらず、互いの命を終わらせる事で苦しみから解放されたかったのだろうと推測された。
一回を隈なく探し、応接間に入るとクライス達は驚き固まる。
(これは一体どういう状況だ)
そこには、炎に身を包み倒れる賢者とそれを呻きながら見つめるレンジャーと無感情に太った男に犯され、突然意識を取り戻した様に泣き叫びながら手にした短剣で男を突き刺すシーフがいた。
「ねぇ、あなた達!この男をどうにかして!」
クライス達に気付いたシーフはそう叫ぶ。その言葉にギルド員は駆け寄ろうとするが、クライスに止められる。
「待て、俺が行く。お前達はこいつらがメンバ―なのかどうかを確認しろ。但し、襲い掛かって来るかも知れんから気を付けろよ」
クライスはシーフの近くで屈み、シーフだけに聞こえる声で話す。
「リズは何と言ってお前にこれを施した?」
「最後ぐらいはこの体を使わせろと」
「・・・そうか。それならお前の最期は衰弱死なのだろうな。悪いが俺にはリズの魔法を解く術がない。あいつがこの罰を選んだのだ、きっとお前は今まで似たような事をして弱者を甚振ってきたのだろうな」
「そんな!じゃあ、私はこいつに犯されながら死ぬというの!?」
「・・・恐らくだが、もう一つある・・・だがこれは・・・」
「言って!お願い教えて!私に出来る事なら何でもするから!」
クライスは少し考え意を決したように話す。
「分かった。だが、その前に教えろ。お前達のギルドに登録している数は19人だが実際の数は?」
「その通りよ。早く教えて」
「その全てはこの屋敷にいたのか?リーダーのマールはどこだ?」
「そうね。ここにいるので全てよ。マールはあの女がどこかに転移させていたわ。確か、向こうの10年がこっちの1か月とか言っていた気がするわね。これで聞きたいことは終わり?早く・・・おし・・・えて・・・・」
男の動きが早くなり、動きが止まり少しすると再び腰を振りだす。
「恐らくだが、死ねば解放されると思うぞ」
とクライスは立ち上がり、賢者達の方へと歩く。後ろから短い呻き声が聞こえたが振り向かず部下たちに指示を出す。
「とりあえずその二人には拘束魔法を掛けて気を付けて馬車に運べ。他の者は俺と一緒に他の部屋を探すぞ」
焼死体になっていた賢者は部下達の水魔法で鎮火され、焼け焦げた体は見る見るうちに再生され服が燃えただけで傷一つない状態だった。
「あ、あの。ギルド長。その。あの女性は?」
「自殺した。一応脈を取り運んでおけ」
クライスはシーフに一瞥もくれず部屋を出る。シーフは苦しみから解放されたように、安堵の笑みを浮かべていた。
2階のとある一室。扉の向こうからは数人の呻き声が漏れていた。クライスはゆっくりと扉を開けるとそこには恍惚とも苦悶とも言えない微妙な表情を浮かべ、涎を垂らしながら倒れる男達がいた。
「・・・連れていけ」
数分後。
「これで全ての部屋を見られたか?部外者はいたか?」
「いえ。全て殲滅の刃のメンバーでした。ですが」
「マールはいなかった・・・か?」
「それと、剣鬼シンの姿も確認が取れていません」
「マールは既に倒されていたようだ。自殺した女がそう語っていた。今頃は魔物の餌にでもなっているだろう。後はシンの行方か」
(あの時、あの女に全員の確認を取ってから教えるべきだったか。こういう詰めの甘さがいつまでもリズに怒られる要因の一つなのだろうな)
クライスが考え込んでいると、部下の一人が不安げに話す。
「どうされますか?」
(いかん。俺が不安を煽る行動を取ってどうする!)
「シンの事は準備を整えてから探す事にして、とりあえず今日はこのまま、王城へと出向き事の顛末と彼らの処遇を決めてもらおう」
とクライスは部下達と共に王城へと向かう。




