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夏休み最後の思い出

検査当日。


いつもなら検査の日は時間がかかるということと宗一郎が姫奈に負担をかけたくないと言う希望もあり、宗一郎は来


ないはずだった。


姫奈自身、丸一日を使って行われる検査に疲れが出るのだ。


だが、今日は検査が終わる時間ぐらいに少しだけ顔を出すと言っていた。


入院生活が始まり、最初こそ宗一郎はいなかったものの、仲直り…?以降毎日来ている宗一郎が来ないというのは、


今では不思議な感覚なので、姫奈としては来てくれた方が嬉しい。


それに、宗一郎は姫奈のことを第一に考えて行動してくれているので、むしろ宗一郎が来てくれた方が気持ちが安ら


ぐし、疲れが癒やされるのだ。


もちろん、家族も来てくれてはいるが、やはり大好きな人がいてくれるというのはまた別の効果があるらしい。


検査が終わり、3時間ほどで結果が出る。小牧先生の診察室に呼ばれた姫奈は若干緊張しつつ足を踏み入れる。


「やぁ、姫奈ちゃん。検査結果が出たよ」


小牧先生の後ろには私を担当してくれている看護師の羽田さんもいる。


そして彼女はニコニコと笑っていた。


「それで、結果だけど…良好だね。宗一郎に伝えてあげなさい。何か計画しているんだろう?」


「いえ、私は聞かされていないんですけど…」


「おや、そうなのかい。じゃあ、この後すぐにでも聞いてみないとね。言っておいで」


「はい!」


検査結果が悪かったらどうしよう。あんなに嬉しそうにしていたのに…と思っていたので、スキップして帰りたい気分だ。


念の為、と羽田が付き添いで病室まで送ってくれた。


最近は手足が痺れることもないし、幾分か調子がいい。


病室の扉を開けると、中で宗一郎が待っていた。


姫奈に気づくと、すぐに歩み寄ってきて姫奈の体を支えてくれる。


「ありがとう」


「気にするな。俺が少しでも姫に触れていたいからしていることだし」


最近はお礼を言うと決まってこのように返してくれるのだ。姫奈が気負わないように気遣ってそのように言ってくれ


ているのだと思うが、内心それでも嬉しい。


「…検査結果、どうだった?」


宗一郎がおずおずといった感じで聞いてくる。


「実は…」


さも悪かった風を装うと、宗一郎の顔が動揺を帯びていく。


「良好だったよ!」


そう言い切った瞬間、宗一郎の顔には安堵と喜びの表情が広がった。


「…びっくりした。悪かったのかと…驚かさないでくれよ」


「ごめんごめん」


笑いながら返すと、宗一郎もつられて笑い出した。


ひとしきり二人で笑い、宗一郎が本題を話し出す。


「それで、夏休み最後の思い出作りなんだが…」


「みんなで泊まりに行かないか?」


「泊まり…?」


宗一郎はわかっているはずだ。姫奈が今入院中だと言うことも、体の状態も。


「姫の疑問はわかる。けど安心してほしい。小牧先生には許可をとってある。条件は出されたけどね」


どうやら、少し前から計画していたことだったらしい。


小牧先生から出された条件はこうらしい。


・今日の検査結果が良好であること

・姫奈のご両親に許可を得ていること

・姫奈の意思を尊重すること

・絶対に無理はさせないこと

・一泊で帰ってくること

・羽田も一緒に行くこと


主にこうらしい。


「だから、最終的に決めるのは姫奈なんだ。どっちがいい?」


そんなの、決まってる!


「行きたい!!」


でも…、と心の中をふとよぎることがあった。


(千佳ちゃんや瑠花ちゃんも一緒に行きたいな…)


もちろん、宗一郎と二人きりというのもとても行きたい。でも、人数が多い方がもっと楽しいと思ったのだ。


そんな姫奈の心を見透かしたように宗一郎が思いがけないことを口に出した。


「じゃあ、決まりだな。ちょっとここでみんなに電話してもいいか?」


「…?いいけど…なんで?」


その疑問に答えることはなく宗一郎はどこかに電話をかけだした。


そしてスピーカーにして姫奈にも聞こえるようにしてくれた。


『やっほー!!』


驚くことに聞こえてきたのは千佳の声だった。


そして次々と瑠花、春樹、蘇芳の声が聞こえてきた。


どうやらグループ通話らしい。


『電話が来たってことは、作戦決行ってことだね』


この声は春樹だ。


『姫ちゃんも聞いてるんでしょ?』


これは蘇芳。


『姫奈、一緒に最高の思い出作ろうね!』


久しぶりに聞くみんなの声に感極まって涙が出てきそうだった。


「じゃあみんなそう言うことで、作戦どうりに」


『おっけー』


そう言ってその後少し喋って電話はおしまいとなった。


何も聞かされていない姫奈はまだ疑問だらけだったが、宗一郎の任せておけと言う言葉に安心し、おまかせすること


にした。


「実はみんなに声をかけておいたんだ。千佳と瑠花だけを誘うのはちょっと男女の比率的にアレだったからあいつら


も呼んだけど…良かったか?」


そう言って心配そうに覗き込んでくる宗一郎はなぜか子犬のようだった。


「ふふっ。うん、大丈夫。人数が多い方が楽しいし」


「良かった。それで、泊まる場所なんだけど、ここから30分ぐらい走ったところにある別荘なんだ。今回は特例と


して羽田さんもくることになっているし、広い方がいいかと思って、俺の家が持ってる別荘で、ここから近いんだけ


ど、海がとても綺麗に見えるんだ」


その話を聞き想像しただけで楽しくなってくる。


それに、宗一郎の口ぶりから家族には話がいっているようだった。


何から何までしてくれる宗一郎に感謝しかない。


それから数日、みんなで泊まりに行く日まで特に体調に変化が来ることもなく無事に病院を発つことができた。


別荘までは宗一郎のお母さんに送ってもらっている。


その時、姫奈自身のスマホではなく、小牧先生との連絡用に渡されたスマホにピロンと通知が来た。


『一足早く着いたよ』


「なんて?」


「羽田さん、着いたって」


「あらあらぁ、早いわねぇ」


わかりました、とだけ送って連絡用のスマホをバックにしまう。


道中、宗一郎のお母さんとも喋りながら、楽しく過ごしていた。


時々、お母さんが宗一郎の小さい頃のおそらく本人にとっては恥ずかしいであろう話をぶっ込んでくるので、宗一郎


が必死に止めていた。


「さぁ、着いたわよぉ!」


そう言われて車から降りると、立派な日本家屋が見えた。


ちゃんと入り口にも門が建てられており、庭は日本庭園のようだった。


「ここ、綺麗なのだけれど、維持費がねぇ」


どうやら、ここに来るのは久しぶりらしく、荷物を下ろしてくれている途中、愚痴ていた。


「そんなこと言いながら、手放そうとしないのは母さんだろ」


「まぁ、そうなんだけどねぇ」


羽田も合流し、車に積まれているものたちを全て屋敷に入れている。


当の私はというと、玄関も見ることができる縁側で座って待っていたのだ。


手伝うと言ったのだが、その場にいた全員に止められてしまった。


「さて、荷物も運びこんだことだし、お邪魔虫は退散しようかしらねぇ」


「お邪魔だなんてそんな」


と姫奈は言ったが、あの子も今日をとても楽しみにしていたの。完全に二人きりにはしてあげられないけど、楽しん


でね。


と言って帰ってしまった。


どうやら、他のみんなは午後から来るらしく、わずかな時間ではあるが、宗一郎と二人で過ごす時間を組まれている


ようだ。


もちろん、羽田さんはいるし、普段ここを管理している人はいるらしいが、それでもやはり嬉しい。


「それでは、私は色々と用意することがあるので、お二人はごゆっくりどうぞ」


「すみません、私のために…」


「いや、姫奈ちゃんが謝ることじゃないよ。それに、こんな形ではあるけど、泊まりなんてここ数年してなかったか


ら、この機会に楽しませてももらうから」


それじゃ、と言って2階の方へ上がってしまった。


「姫、そこは暑いだろ。中で涼まないか」


「そうだね」


そう言って立ち上がって移動する時にも宗一郎は手を貸して補助してくれる。


なぜかそのまま、宗一郎の膝の上、そして腕のなかに閉じ込められてしまった。


ちょうど庭掃除をしていたお手伝いさんが、まぁ、と驚くのを遠くに聞いたような気がした。


「姫、かわいい。大好きだ。ずっとこうしていたい…」


「ちょ…!」


突然のことばかりな上に、そんなことを言われてしまい、姫奈の顔に瞬時に熱が集まる。


普段から愛情表現はしてくれるが、ここまで甘える子犬みたいになるのは初めてだった。


それに、離そうとしない。


「そ、宗一郎くん?」


「嫌だ。離さない。病院でも本当はずっとこうしていたいんだ。でも、我慢している」


そうなのか…。でも、なぜ?


「だって、病院はいつ誰が入ってくるかわからないし、その…姫もあんまりみられたくないかと思って」


なんとかわいいことを言うのだろう、この人は。


「そうだね、確かにそうだけど、なんかもう手遅れな気が…」


だって、宗一郎が姫奈のことを溺愛しているのは院内で過ごす人たちにとってはもう当たり前で見慣れた光景になっ


ているし、逆に院内の人たちはその光景を見るのが一種のお楽しみになってしまっているようなのだ。


だってこの前も…。


『あら、姫奈ちゃんじゃないの!今日、宗一郎くんは?』


『今日は、検査なので来ないですよ。それがどうかしたんですか?』


『あらぁ、残念ねぇ。二人が一緒にいるのをみたいのに。ところで、ハグしたりはしないのぉ?』


これは、入院している隣の部屋のおばあちゃんとの会話。


『あら、姫奈ちゃん。あなたたちってばいつ部屋に入ってもおしゃべりしたりばっかりよねぇ。健全すぎるのよ!』


『そ、そう言われましても…』


『もっとイチャイチャしてもいいのよ?てかしなさい!逆に心配になってくるわ…。いい?まず第一に顔がいいのよ


あなたたち。その二人のイチャイチャをみれるのは癒しなわけ。わかった?』


これは、病院に勤めるとある看護師さんとの会話。なぜか妙に説得されてしまった。


「なるほど、もっとイチャイチャしていいんだな」


今の話を聞いた宗一郎が嬉しそうにし、離してくれるかと思ったが、それは無理だった。


この幸せな時間が、続けばいいのに…。時間が、止まってしまえばいいのに…。


その後、羽田が降りてきて、茶化すまで宗一郎は離してくれなかった。


「さっきここの使用人さんに色々聞いてきたけど、みんな驚いてたよ。坊ちゃんのあんな姿を見るのは初めてだっ


て」


ニヤニヤしながら羽田さんは宗一郎を揶揄う。


別荘の中を見て回ろうと立ちあがろうとすると、急に足が痺れた。


が、この楽しい空気を壊したくなくて頑張って耐えた。


「お手洗いに行ってくるね」


と言って歩き出し、なんとかトイレにたどり着く。


少しじっとしているとおさまってきたので、水だけ流し外に出る。するとお手伝いさんとちょうど鉢合わせた。


宗一郎が離してくれなかったおかげで挨拶もろくにできていなかったので、ここで挨拶をする。


「あ、初めまして。染島姫奈です。一日お世話になります」


「こちらこそ初めまして。お身体の状態のことは伺っております。何かございましたらすぐにお申し付けください


ね。それにしても…長年、お手伝いとして勤めていますが、坊ちゃんのあんな顔は初めて見ました」


若干涙ぐんで見えるのは気のせいだろうか。


「坊ちゃんには浮いた話ひとつなくて…蓮王子の後継者としての責任を負うため、日々努力してらっしゃいました。


もう、寝る暇も惜しんで。そのせいでお身体を崩されることもあり…。何より、笑うことすら少なく…私のせい


で…」


ついにポロポロと泣き出してしまった。


「それが高校にお入りになられてから人が変わったように明るくなられて…。今ではあんなに幸せそうな顔をしてい


るんですもの。感謝しかありません。どうぞ、この別荘にいる間、ゆっくり過ごされてくださいね」


「いえ…こちらこそありがとうございます」


一体、今の話はどういうことなのだろう。


悶々と考えながら戻ると、心配そうな宗一郎に出迎えられた。


「おかえり。遅かったな?なんかあったか?」


「いや、お手伝いさんにあったからご挨拶してたの。心配かけちゃってごめんね」


「謝らなくていい。勝手に俺が心配してただけだから」


そうこうしていると先ほどのお手伝いさんとは別の方が昼食を持ってきてくれた。


しっかりと栄養が取れるメニューになっている。


「夜はバーベーキューだから、昼はちゃんとしたものを食べよう」


そう聞いてびっくりした。バーベーキューを姫奈も食べれるのかと。そう思っていると、羽田が口を開いた。


「小牧先生からオーケイは出てるよ。そもそも、姫奈ちゃんは食事が大きく病気に左右されない。まぁ、それでも病


院食は決められたメニューだからあまり楽しめないだろうけどね。今日は思いっきり楽しんでこいって」


「そうだったんですね…」


ここまでしてくれるみんなに涙が出そうになる。


姫奈のために考え、行動してくれる心優しい人が近くにいて姫奈は本当に幸せ者だと思う。


バランスの良い昼食を食べ終わったタイミングで玄関のインターホンが鳴った。


「姫!久しぶり!!」


「体調はどう?」


元気に飛びついてくる千佳に、会って第一に姫奈の心配をしてくれる瑠花。


「姫奈ちゃん、俺たちも一緒でよかったの?」


「…楽しみ」


少し心配そうにしている春樹にワクワクしている蘇芳。


みんなが合流して、お泊まりは始まった。


みんなで別荘の中を探検して、庭で水鉄砲で遊んだり。夕方が近くなり、みんなでバーベーキューの準備をして。


男子が焼く係。女子が食べる係など、普段学校では見ることもできない一面を見ることができたり。


そう、たとえば春樹は真面目なイケメンだと思っていたが、時間を一緒に過ごしていると、だんだん振る舞いがホス


トのようだな、と新しい発見をしたり。まぁ、お姫様扱いのような感じだ。


そして蘇芳は肉を焼くのが上手だった。


学校中の人気を集める男子メンバー。どうやって肉を焼くのか蘇芳に聞く千佳。春樹のお姫様扱いにまんざらでもな


さそうな瑠花。


新しい恋の予感…?もした。


そして、そんなみんなに置いていかれると感じている自分もいた。


でも、そんな時に限ってヒーローのように救い出してくれるのが宗一郎だ。


野菜を焼く手を止めて横に座る。


「お、それ俺が焼いた野菜」


「焼いてないで大丈夫なの?千佳ちゃんにまた言われるよ?」


「大丈夫。今は蘇芳に肉の焼き方を聞くので夢中だから。それより、なんか寂しそうな顔してたけど、なんかあっ


た?当ててあげようか」


「え…」


「楽しそうなみんな見て、置いてけぼりされた気分になってたんだろ」


どうして、見透かされた気になるのだろうか。それは、宗一郎の言っていることがその通りだからなのか。


「姫。姫奈。大丈夫だよ。誰も姫奈を置いて行ったりしてないから」


すると、焼き方を聞いていた千佳が宗一郎に被せるように大声を出した。


「姫ーーー!!聞いてよ!こいつ教えてくれないんだけど!?」


「ほら」


思わず宗一郎の顔を見た。でもすぐに逸らしてしまった。


姫奈の目に映った宗一郎は、姫奈のことが好きでたまらない、姫奈以外には見せないようなとろける笑顔を見せてい


た。


でも、宗一郎の目に映った自分は、怯える女の子だった。


楽しみたいのに。この非現実的な夏のひとときを。


でも、同時に考えてしまうのだ。姫奈がいない、未来を。


その後、姫奈は気持ちを切り替えて楽しむことに集中した。


バーベーキューも終わり、花火に移る。


するとここで無理やり千佳と瑠花に部屋に連れていかれた。


「!?」


「いいからいいから」


部屋に入ると二人は慌ただしく動き出し、あっという間に着替えさせられた。


「えっ!?」


「うっわーめちゃ似合う」


「皮肉だけどね」


二人の言っていることがわからず頭がハテナマークに埋め尽くされる。


「ど、どういう」


二人に浴衣を着付けられた姫奈はハテナマークを頭に埋め尽くされたまま浴衣の可愛さに気を取られた。


「この浴衣、かわいい…。どうやって用意したの?」


「ちっ」


なぜか千佳が舌打ちしている。瑠花がはぁ、とため息をついて答えてくれた。


「その浴衣、宗一郎くんが用意したのよ。さすが、姫奈に似合ってる」


なんとこの浴衣は宗一郎が用意してくれたらしい。


そのことに顔が赤くなる。


姫奈が浴衣に見惚れている横で千佳と瑠花もいそいそと着替え始めた。


姫奈は白地にピンクの花があしらわれた清楚感のあるかわいい浴衣だ。それに対し千佳は黄色の大きな花が描かれて


いる元気はつらつな千佳に似合う浴衣で、瑠花は水色の涼しげな浴衣で、クールな瑠花に似合っている。


二人の準備も終わり、庭に戻ると男子メンバーも浴衣に着替えていた。


「ジャジャーン」


そう言ってくるりと一回転してみたのは春樹。


宗一郎はというと姫奈の浴衣姿を見て固まっていた。


そして姫奈も宗一郎の浴衣姿を見て固まっていた。


「かっこいい…」


「かわいい…」


ほぼ同時に二人の口から発された言葉は、お互いに向けられた言葉だった。


完全にふたりの世界に入ってしまいそうになるが、それは外野からの言葉によって遮られた。


「うっわ。かわいい。これお前が選んだんだろ?さっすが、見る目あるね」


「…すごく似合ってるよ」


「みんなもすっごくかっこいいよ」


取り繕うように言うと、なぜか宗一郎がムッとなった。


「姫奈ちゃん、それは宗一郎にだけ言ってあげな」


どうやら嫉妬していたらしく、またもや顔が赤くなる。


台所で片付けを手伝っていたはずの羽田も出てきた。そして羽田もなぜか浴衣を着ている。


「羽田さんまで!?」


「着るつもりはなかったんだけど…。お手伝いさんが是非って断れなくて」


羽田の浴衣は紺地にクリーム色で菊があしらわれていてなんとも上品だ。


「もー、花火しようよ」


千佳が待ちきれないと言った様子で声をかける。それを区切りに花火をすることになった。


お約束の線香花火もみんなで勝負したり…。


じっとしておくのが苦手な千佳はすぐに落ちてしまい、その反対の周防は最後まで勝ち抜いていた。


その後も何度も勝負をしていたが結局千佳は蘇芳に勝つことができず悔しがっていた。


瑠花が春樹に絡まれて若干ウザがっていたのはまた別のお話…。


夜、お風呂に入った後の女子部屋では、会えなかった分を取り戻すように話をしていた。


瑠花は塾での愚痴や、進路に関する悩みを。千佳は最近は食欲がなくて困っているとか…。


姫奈は病院でのあれやこれやを話した。


三人で話しながら笑い合っていると、そっと扉が開かれた。


顔を覗かせたのは春樹。そしてその後ろには宗一郎と蘇芳もいた。


「なんか楽しそうな声が聞こえたから来ちゃった」


あは。と笑いながら入ってくる春樹も、他の二人ももちろんながらパジャマ姿だ。


普段は目にすることができない無防備な宗一郎の姿にキュンとしてしまう。


そして私たちを囲むように男子たちが座ってくる。


「それで、なんの話をしてたの?」


「女子トークなので秘密です」


ツン、と返す瑠花に不満げな春樹。ここ、意外とお似合いなのでは?


そう言いつつも、お話が再開された。


今度は男子も交えて、この夏にあった出来事を話して、気づけば12時を過ぎていた。


「うわ、もうこんな時間」


「ったく、お前がしょーもない話ばっかするからだろ」


「え、ひどい」


「…しょーもない」


「蘇芳まで俺をいじめるなんて」


なんだかこの三人のやりとりを見ていると、漫才を見ているような気分になる。


みんなで喋っている時も、笑いは絶えなかった。


「それじゃ、俺たちは部屋に戻るから。おやすみ、姫」


みんなに向けてではなく、私に向けてだったことに驚きつつもおやすみ、と返す。


「じゃあまた明日」


蘇芳は何も言わず出て行ってしまったが、手を振っていた。


「うちらも寝よっか」


「明日も遊ぶぞー!」


「そうだね、その前にちょっとわたしトイレ借りてくる」


姫奈が部屋を出た後も、話は盛り上がっていた。そのままお手洗いを借りに行こうと一歩踏み出した時、左足にうま


く力が入っていないことに気がついた。


運の悪いことに、ちょうど部屋を出てきた羽田と鉢合わせる。


「っっ!」


「姫奈ちゃん?」


異変に気づいた羽田はすぐに駆け寄り半身を支えてくれる。


これは、素直に話したほうがいいかもしれない。


「ちょっと…左足に力がはいらなくなって…」


「わかった。とりあえず、私の部屋が近いからそっちに入りましょう」


羽田の部屋に入り、椅子に腰掛ける。


「それで、急に?」


「はい…きゅうに…あれ?」


「…これは」


呂律も回りづらくなっている。


「みんなには、いわないでください…」


羽田はしばらく黙った後、ふぅ、と息を吐いた。


「わかった。言わないけど、小牧先生には報告させてもらうよ。それと、もし明日の朝になっても症状が回復してい


なかったら、すぐに病院に戻る。いいね」


「…わかりました」


力が完全に入らないと言うことはないので、気合と根性でふたりの待つ部屋に戻る。


姫奈が部屋に戻るまで、羽田はこっそりと見守ってくれていた。


翌朝、幸いなことに力も入るようになり、ちゃんと喋れるようにもなっていた。


朝、先生と連絡を取るためのスマホを見ると、小牧先生から症状の詳細を求めるメッセージが届いていたので、それ


に返信し終わってから一階に降りる。


「お、きた。おはよう、姫」


「朝ごはん、食べよう」


「おはよう、みんな」


食卓につくと、机の上には栄養バランスの取れた程よい量のおかずたちが並んでいた。


「皆さん、どのくらいの量をお食べになられるかわからなかったのですが…。おかわりはご用意してあるので、お気


軽にお申し付けくださいね」


そう言って、若いお手伝いさんが顔を出した。


「いただきます!」


7人で同時に手を合わせ、食べ始める。どのおかずも本当に美味しかったが、男子メンバーは足りなかったようで、


おかわりもしていた。


そして食後に出されたヨーグルトも美味し過ぎた。


ちゃんと薬も飲んで一服しているとインターホンが鳴り、お手伝いさんが出る声が聞こえてきた。


少しすると、なんだか大きな発泡スチロールを抱えた宗一郎が縁側に近づいてくる。


「お、届いたのか!」


と何やら知っているような春樹。千佳もワクワクしている。


「ここで、スイカ割りをしたいと思います!」


するとどこからともなく出てきたお手伝いさんたち数人がブルーシートを敷き、タオル、バッドのようなものも準備


する。


なんという手際の良さ。3分もかかっていない。


危ないから、という理由で女子メンバーは観戦となったが、男子メンバーで目隠しをし、スイカを割るそうだ。


千佳がスイカ割りをしたくてうずうずしていたが、なんとか抑えることに成功した。


途中割られたスイカの汁が飛んでくるなどの惨事があったが楽しく終わった。


お昼ご飯は流しそうめんをしたり、おしゃべりに花を咲かせたり、楽しい時間はすぐに過ぎ去っていくもので、早く


も解散する時間になってしまった。


「お迎えに来たわよぉ〜」


そう言って居間に入ってきたのは宗一郎のお母さんだ。


「こんにちはー!」


爽やかに挨拶をする春樹とぺこりとお辞儀をする蘇芳。


「おはようございます」


そして綺麗な姿勢で挨拶をする瑠花と若干緊張気味の千佳。そんな姿を見るのはなかなかないので面白くて笑ってし


まった。


いつでも帰れるように、お昼ご飯を食べた後にみんなで荷物をまとめておいたのでいつでも帰れる状態ではあるが、


別れというのは寂しいもので、泣きそうになってしまった。


「またすぐ会えるよ」


「そうだよ!」


「瑠花ちゃんも千佳ちゃんもありがとう…」


すると、宗一郎のお母さんと話していた羽田がこちらに歩いてきた。


「そろそろ戻らないとだよ。あの件もあるし」


羽田のいうあの件とは、昨日の夜の出来事だろう。


「じゃあね、また会おうね」


「絶対だよ?俺、もっと姫奈ちゃんと仲良くなりたいし」


その横で蘇芳がうんうんと首を大きく縦に振っている。


みんなに見送られながら、宗一郎に体を支えてもらいながら、ここにきた時と同様、宗一郎のお母さんの車に乗り込


む。


羽田はもう出発しているようだ。車の窓を開けてみんなに手を振る。


「バイバーイ!!」


みんなが見えなくなるまで手を振る。


一夏の夢のような時間。この二日間の思い出は、姫奈の心に残り続けるだろう。


帰りの道中、宗一郎のお母さんは話していた。


「宗一郎にこんなに素敵な彼女がいるなんて、本当に良かったわぁ」


と。

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