あの月の下で私と踊って(お義兄様と私の物語)37
翌日ジュリアーノは目立たない様に白いシャツと黒ズボンの地味な格好の青年風の服で
オランジェは可愛いレモンイエローのワンピースで町娘風の服を着て出かけた
2人は手を繋いで雑貨屋を覗き グランドルには無いアンティークのコーヒーカップをお揃いで買った
屋台のクレープを食べた 道端の露天でホットワインを飲んだ
珍しい異国のお菓子の店も見て回った
初めての街の散策にオランジェは目を輝かせて言った
「お義兄様と一緒にこんな風にお出かけしてみたかったんです 街の散策がこれ程楽しいなんて! これもスポルト先生のお陰ですね」
「ランの努力もあったからだよ だいぶ歩いたけど脚は大丈夫かい?」
「はい 次はあちらの方へ行きましょう」
ジュリアーノの手を引っ張って歩き出した
トラスト大公国は貿易が盛んな国の為 グランドル王国では見たことのない外国の陶磁器 置物 カーペット 貴金属 食べ物 コーヒー専門店 硝子細工 アクセサリーの店舗が街中に溢れている
2人はトラスト大公国の伝統工芸である革細工店に入り商品を見て廻った ジュリアーノはスポルトが勧めてくれたソードベルトをオランジェはハニへのお土産用にコインケースを購入した
その街の一角に靴屋があったのをジュリアーノは見つけた
ショーケースにオランジェと同じ瞳の色の鮮やかなダークオレンジ色でヒールに装飾が施してある靴が目に入った
「脚が治った記念にランに靴を贈りたいんだけど どうだい?」
「実は靴はスポルト先生からお祝いに沢山頂いたのです お義兄様 次の機会にお願いしてもいいですか?
ちょっと寒くなってきましたね 温かいコーヒーが飲みたいです そこのカフェに入りませんか?」
「そうだね 入ろうかケーキも食べるだろう?」
コーヒーセットを待ってる間にジュリアーノが何かを思い出した様に
「先程の革細工店に忘れ物をしたようだ 直ぐに戻るから 先にコーヒーを飲みながら待っててね すぐ戻ってくるよ」
言い残してカフェを後にした
ジュリアーノと出かけて両親やアランデール邸の皆にお土産を買ったり
病院へ帰国の挨拶に行ったりして慌ただしく数日が過ぎていった
トラスト大公国へ別れを告げる日が明日に迫っている
朝食後 オランジェはメッセージカードを書いた
『 お義兄様へ
今夜 月が昇ったら中庭へきてください 一緒に月が見たいです
ラン』
(今夜は十六夜
ずっと昔からの夢だったお義兄様と踊りたい
瞳色の靴を履かなくてもいい
お義兄様に好きな人がいてもいい
今夜一緒に踊れるなら
もしも もしも踊る事ができたのなら
お義兄様への想いを胸に抱いたまま
私は一生1人で古文書に携わりながら生きていこう
幸いな事に今の仕事は王都にいなくても出来る
領地に引きこもりお義兄様の幸せを遠くで願いながら暮らそう
お義兄様の前から姿を消してしまおう
願いが叶うなら もうあの悲しい夢を見ることもないだろう
チャンスは今夜しかない
お義兄様をダンスに誘うしかない
一緒に踊ってもらおう)
オランジェの決心は固かった
ハニにメッセージカードと1本の赤い薔薇を添えてお義兄様に至急渡してくれるように頼んだ




