あの月の下で私と踊って(お義兄様と私の物語)08
ジュリアーノが2歳になった時
大公国で原因不明の風邪が流行し始めた
最初は喉の痛みから始まり高熱が4日〜5日続いた後 快方に進む者もいる一方 まれに意識不明になりそのまま亡くなる者もいた
感染力が高く街中に患者が溢れた
プルヴィア医師は毎日何人もの患者を診ていた
特効薬が開発されてなく
解熱剤で熱を下げるしか治療法がなかった
医師であるプルヴィアは昼夜問わず患者と向き合っていた
激務の中 1ヶ月は邸には戻れていない
(マリエッタとジュリアーノに会いたい
中々手紙も書けていないな 時々 邸の様子を知らせに執事がやってくる 今度マリエッタ手製のミートパイを頼もうかな)
それから間もなくして彼もまた原因不明の風邪に罹患してしまったのだ
いきなり高熱が出た 熱は下がらず 解熱剤もあまり効かなかった すでに5日経っていた ようやく熱が下り始め経過は良く もう少しで回復するだろうと思われていた矢先 いきなり意識を失ってしまった また高熱が出たのだ
それからはあっといつ間だったプルヴィアはベッドから起き上がる事なく病院で静かに息を引き取った
プルヴィアの危篤の知らせがマリエッタの元に届いたのは もうすでにプルヴィアが亡くなった後だった
伝染るからと面会を止められていたマリエッタは酷く後悔した
(止められてでも会いに行くべきだったわ)
自分を責めた
棺に入って冷たくなった夫の姿を見てもまだ信じられなかった
夫を呆気なく亡くしたマリエッタは泣く暇も無く淡々と葬儀を執り行った
葬儀が終わり教会から邸に戻ってきたマリエッタは1人部屋の中にいた
(疲れたわ…
まだ信じられない
ヴィア様かいないなんて嘘に決まってる 明日にでも私の元に帰ってきてジュリアーノを抱き上げ
「ただいま マリエッタ ジュリアーノはひと月で少し重くなったかな?」と笑ってくれるに決まってる)
暫くソファーに座ったままそんな考えが浮かんでいたが着替えようと立ち上がった途端 黒い礼服を着ている自分の姿が鏡に映った
(ああ ヴィア様の葬儀が終わったんだ 優しかったヴィア様は私の前からいなくなったんだわ 私とジュリアーノを残して)
今更ながら実感した
その途端 葬儀のときは流れなかった涙がハラハラと黒い礼服に落ちていった
(神様どうして? ヴィア様を返して下さい お願いします)
プルヴィアが亡くなって間もなく義弟のスポルトがやってきた
「義姉さん 兄さんの葬儀大変だったね すぐにこんな話をするのは恐縮なんだけどカッシュ伯爵家を僕が継ぐよ」
「そうね ジュリアーノはまだ幼いし」
「義姉さんはそのままここに住むといい ジュリアーノと一緒に ジュリアーノが成人したら伯爵の地位を譲るよ」
「そう言ってくれてありがとう でもね ヴィア様の思い出が沢山残るこの屋敷で過ごすのは辛いわ いずれ私はジュリアーノを連れて故郷のグランドル王国へ帰りたいと思ってるの」
「そうか 決意は固いんだね 解った 義姉さんの人生だもの 思う通りに生きていくべきだよ
でもね 向こうで辛い目にあったらいつでも帰ってきていいからね この屋敷はそのままにしておくよ この国は義姉さんの第2の故郷だろう?」
「そうね 私の人生だものね 尊重してくれてありがとう」
プルヴィアが亡くなって1年後 マリエッタは幼いジュリアーノとともにグランドルへ帰国した




