あの月の下で私と踊って(お義兄様と私の物語)03
「あーーーー!危ない!」
馭者の悲鳴がした途端カタリナ・アランデールは何が起こったのか解らなかった
カタリナは咄嗟に幼いオランジェを庇い抱きしめる
バキバキ ミシミシ バーン!ドドドッーー ガッシャーン…
その瞬間 土砂が崩れ馬車が横転し土砂がなだれ込んできた
寒い王都での生活より暖かいアランデール 夫ブルワーノの領地で過ごしたカタリナ
体調を崩したカタリナへ療養を兼ねアランデールへ行くように勧めたのはブルワーノだった
5月になり気候が落ち着き体調も良くなってきたので王都へ戻ろうした途中 土砂崩れに巻き込まれた
事故の直前 従者が言った「奥様 この山を越えると王都へ入ります 日が暮れるまでにはお屋敷に着くと思われます この数日の雨で道が悪いので少し揺れますがもう暫くのご辛抱です」
「分かったわ 今 何か変な音がしなかった?」
「いえ 私には何も聞こえませんでしたが」
「そう 気のせいかしらね?」
カタリナは隣に座る幼いオランジェに
「もうすぐ お父様に会えますからね それまでいい子で馬車に揺られましょうね」と言い聞かせる
この冬に3歳の誕生日を迎えたばかりの幼いオランジュは「はい おかあさま いいこにしてます」
そんな会話の直後だった
つんざくような音と共に土砂崩れが起こった
ヵタリナとオランジェと侍女が乗った馬車が横転した間もなく
馬車ごと崩れてきた土砂の下敷きになってしまった
遠のく意識の中 カタリナは抱きしめた我が子の無事を確認した途端 鈍い痛みが走り自分は助からないと直感的に感じた
薄れゆく意識の中静かに目を閉じた
春の雨がなかなか止まず土砂崩れが多い山道
王の命令で見回りに来ていた役人が偶然にも事故現場を通りかかった
「赤い盾の形で白抜きの斜め十字の家紋は財務大臣のアランデール家のものじゃないのか?」
アランデール家の家紋を知っていた役人がいた
役人達は土砂を取り除き オランジェ カタリナ 侍女 従者 馭者の5人を確認した しかし生存していたのはオランジェ唯一人だけだった
役人が叫んだ
「微かだが子供は息をしてるぞ!」
「早く医者に見せないと」
「王宮とアランデール家に事故があったと早馬で知らせろ!」
「アランデール家へ急いで子供を運ぶんだ!」
仕事で王宮にいたブルワーノ・アランデールの元に知らせが届いたのは夜も更けてからだった
生存しているのは娘のオランジェのみ
他に生存者はいないとの悲しい知らせだった
ブルワーノは何も持たず急いで家へ向かった
馬に乗ってる間何も考えられなかった
役人の手配でオランジェ1人 いち早く王都のアランデール家へ運ばれた
待機していた医者がオランジェの生存を確認し奇跡的に怪我一つない姿を見た直後だった
ブルワーノが部屋に走り込んで来た
「娘の状態は? 娘は無事なんでしょうね?」
生存していると知らせは聞いていたがオランジェの顔を見ないと信じられない
ブルワーノは青白く強張った表情を崩さないまま蚊の泣くような声で言った
「ええ 眠っているだけです お嬢様は怪我ひとつなくご無事です 助けた者の話によると奥様が頭をかかえて抱きしめられていたそうです」
「ああ リーナ ランを守ってくれたんだね
リーナ…」ブルワーノは泣きながら呟いた




