あの月の下で私と踊って(お義兄様と私の物語)17
ブライト・ネンデル翁は王宮の古文書解読室を退き 息子に後を継がせ孫と遊びながら第2の人生を送っていた
いきなり手紙が送られてきた蝋封を確認すると王家からの書簡だった
ブライト翁は驚いた 私如きに書簡なんて王様は私の事を覚えておいでだったのか
〈 ブライト・ネンデル
元古文書解読室長殿
貴殿が解読室を離れて数年が経ってしまった
健やかに過ごしてると聞き及んでいる
貴殿が解読した書物の数々は今でも宮中で働く者の手助けになっている
皆に惜しまれながら退官したのとの報告を受けていた
私からの突然の手紙に驚いていることと思っている
実は現財務大臣のブルワーノ・アランデールが古文書の先生を探している 何でも娘のオランジェ嬢が古文書学の指導者が必要との事だ
私は元室長だった貴殿が適任ではないかと考えた
是非オランジェ嬢の指導者になってはくれないだろうか
私の勝手な願いを聞いてはもらえないだろうか
グランドル王
スチュワート〉
のんびりした今の生活に満足し あまり乗り気ではなかったブライト翁だったが王様の頼みごとを無下に断るわけにはいかず
〈会うだけ会ってそれから決めさせていただきましょう〉短いと返事を書いた
どうせ財務大臣の令嬢の気まぐれ程度のお遊びだろう形だけ会って断わればいいと軽く考えていた
アランデール邸へ着いたブライト翁は客間に通された
お茶が出されカップに入った紅茶を飲んでいた
しばらくして夫人と女の子が入ってきた
11歳と聞いていたが少女は年齢より幼く見えた
「本日はお忙しい中 娘の為にお越し頂き感謝申し上げます
「こんにちは ブライト・ネンデル様初めまして
オランジェ・アランデールと申します」と言って綺麗なカーテシーをした
「お初にお目にかかります
ブライト・ネンデルと申す者です 王の命で来ました 私の様な年寄りにお嬢様の先生が務まりますかなぁ 心配です」
「王様のご推薦ですので信頼に足るお方と見受けられます」
「これからお嬢様にお話を伺いたいのですがよろしいかな?」
「はい ネンデル先生何でもお聞き下さい」
「お嬢様はなぜ古文書学の勉強をしようと思われたのかな」
「私は本が好きです 特に昔に書かれた本です しかし現代語に訳された本は少なく原文で読んでみたい
また古文書の多くを訳して現代の人々に読んでもらいたいと思ったからです」
オランジェははっきりした口調で自分の考えを述べた
「古代語の基礎は勉強中だと話は聞いたがそれでは駄目なのかな?」
「私には王宮の古文書解読室に勤務するのが夢です」
「確かに古文書解読室に勤務する人間は少ない
それは古文書解読が非常に難しく解読室に勤務する為には文官の試験を受けなければならないのは知ってるじやろう?」
「解読の試験が難しい事は知っています それでも解読室に勤務して王宮に眠ってる本を一冊でも多く解読したいのです」
「その年ではっきりした目標を持っている子も珍しいもんじゃ 熱意に感動したよ
実は令嬢の気まぐれで古文書を学ぼうとしているのなら先生役を断るつもりで来たのだよ
しかし お嬢様の真剣な気持ちに心打たれた 夢が実現するようお手伝いをしよう 早速明日からで良いかな?」
「ありがとうございます
ブライト・ネンデル先生明日からよろしくお願いします」
「娘の希望をお聞きくださりありがとうございます 本日はお越しくださり
娘共々感謝いたします」
マリエッタとオランジェは玄関まで見送った
ブライト翁はスチュワート・グランドル王へ手紙を書いた
〈 グランドル王
スチュワート様
偉大なる国王陛下 健やかにお過ごしの事と存じます
先日王様にご紹介されたオランジェ嬢に会いにアランデール家へ行って参りました
オランジェ嬢と対面し直接話が出来ました
年齢の割には はっきりとした口調で未来を語る姿に驚かされました
将来解読室に勤務したいと希望も持っておりました
あのお嬢様ならきっと夢を叶えるでしょう
古文書解読室の後を継いでくれそうな若い世代の育成に携われるなんて思いもしませんでした
今ではオランジェ嬢に大いなる期待を寄せています
私の待っている知識を後世に残せそうな機会を頂け誠にありがとうございました
生きる張り合いができました
国王陛下に神のご加護があらんことを誠に謹んで申し上げます
ブライト・ネンデル〉




