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夏休み

 __翌日__


 「染島さーん、おはようございます」


「おはようございます」


「体調はどう?今日は終業式だったよね。行ってらっしゃい。それと、さっき飯島先生が学校に行く前にこっちに寄


って、って言っていたわよ」


「わかりました」


言われた通り、病院を出る前に先生のところに寄る。


「おはようございます」


「あぁ、姫奈ちゃん。おはよう。今日は終業式でしょ?体に異変があったら、すぐに休むこと。わかった?」


「はい」


「じゃあ、これ私の番号」


そう言って差し出されたのは携帯電話の番号だった。


何かあればすぐに連絡しろということらしい。


「わかりました。ありがとうございます」


「それじゃあ、行ってらっしゃい」


「はい、行ってきます」


学校までは両親が交代で送り迎えしてくれることになっており、今日はお父さんだった。


「おはよう、姫奈」


「おはよう、お父さん。迎え、ありがとう」


「このぐらい、どうってことない」


家族には感謝しかない。


学校につき、教室に入る。


すると、千佳や瑠花より先に、宗一郎が姫奈の元にきた。


「姫、おはよ。今日の放課後、時間ある?」


「おはよう、宗一郎くん。放課後…」


「おっはよー!やっと夏休み!!あっれ、お邪魔しちゃった?」


そう言って割って入ってきたのは千佳だった。


ぱちっとウインクする。


(…?)


「おはよー、姫。宗一郎くん、姫借りていい?」


「瑠花ちゃん…?」


問答無用で教室の外に連れ出される。


「どうしたの…?」


「いや、さっき宗一郎くんからの放課後デートのお誘い、返事に困ってたでしょう?」


そう、姫奈は昨日から入院している。一応、飯島先生に許可をとった方がいいと思ったのだ。だが先程はいい言い逃


れ方がわからなかった。


「なんでわかったの!?」


「顔に出てる」


そう言って二人でふはっと笑い合った。


「こっちはいいから、電話でもなんでもしてきていいよ」


「ありがとう!」


一旦下駄箱まで出てきて朝もらった飯島先生の電話番号にかける。


『はーい』


「あ、姫奈です。ちょっとご相談が」


『あ、姫奈ちゃんか。どうしたの?』


「それが…」


かくかくしかじかで…


『なるほどねぇ…今日はちょっと厳しいかな。もうちょっと検査しようと思ってるの』


わかりました、と言って電話を切る。


それから教室に戻って宗一郎に今日は行けないことを話した。


幸いにも、宗一郎は笑って流してくれた。


「夏休みは絶対デートしような!」


太陽のような笑顔だった。


宗一郎に姫奈自身のことを隠している罪悪感が身体の底から湧き上がってくる。


席について落ち着く。


瑠花と千佳の二人が心配そうに姫奈のことを見ていた。


終業式も始まり、校長先生の長い長い話も終わった。


「やっと終わったー!」


「姫、立ちっぱなしの時間多かったけど、体調大丈夫?」


瑠花がそっと聞いてくる。


だが、そんな言葉を聞き逃さなかった人がいた。


「え、大丈夫か?」


「っ!宗一郎くん!?だ、大丈夫!」


瑠花がしまった、という顔をしている。


「姫は今日の放課後…」


「び、い、家の用事で…」


「早く帰った方がいいんじゃない?」


瑠花が話を合わせてくれた。


「そ、そうだね!じゃあ、先に帰るね…!」


そそくさと学校を出て病院に向かう。


病院につき、検査をいろいろすることになったので、準備をし、時間を待った。


その間、宗一郎とメッセージでやり取りをしていた。


この夏、何をしよう、など。


たくさん、話した。


「姫奈ちゃん、行こうか」


「はい…」


「そんな暗い顔しないで、って言っても無理か…」


検査結果は…。悪かった…。


「これからの入院生活だけど…。姫奈ちゃんの病気は症例が少ないの…。だから、決定的な治療方法もない。手探り


の治療になっていくと思うの。辛いと思うけど、一緒に頑張りましょう」


その日から始まった入院生活は、思ったよりきつくはなかった。


どうやら、姫奈の担当らしい看護師さんとも仲良くなった。


「えー!!姫奈ちゃん彼氏いるの!?」


「ちょ、声が大きいです!」


「いいねぇ」


もう、と言いながら言い返そうとすると、急に視界が歪み始めた。


すぐに変化に気づいた看護師さんが対処を始める。


「今日、家に彼氏さんがくるんだっけ?この様子じゃ、無理そうだね」


「お、お願いします…!先生にはまだ黙ってて…」


「仕方ないね…」


普通に考えて、今の状態を先生に報告しない看護師はいないものだが、今の姫奈の頭にそれは思い浮かばなかった。


ちょっと待ってて、と言って部屋を出ていった看護師を、呼吸を整えながら待つ。


「親御さん、もうすぐ迎えにくるって」


「え…」


てっきり、ダメだと言われると思っていた。


「彼氏くん、来るんでしょ?」


そう言ってパチっとウインクをした。


看護師さんには感謝しかない。


その後お父さんの運転する車に乗って帰った。


自分の部屋に戻って待つ。


しばらくして、下からお母さんの声が聞こえてきた。


「姫ー!!宗一郎くん、きたわよぉー!」


「はーい!!」


下に降りていくと、宗一郎が玄関に佇んでいた。


相変わらず今日もイケメンである。


今日はこの後一緒に海を見にいくことになっていた。


「おはよう、姫」


笑顔が爽やかだ。


外は灼熱なのに宗一郎の周りは空気が爽やかな気がする。


「お、おはよう」


病気の影響か、若干痩せてしまったのと、顔色が悪いので、少し化粧を厚めにしている。


「今日も可愛い。今日はメイクしてるんだ?海行ったら姫の真っ白なお肌が黒くなるかもな?」


そう言って笑う。今の姫奈からすれば、もっと肌に色味が欲しいところだ。


「じゃあ、いこっか?」


「うん」


家を出る直前、電話が鳴った。


「あ、ちょっとごめんね」


表示された名前が先生だったため、宗一郎には電話の内容が聞こえないところで電話に出る。


「はい、姫奈です」


『羽田さんから聞いたよ。体調が悪くなったり、何か少しでも異変があったらすぐに連絡すること。今日はどこにいく予定?』


羽田さんというのは、今日の外出を許可してくれた看護師さんだ。ちなみに、先生の名前は小牧奈々という。


「海を見にいくことになってます」


『海か…日差しが強いな。日傘はちゃんとさしなさいよ。女子としても』


「はーい」


その後も少しお小言をくらい、電話は終わった。


病院に戻ったらしばらく外には出して貰えないらしい。


小走りで玄関に戻る。


「ごめんね!お待たせ!」


それから心配そうな両親に見送られて出発した。


「海、楽しみだね!」


「あぁ…。姫、可愛いな」


「…!?」


不意打ちに顔が赤くなる。心なしか心臓もうるさい。


顔が熱くなったのを感じる一方で、妙に心が冷たくなる。


(私は本当に宗一郎くんと一緒にいてもいいのかな…)


最近、病気がどんどん悪化している。


姫奈はここ数日、別れるべきか悩んでいた。


このまま付き合っていても、病気を隠すのには限度があるし、悲しい思いをさせてしまう。


それなら…と考えているのだ。


海までの移動の間、姫奈と宗一郎は夏休みに入ってからの出来事を話していた。


宗一郎はいつものメンバーで遊びに行ったり、受験勉強をしたりとなかなか忙しい日々を送っているようだった。


一方の姫奈といえば、ほとんどを病院で過ごしている。


来週には千佳や瑠花などとのお泊まり会も企画されているが、それだけである。


宗一郎には、毎日勉強漬けだとだけ話した。間違ったことは言っていない。


そんな会話をしているうちに海辺に着いた。


とは言っても、姫奈の家からバスで30分、病院から行けば15分のところにあるで、近場である。


キラキラと輝く海の光を浴びる宗一郎は眩しかった。


そこで、姫奈の気持ちが固まってしまった。


「姫…?」


前を歩く宗一郎が不思議そうな顔で振りかえる。


(これ以上、輝かしい未来が待っている宗一郎くんを私の元に縛り付けておくことはできない…)


それでもいざ口に出そうとすると、胸が苦しくなって、声が出なかった。


声よりも先に涙が出そうになる。


いざ覚悟を決めると、それまでの宗一郎との記憶が次々とフラッシュバックしてきた。


まだ、恋人らしいことは何もできていない。


でも、学校終わりに一緒に帰っている時の会話や、普段の何気ない出来事。


苦しい。でも…。


一つ、大きく深呼吸をする。


「宗一郎くん」


「…?」


真剣な顔の姫奈を見て、不安げな顔になる。


しっかりと目を合わせ、声を出した。


「…別れてほしい」


言い終えた後、時が止まったような錯覚に陥った。


ゆっくりと宗一郎の目が見開かれていく。


「…なんて?」


「別れよう。別れて欲しい」


今度は少し強く言った。


「俺、なんかした…?」


「ううん。何もしてないよ。ほら、お互い受験で忙しくなるし、付き合ってみて思ったの。宗一郎くん人気だし、私


には荷が重いかなって」


すると、肩を掴まれた。


「嫌だ。俺は別れない。受験だって、今のところは大丈夫だし、」


普段は絶対にしないことだが、気持ちをキッパリと区切るためにも話を遮って止める。


「ううん。今は、そうかもしれない。でも、未来にどうなるかんて誰にもわからないんだよ」


「…っ!でも、俺は姫に…姫奈にずっと横にいてほしい!」


「ごめん…」


涙が溢れそうになる。でも、ここで泣くわけにはいかない。


ここで泣いたら、姫奈にも気持ちがまだあると思わせてしまう。


実際は好きで好きでたまらないのだけれど、その気持ちを言うことは許されない。


宗一郎は今の姫奈への気持ちを忘れて次に進むべきなのだ。


一方的に気持ちを伝え、その場を離れようとする。


でも…できなかった。そうさせてくれなかった。


大好きな宗一郎の腕がしっかりと姫奈を掴んで離さない。


「どこ行く気?話終わってなくない?」


多分、今引き留まったらこの先別れられなくなる。


今、振り返ったら涙がこぼれてしまう。


だから…。


「ごめん」


君の手を振り解く。


もう、私は戻れない。戻っちゃいけない。


「えー?修羅場?彼女に振られちゃったの?お姉さんたちと遊ぼうよー」


「このこかわいー」


ほら。大丈夫。宗一郎くんが一人になることなんてない。


そう言い聞かせて、近くのトイレに駆け込んだ。


個室に入り、荒い息を整えようとする。


でも…できなかった。


熱い涙が溢れてくる。


次第に息もどんどん上がっていき…。


『はい、小牧です。姫奈ちゃん…?』


「…っ、せんせ、くる…」


『もしかして、息苦しい!?今どこ!?とりあえず、深呼吸!』


そう言われて何回か深呼吸しているとだんだん収まってきた。


「海辺の…トイレにいます…」


『わかった。迎えに行くからそこで息整えてて。電話は繋いだままで』


迎えにきてくれると聞いて一気に安心したのか、急に意識が遠のき始めた。


「_____?」


ピピッ____ピピッ___


今ではだいぶ聞き慣れてきた無機質な音に目がさめる。


「あ、目が覚めた?ここどこかわかる?私のこと覚えてる?」


「…病院。あなたは…誰でしたっけ?」


「いや私のことだけわかってない!?」


「嘘です。小牧先生です」


だんだん脳が回転し出して、出来事が蘇る。


「そっか…。私振っちゃったんだ…」


「やっぱそうか。状況と状態見て薄々そうかなとは思ってたけど」


どうやら丸1日眠ってしまっていたらしい。


両親もさぞ不安になっているだろう。


「それでね、姫奈ちゃん。だいぶ数値悪いよ。このままだと、年内だよ」


どうやらこの病気は姫奈の精神状態に合わせて変化しやすいらしく、精神が不安定だと免疫が下がって一気に悪化す


る。


「とりあえず、ご両親に報告しとくね。起きたら連絡するって約束だから」


「はい…」


宗一郎は、何を思っただろうか。もう、嫌いになってしまっているだろう。


そういうふうに振る舞ったのは姫奈の方だ。


しばらくして、両親が部屋にやってきた。


「姫…!よかった…!」


「心配したのよ…。宗一郎くんのこと、振ったんだって?」


なぜ、お父さんとお母さんが知っているのだろうか。


「昨日、姫奈が倒れて病院に戻ったっていうの聞いて、私たちもすぐに向かったのよ。でもあなたは起きなくて…」


小牧先生がそっと席を外すのを視界の端で捉えた。


「お父さんたちが帰った後、20時ぐらいだろうな。宗一郎くんが来たんだ。お前と話をしたいって言ってたぞ」


あんな振り方をしたのに、宗一郎はまだ諦めていなかった。


それを喜んでしまっている自分がいる。


もう、関わっちゃいけないのに…。


「もう、会わない。というか、会えないよ…こんな姿じゃ」


「姫奈…」


そんな時、面会時間の終わりを知らせる看護師さんがやってきた。


カーテンが締め切られていたため気づかなかったが、もうそんな時間らしい。


というか、ほぼまる二日眠っていたことになる。


「また明日、来るわね」


「とりあえず、しっかり休みなさい」


「ありがとう。お父さん、お母さん」


そう言って二人が去っていった後、姫奈は横になった。


もう、頑張る理由がなくなってしまった。


あの、キラキラした毎日は、宗一郎がいてこそ成り立っていたものだった。


その宗一郎も、自分から振ってしまった。


治療を続けるのにも、お金がかかる。


(私は…いないほうがいい…?)


そんな時、ガラガラっと扉が開き、小牧先生が入ってきた。


「本当はよくないんだけど、夜のお散歩、いく?」


「…行きます」


こそこそと二人で屋外に出る。


「後悔してる?彼と別れたこと」


「いいえ。してないです」


ほんとかー?と言って先生は笑う。


「本当に、それでいいのか?」


「…」


答えられなかった。ちゃんと、はいと言えると思っていた。


「なんで、言わないの?」


何を、とは言わなかったが、おそらく病気のことだろう。


「言えないですよ…こんなの。学校での私、知ってます?最近知ったんですけど、ファンクラブまであるらしくて。


そんな私がこんなになっちゃってるって知ったら、離れるに決まってる。宗一郎くんに振られるぐらいなら、私から


振ったほうがいいです」


「…なんで、決めつけてるの?なんで離れるって決めつけてるの?」


「え…それは…。宗一郎くんは、キラキラな私しか知らないし…ほらそれに!余命宣告まで受けてるじゃないです


か!?そんなの言ったところで、困らせちゃうだけだし、何より、悲しませちゃう」


夏の少し生ぬるい風が吹き抜ける。


「それも、決めつけてるだけじゃない?その宗一郎って子は、姫奈ちゃんの何を見て好きになったの?彼は、あなた


の今の状況聞いて、離れて行ったりする子?」


わからなかった。ただ、逃げているだけかもしれない。


「少なくとも私には、その子がそんなことするような子には思えないよ。姫奈ちゃんの話からも、ご両親の話から


も。まぁ、どうするか決めるのは姫奈ちゃんだし、私が言うことじゃないんだろうけど。後悔はしてほしくないか


ら」


どうせなら、笑顔でね、と言って先生は笑った。


その後、病室に戻り、さっきの先生の話を反芻していた。


あの後、もう一度宗一郎とのことを考えたが、一歩進むことはできなかった。


いつも、私は先が短いしな、というところにいきつき、結局振り出しに戻る。


そんなことをしているうちに十日が経っていた。


毎日様子を見にきてくれる両親によると、なんと宗一郎は毎日家に来てくれ、会って話がしたいと言ってくれている


ようだった。


その時家にいない私も、会うことができない私にも腹が立っていた。


姫奈に口止めされているから言わないものの、流石にここまで毎日必死に通い詰められて、両親も思うとこがあった


ようで、どうしてそんなに会って話したいの、と聞いたことがあるらしい。


すると、『どうしても、諦められないんです。まだ何も、話せていない』と言っていたそうだ。


宗一郎がここまでしてくれているのに、何も進めていない自分自身に嫌気がさしてくる。


おまけに、あれ以降数値が下がり続け、食欲も落ち、体重も一気に落ちていた。


そのせいで、企画していたお泊まり会は延期になっていた。…のだが。


「やっほーー!!」


「ちょっと千佳うるさい。ここ病院」


「いらっしゃい」


小牧先生が院長に掛け合ってくれ、院長が特別に、と許可を出してくれた。


「病院お泊まりだーー!!」


「だから、千佳うるさい」


相変わらずの二人に何故か安心する。


「そういえば、宗一郎と何かあった?あいつ、毎日って言っていいほどうちに来るんだけど。姫を説得してくれっ


て」


「うちにも来るーー」


「この間振った」


「へーー。…えっ!?」


「姫奈は、それでよかったの?あいつ、まだ全然諦めてなかったよ」


「うん」


「姫奈がそれでいいならいいよ。でも、最後ぐらいもう一回会ったら?」


「…考えてみるね。ありがと。…でも今日は、思いっきり楽しもう!」


その日、久しぶりに二人とたくさん喋った。


お泊まり会の翌日の検査で、少しだけ数値が上昇し、食べる量も少しだけ増えた。


「え____もう学校に行けないかもしれない…?」


病室で告げられた残酷な事実に、少しだけ明るくなった心が、また元に戻ってしまった。


もう、あの教室でクラスのみんなと授業を受けることはできないかもしれない。


これで、宗一郎とも会うことはなくなる。


本当に、これでいいのだろうか…。


小牧先生と入れ替わりで入ってきた羽田さんに、思いがけないことを聞いてしまった。


「なんか最近、毎日イケメン男子高校生が来てるのよ。なんでも、彼女を探してるらしくて。この間その子の友達が


ここから出てくるの見たって言ってるみたいなんだけど、こっちとしても患者さんの個人情報教えるわけにもいかな


いし」


話を聞いているだけだった姫奈は特に何も返答しなかったのだが、何かを察した羽田さんは、会うかもね?と言って


いた。


なんでも、病室を一つづつまわり、ネームプレートを確認しているらしい。


「姫奈ちゃんの元彼、しぶといね?院内でも噂になってるよ。イケメンがお姫様探してるって。まぁ、こっちの病棟


はあんまり立入ることできないし、そうそう見つけられなさそうだけど。この間、私も実物見たよ。すごい必死だっ


た。顔もやつれて」


それを聞いても、腹を括ることができないでいたその時、ちょうどお母さんが入ってきた。


「おはよう、姫奈ちゃん。さっき、小牧先生に聞いたよ。姫奈ちゃんの体のことも、宗一郎くんのことも。本当に、


このままでいいの?」


「お母さん…私…」


お母さんが横の椅子に腰掛ける。


「宗一郎くんなら、受け止めてくれるとお母さんは思うわよぉ?」


安心させるように笑う母の微笑みは、今の姫奈の目にはまるで聖母のように映って見えた。


そこでようやく、少し勇気が持てた気がした。


それからお母さんは一日も欠かさずに宗一郎が来ていることや、ここしばらく仕事が忙しすぎて病院に足を運ぶこと


がで来ていないお父さんが姫奈に会いたがっている話などをしてくれた。


午後になり、お母さんも帰り、昼食も済ませたところで、久しぶりに外で運動をしようと羽田さんに誘われ病室を出


た。


____宗一郎side____


「別れよう。別れてほしい」


大好きな姫奈と海に来ている時に急にそう言われて、頭が回らなかった。


「…なんて?」


そう返すのがやっとだった俺に、姫奈はまるで用意されていたような理由を述べた。


意味がわからない。


だって、順調だったはずだ。


それに…。


姫奈自身が気づいているのかわからないが、とても辛そうな、泣きそうな顔をしている。


何か理由があるに違いない。


立ち去ろうとする姫奈を捕まえたけど、それも振り切られてしまった。


周りで大学生ぐらいの女が数人騒いでいるが、今の宗一郎の耳には届かない。


やがて飽きたのか、その人たちも去っていった。


夏の海辺、人が多く行き交う中で、宗一郎だけが動いていなかった。


どのくらい経ったのかもわからない。


不意に、何故か白衣を着た女性と力がありそうな男性が慌てた様子でトイレに入っていった。


おそらく、熱中症にでもなった人がいるのだろう。


大好きな姫奈に唐突に別れを告げられた宗一郎は、自分がどうやって帰ったのかもわからなかった。


気づけば十八時を過ぎていた。


やっぱりちゃんと話したいと思い、家に向かうが、何故か姫奈と同じ、悲しさに押しつぶされてしまいそうな顔をし


た姫奈のお母さんが出てきた。


姫奈に合わせてほしいと頼むも、部屋から出てこないの一点張りで、その日は諦めた。


次の日も、その次の日も、もう何日めかになるかわからないほど毎日姫奈の家に行く。


絶対に家にいるであろう夜に行くも、絶対に姫奈が出てきてくれることはなかった。


姫奈の部屋の電気もついていない。


この家にいないのでは?と考えた宗一郎は、姫奈と仲がいい千佳や瑠花にも会いにいったが、二人は何も知らないよ


うだった。


若干いつもと違うような気がしたが、気のせいだろう。


ある日、春樹と蘇芳と会うタイミングがあった。


「宗一郎、姫奈ちゃんとは?」


「それが…」


宗一郎は春樹と蘇芳に今までのことを話した。


「なるほど…。でも、姫奈ちゃんって、そんな一方的に縁を切る子だったっけ?」


改めて考えると、姫奈は絶対にそのようなことはしない子だった。


何かがおかしいと思い始める。


すると、今まで沈黙を貫いてきた蘇芳が口を開いた。


「僕…この間姫奈ちゃんが運ばれていくのみた。何日か経って千佳と瑠花が病院に入っていくとこも見たよ」


「お前…なんで知ってるんだ?」


「僕の妹…体調崩しがちで、よく病院に行くから、僕もついていくんだ」


思いがけない収穫だった。


それにしても、運ばれていったってどういうことだ?


貧血もちだとは聞いているが…。それに、もし病院にいることが本当だったら、入院が長過ぎないか?


その日以降、病院を探し回った。病院で変な噂が出回っていうことは知らずに。


姫奈の病室があるのは五階だ。


羽田と一緒に一階まで一旦降りる。


「姫っ!!」


後ろから大きな声で呼び止められた。


姫奈の大好きな宗一郎の声だった。


恐る恐る振り向くと、そこには疲れ切ってやつれた顔をした宗一郎が、悲しげな、でもどこか安心したような顔をし


て立っていた。


下手すると、今の姫奈よりも顔色が悪いかもしれない。


「宗一郎くん…」


「話がしたい」


ここで逃げたら、後悔してしまう。


ここにきてやっと、決意が固まった。


「うん。移動しよう」


外で運動しようと誘ってくれた羽田に断りを入れ、姫奈の病室に宗一郎と共に帰った。


姫奈は個室なのでゆっくり話すなら個室の方がいい。


「どうぞ」


二人で部屋の中の椅子に腰掛けようとしたが、姫奈の体が座ったままという状態に悲鳴をあげた。


「…っ」


「大丈夫か!?」


そんな姫奈の変化にすぐに気づき、ベッドまでサポートしてくれる。


「…なぁ、姫。一個聞いていい?」


「うん」


「姫奈は貧血って言ってたけど…。あれは本当?」


「…ううん」


「じゃあ…。この状況は…?」


「ねぇ、宗一郎くん。私のこと話す前に、一個聞いてもいい?」


「うん」


「どうして、あんな振り方したのに、こんなに必死になってくれるの?」


もう、何が何だかわからない。もう少し心の準備ができてからちゃんと話そうと思っていたのに。


思いがけず出会ってしまった。


「それは、姫奈のことが諦められないから。俺の隣にいるのは、姫奈しか考えられない」


真剣なその瞳に、思わず涙がこぼれた。


「そっか…」


「俺は、姫奈のどんなことでも受け止めるから。話してほしい。俺なりに、この数日、ずっと考えてたんだぞ?姫奈


は一方的に縁を切るような子じゃない。そうしたのには、何か理由があるんだって」


その言葉を聞いて、一気に涙が溢れる。


「ごめんっ。ごめんねっ…」


涙が止まらなくて、息が苦しくなって、最近の姫奈にはもう、自分で自分の体をコントロールすることが難しくなっ


てしまったので、羽田さんにきてもらい、気持ちを鎮めた。


その際も、一切目を逸らすことはしなかった。


「私ね…病気なんだ。わかったのは、今年の四月ぐらい。その時にね…言われたの。持って、あと一年。でも、私が


かかった病気は珍しくて。重症化するケースももっと珍しかった。どうなるかわからないし、どう治療していいかも


手探りだって」


あはは、と笑いながら話すと、突然力強い腕に抱き締められた。


「ごめん。俺の方こそごめんっ」


「なんで宗一郎くんが謝ってるの?謝るのは私のほうだよ。先がないのに、付き合ってごめん。好きになってごめ


ん。悲しませたくなかった…」


「違う。俺は、姫奈がいたからこそ幸せになれた。あんな振られ方しても好きだったし、悲しかったけど、何も知ら


ずにいる方が嫌だ…!話してくれてありがとうっ」


しばらく二人で抱きしめあったまま、落ち着くまでまった。


次に宗一郎の顔を見た時、いつも見ていた宗一郎の顔よりも、綺麗な笑顔だった。


「ごめん。詳しいこともちゃんと自分の口から話そうと思ってたけど、無理だ。担当の、小牧先生にバトンタッチし


ようかな」


久しぶりに感情の振れ幅が大きかったせいか、だいぶ体が疲労していた。


「はいよ」


と言って来てくれた先生の話を真剣に聞く宗一郎の横顔を見ながら、いつの間にか眠ってしまった。


姫奈が眠りの世界に入った。


「これぞ眠りのお姫様だね」


「先生、姫奈のこと、教えてください」


「そうだね。いいかい、長くなるよ?」


そう言って宗一郎がしっかりと頷いたのを見て話し始めた。


姫奈の患っている病気、ギラン・バレー症候群の具体的な症状、非常に珍しい病気で、重症化するケースが少なく、


今回の姫奈は特別ケースで、医師たちも手を焼いていること。これまでの経過と今の状態、症状の悪化などは、姫奈


の精神状態にも大きく左右されることそして余命のことを話した。もちろん、姫奈には話すことを了承してもらって


いる。


以前、もしも、宗一郎が姫奈のことを聞いてきたらどうするか。


その時は全て話していいと言っていた。


宗一郎はしばらく、何も話せずにいた。


「姫奈ちゃん、本当に君のことが好きだと思うよ。悲しませたくなくて、あんなふうに別れを切り出した。でも、大


人の目から見ても、君は、受け入れてくれるんじゃないかと思う。ご両親もそうおっしゃっていた」


「治る確率は、ゼロじゃないんですよね」


「そうだね。でも、ここ最近の数値はひどい。これが続くようなら、回復は難しい」


「俺が、少しでも回復に向かわせます。姫奈が喜ぶようなこと、まだ何もできてないっ。まだ、カップルらしいこと


何もできてないんです…」


「そうだね。姫奈ちゃんのことを喜ばせてあげて。でも、気負いすぎないでいいからね。君が全てを背負う必要はな


い」


「わかってます。ありがとうございます」


「それじゃあ、今日はお暇するよ。ゆっくりしていきなさい」


それから一時間ほどで姫奈は目覚めた。


「わっ!寝ちゃってた!ごめんね…」


ふわっと宗一郎の匂いがしたかと思うと、次の瞬間には抱きしめられていた。


「ううん。大丈夫。一応言っとくけど、俺は別れたなんて思ってないから」


少し拗ねたようにいう宗一郎を見てふっと思わず笑いが出た。


「ごめん、あんなこと言って。でも…自分からあんなこと言っておいて、宗一郎くんに対する想いは増えていくばっ


かりだった」


「姫っ…」


「ねぇ、宗一郎くん…」


「姫奈…」


そこで、どちらからでもなく、キスをした。仲直りのキスだ。


すぐに離れてしまったが、顔を見て笑い合う。


「ねぇ、さっきね、外に運動に行くところだったの」


「わかった。ついていく」


何を言おうとしているのか、一瞬で理解したらしい。


それから宗一郎の手を借りて外に出た。


「夏だね…」


さわさわと風が吹き、葉が擦れる。


「夏休み、あと半分ぐらいあるよね?宗一郎くんは何するの?」


「俺?ここに来るけど?」


さも当たり前かのように言う。


「え!?いやいや、大丈夫だよ!?」


「俺が一緒にいたいだけだから。一緒にいさせて?」


そんなふうに言われたら、ダメだとは言えない。


顔が赤くなるのを感じ、違う方をみた。


「あれ?なんでこっち見てくれないんだ?可愛い姫のお顔が見たいですー」


明らかに揶揄っている。


そんな二人の様子を病院のテラスから見守っている小牧先生と羽田さんは安心したように顔を見合わせた。


それから毎日、宗一郎は姫奈のところに足を運んでくれる。


幸せな時間が増えたことに比例するように、姫奈の体調も驚異的なスピードで回復し、入院が決まる前とほぼ同じ数


値まで上げることができた。


「すごいな…」


そうこぼしたのは、自分の席に座って姫奈のデータを見ている小牧先生だ。特別に、宗一郎も入れてもらっている。


「宗一郎くん、やっぱり、姫奈ちゃんにとって君は本当に大事な人みたいだね。君と再会してから、数値が下がるこ


とはなく、むしろ怖いぐらいに上昇している。これなら、今まで通りとはいかないかもしれないが、学校にも行ける


かもしれない。だが、いつ状況が変わるかはわからないから、退院は認められないが」


「本当ですか…!」


「その時は、君がサポートするんだよ?ま、いわれなくてもするか。今だって、まるで夫婦のようだしね?」


そう言われ、宗一郎の耳が赤くなる。


「今院内で噂されてるやつ、知ってる?」


「…?」


「高校生のイケメン王子が、毎日お姫様のもとに通ってる。今では、その様子を少しでも見ようと院内にいる子ども


たちだけでなく大人たちも姫奈ちゃんの部屋を聞き出そうとしてるんですよー」


そう言って、羽田さんが書類を持って入ってきた。


「君たち、まるで夫婦だよ。旦那さんがメロメロなのがまたいい」


「それ、さっき小牧先生にも言われました。というか、そんなふうに見えているんですね…。いいですけど」


「いいんだ。そういえば、奥さん、探してましたよ?なんでも、散歩に行きたいらしく」


「ありがとうございます。いとしの奥さんのところに戻ります」


小牧先生や、羽田さんとも、こんな感じの会話ができるぐらい、宗一郎も病院に馴染んできた。


実際、側から見れば、本当に夫婦のようなのだ。


どこかにいく際は必ずついていき補助するし、ご飯の際も必ず一緒に食べている。


姫奈も遠慮せずにきつい時はきついと言えるようになっているし、眠たい時も遠慮することなく寝るようにしてい


た。


そんなゆっくりとした時間が過ぎ、現在は家にいる。


今日一日の帰宅が認められたのだ。


だが、なぜか当然のように宗一郎もいる。


「「おかえり」」


両親のその言葉に、思わず涙が出る。


現在回復傾向にあるとはいえ、いつ悪化してしまうかわからない。


私は、あと何回この言葉を聞けるだろうかと考えてしまう。


その考えを読み取ったかのように宗一郎がそっと手を握る。


「…大丈夫」


その一日、久しぶりの家で思いっきり、とはいえちゃんと宗一郎にセーブされながら楽しんだ。


夜までには戻らないといけなかったため、家で早めに夕食をとる。


「いってきます」


「「いってらっしゃい」」


あと、何度この言葉が言えるだろうか。


「おかえり。時間ぴったりだね」


「ただいま戻りました」


病院に帰りつき、先生に報告をする。


「ところで…一個聞きたいんだけど、ここ最近体調に変化はないかい?」


「…?特には」


「そう。それならいいんだ。それじゃあ姫奈ちゃんは部屋に戻って風呂でも入っておいで。宗一郎くんは私と少し話


でもしようじゃないか」


そういって小牧先生はニカっと笑っていた。


宗一郎と小牧はよくいろんなことを話しているようなので、特に気には留めなかった。



________宗一郎side ________


姫奈を見送って、小牧先生と二人になるとようやく先生は口を開いた。


「私の部屋に行こうか」


私の部屋、というのは小牧先生の診察室ということだ。


先生についていき、診察室の中に入る。


移動の間、先生は一言も話さなかった。


先生と対面する形で座ると、先生がやっと口を開いた。


「これ、この間の検査結果だ」


一見、数値に問題はないように見える。


「これが…?」


「数値自体に問題はないよ。ただ…」


「ただ…?」


いやな予感がする。いつも快活に笑っている先生の顔が暗い。


「最近、変だと思ったことはなかったかい?」


「変…?」


「例えば、歩きにくそうにしていたり、手足に痺れが出ていたり…言葉がうまく言えていなかったり」


「言われてみれば…」


ここ数日の姫奈の行動を思い返してみる。


直近で言えばまさに今日、歩いている途中で足が痺れたと言って少し休憩をしたし、舌が絡まったように呂律が回っ


ていない時があった。


「やっぱり…私の方でも看護師から食事がうまく飲み込めなかったことや、階段の上り下りに以前よりも時間を要し


ていることが報告されている」


でも、それとこれに何の関係があるのだろうか。姫奈自身、最近歩いていないから痺れたと言っていたし、一瞬呂律


が回らなくなることだって、普通の人にでもあることだろう。


そのくらいの、些細な変化だった。


「宗一郎くん、患者の些細な変化にはね、気をつけないといけない。現にこれは、姫奈ちゃんの病気の進行例と完全


に一致してしまっている」


頭が真っ白になった。


それでも、先生は続ける。


「これだけの症状が一気に出てきてしまっている。私も初めてのことで、上部とも今話し合いながら今後の治療方法


について見直しているんだ」


姫奈は、どうなるのだろうか。


「先生、このこと、姫には…」


「言わないよ。彼女の場合は特に精神の状態が進行に関わってくる。ご両親には説明するけど、もう少し様子を見て


からだ」


それからは、先生と今後の姫奈の様子見や気をつけることなどについて聞いた。


お風呂から上がって病室に戻ると宗一郎が中で待っていた。


「あれ、先生とのお話は?」


「終わったよ。それより、お風呂入って体調とか悪くなってないか。少しでも何かあれば言うんだぞ」


「わかってるよ」


そう答えながらふふっと笑う。姫奈と再開してから、これが口癖のように聞いてくるのだ。


「姫はこれから何するんだ?」


「そうだね〜、内緒かな」


「えぇー、教えてくれよ」


その言葉にふふっと返して誤魔化した。


「それより、もう帰るでしょ。お見送りするよ」


「いいよ。風呂入ったばっかだろ?外に出たら汚れるぞ?」


「いいの。私がしたいんだから」


手早く荷物をまとめ終わった宗一郎に続いて病室を出る。


「今日は楽しかったよ。一緒に着いてきてくれてありがとう」


「なんだ、姫の方からそんなこと言うなんて、珍しいな。ていうか、着いていくとか当たり前だろ。俺は姫が行くと


ころにならどこにでも着いていく。」


困るなぁ、そんなこと言われると、胸が締め付けられるように痛くなる。


「着いてこなくていいよ。高校卒業前最後の夏休みでしょ。春樹くんたちとも遊びなよ」


「あいつらはいいんだよ」


穏やかな会話の時間。幸せな時間はすぐに過ぎ去ってしまう。


「じゃあ、今日はここでお別れだね」


「あぁ、また明日」


「うん」


そう言って手を振る。


またね、とは言わなかった。…言えなかった。


自分でも最近自覚がある。


だって、自分の体だから。


見送りながら、待って、もっとそばにいてほしい。行かないで、と言えたらどんなにいいことだろうか。


宗一郎の姿が完全に見えなくなってから、姫奈も戻る。


だが行き先は自分の病室ではなく、小牧先生のところだ。


あの日の後も、宗一郎は一日も欠かすことなく病室に足を運んでくれている。


一方の姫奈は、手足に力が入りづらくなり、痺れることが多くなっていた。


理由はわかっている。病状が悪化してきているからだ。


なので、最近は車椅子を使うことが多くなっていた。


今日も車椅子に乗り、宗一郎と共に病院の中庭に来ている。


「ごめんね、押してもらっちゃって」


「このぐらい、なんてことない。俺は、謝るんじゃなくて感謝される方が好きだ」


「…ありがとう」


もうすぐ、夏休みも終わり、始業式がある。


学校に行けるかは、まだわからない。


「もうすぐ、夏休みが終わっちゃうね」


「…そうだな。なぁ、姫の病気のこと、蘇芳と春樹に話してもいいか?」


「どうして?」


「学校に行けるようになったらさ、知ってるやつが少しでもいた方がいいだろ?」


確かに一理ある。


「わかった」


「ありがとう」


それから数日後、その日はいつになくウキウキした様子で宗一郎は姫奈の病室にやってきた。


「おはよう!姫!」


「お、おはよう」


ここまで走ってきたのか、宗一郎は息を切らしていた。


「ど、どうしたの?なにか嬉しいことでもあった?」


始業式は来週の月曜日、一週間前なので、去年の姫奈なら憂鬱になっているだろうが、宗一郎は顔をキラキラと輝か


せていた。


最も、明日の検査次第で姫奈も学校に行けるかが決まるのだが。


今は、学校に行きたいという気持ちが強かった。


「姫奈、夏休みもあと一週間だろ?高校最後の夏休みの思い出、作らないか?」


「え?」


正直言うと、姫奈からすれば宗一郎が来てくれるだけで嬉しいし、その反面申し訳ない気もしているのだ。


だって、宗一郎がしていることは、ほとんど姫奈のためを思ってのことなのだから。


「まぁ、明日の検査の結果が良かったら、の話なんだけどな!そのためにも明日の検査頑張れ!」


「え?な、何するの?」


「それは、明日の検査結果を聞いてからのお楽しみだ!」


とりあえず、何か楽しいことを計画しているらしい。


あんなに嬉しそうにしている宗一郎を久しぶりに見た。と言うことは、姫奈は明日の検査を頑張っていい結果が出る


ようにしなければならないらしい。今日は早く寝ようと決めた姫奈だった。


その日は中庭にも出らず、院内で穏やかに過ごした。

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