あの月の下で私と踊って(お義兄様と私の物語)38
(お義兄様あのメッセージカード読んでくれたかしら?赤い薔薇の色の意味も分かってくれた?)
1日中ソワソワして落ち着かなかった 日が沈み夜も更けてきた
(さあ中庭で待ってよう)
明るい十六夜の月の元 オランジェは中庭のベンチに座って眩しい月を見上げていた
今夜のドレスは大人びた艶のある漆黒 襟元や袖や裾にレースが使われ同じ黒の大きなリボンが腰の後ろについている
ジュリアーノの瞳の色
(ドキドキが止まらない
練習してきた言葉
〘この月の下で私とワルツを踊ってください お義兄様〙)
何度も繰り返し呟く
「待たせたかい?ラン」
背後から声がした
騎士の正装服を身に着け髪をダークオレンジの組紐で纏めている
ジュリアーノが中庭にやってきた
「お義兄様 来てくれたのね」
「ランのお誘いを断るなんてできるわけがないじゃないか赤い薔薇もありがとう」
「騎士のお姿とても素敵だわ 良く似合っている 私はお義兄様の騎士姿とても好きなの 嬉しい」
「ランも黒いドレスが良く似合っているよ どこから見ても美しい令嬢だ」
「お義兄様の髪 オレンジの組紐で纏められるのね もしかして それは私が差し上げた組紐?」
「そうだよ 大切に仕舞って 特別の時にしか使ってなかったんだよ
今夜は特別な日だからね」
ベンチに2人で座り十六夜の月を眺めた
「ラン 今夜は月がとても綺麗だね 僕は十五夜の満月より十六夜の少しだけ欠けた月の方が好きだな」
オランジェはドキドキする鼓動を落ちつかせようとフーッと息を吐きジュリアーノの顔を直視した
「ジュノ義兄様 この十六夜の月の下で私とワルツを踊って下さいっ」
少し間があって
「ラン 踊る?ワルツ踊れるの?いつの間に踊れるようになったの?」ジュリアーノは凄く驚いた顔でオランジェの顔を見つめた
「お義兄様とどうしても踊りたくてスポルト先生のお邸でレッスンを受けました 今のところワルツしか踊れませんけれど」
「ラン 僕と踊ってくれるの?」
「お義兄様 もう一度言ってもいいですか?
この十六夜の月の下で私とワルツを踊って下さい」
「勿論だよ 喜んで 相手させてもらうよ」
お辞儀をしジュリアーノの右手がオランジェの腰を支え オランジェの左手がジュリアーノの腕に添えられた
もう片方の手は重なり 2人の華麗なワルツが始まった
苦手だったスピンターンもきまり
オランジェの黒いドレスの裾がふわりと舞う
ジュリアーノの騎士服の長い裾が揺れた
とても可憐なワルツだった
夢の様な時間はまたたく間に過ぎていく 名残惜しげに組んでいた手が自然に離れてしまった
ダンスが終わり一礼する
(上手く踊れたかしら? 【月の雫のファーブラ】のように瞳と同じ色の靴じゃないけれど… お義兄様と踊る事ができた これで思い残すことはない この夜を永遠に忘れる事はない 初恋は叶わなかった) そう思うと涙が一雫落ちた
「どうしたの?ラン 泣いている?」
「大丈夫です上手く踊れて感動しているだけですから」
ジュリアーノが真剣な顔で思いがけない言葉を言った
「ランよく聞いてね いいかい?
この靴を履いて 十六夜の月の下で僕とワルツを踊って下さい」
ジュリアーノは靴屋のショーケースに飾られていたダークオレンジの靴を差出し跪いた
驚くオランジェを見上げ そして自ら靴を履き替えさせた
「お義兄様 【月の雫のファーブラ】のお話をご存知なの? 靴の意味はわかってるの?」
「ん? ランが解読したお話だよね 王宮の図書館で読んだよ ちゃんと靴の意味は分かってる
だからね
僕と同じ気持ちなら
この十六夜の月の下で僕とワルツを踊って下さい」
「お義兄様私でいいの?ステファニー殿下という愛する人がいるんでしょ?
社交界では暗黙の了解と聞いていたわ
それにお父様に堂々と(決して叶わない恋のお相手の方がいる)と
おっしゃってたではないでか?」
「殿下との噂を知っていたんだね 噂を否定しなかったのはお互いの利益の為だよ
殿下の執務室にいる者しか知らない 偽装なんだよ
いいかい よくお聞き 僕が好きなのはラン 君の事だ」
オランジェの手を取り見つめる
「私はお義兄様の好きなお相手が殿下だとずっと思っていました お義兄様が私を好き?」
「好きというより愛していると言ったほうが正確だよ」




