訪問
日曜日
現在染島親子は宗一郎宅の前に来ていた。
「まぁまぁまぁ!いらっしゃい!」
「お邪魔します。私も一緒に来てよかったんですか?あ、これよかったら〜」
そう言って手土産を渡す。
母親たちは和気藹々と先に家に入っていく。
「姫、こっち」
「お、お邪魔します…」
「いーよ遠慮しなくて」
そうして宗一郎宅訪問は始まった。
「まぁ!そうなの!?」
「そうなのよぉ!うちの子ったら5歳の時…」
本人がいるところで赤裸々な話をする母親たち。
「なぁ、俺の部屋くる?」
「えっ」
「いやだってあんな話してるし…落ち着いて話せるとこあそこぐらいしかなくて…いやだったら大丈夫」
「い、いく!」
母親たちは話に夢中で宗一郎と姫奈が席を外したことに気づかなかった。
「ここ、俺の部屋」
そう言って案内されたのは、階段を登ってすぐのところにある部屋だった。
家自体が大きいのもあり、部屋も広い。
「お邪魔します…」
「どーぞ。適当に座って」
そうは言われたものの、どこに座ればわからなかったのでとりあえず1番近くにあったソファに腰掛けた。
「さっきは母さんたちいてあんま言えなかったけど…その…私服もかわいい」
「えっ…ありがとう…」
実は会った時に私服について何も言われなかったのでちょっとへこんでいたのだ。
「なぁ、姫…俺から離れる…なんてしないよな?」
内心驚きすぎて失神しそうだった。
「…そ、そうだね…!でも、私より好きな人ができちゃうかもしれないし…」
すると肩を引き寄せられた。
「ない!絶対にない!」
(は、ハグ!?)
何度かされているがやはり慣れない。
すぐに解放されたが感覚が残っている。
「へ、部屋…!広いんだね!」
「これでも1番小さい部屋なんだ」
ここに来てのお金持ちワード!と内心思っていると、顔を覗き込まれた。
「今日は顔色いいな」
「えっ」
「いや、この間あんなことあったし…大好きな姫奈にはずっと元気でいてほしい」
その言葉を聞いた瞬間ズキッと心が痛んだ。
(私は…嘘をついてる…でも…)
言えない。
「なぁ、姫。夏休みどっか行かない?」
「まだちょっと先じゃない?」
「だって姫人気者だから早めに予約しとかないと」
「ふふ。そうだね。でも、宗一郎ならいつでも開けるよ?予定」
そう言うと宗一郎の動きがピタっと止まった。
「大丈夫?」
「今の無自覚…?可愛すぎるんだけど…」
一気に顔が熱くなるのを感じた。
宗一郎のはぁ〜というため息が聞こえる。
「…さっきの話に戻すけど、夏休み、デートしない?」
ちゃんとデートと言われるとなんだか気恥ずかしくなる。
「…うん」
「よっしゃ…!あ、でも引退試合あるから7月の終わりとかになるかも…」
「大丈夫だよ!」
宗一郎はサッカー部に所属していて、後輩からも人気なのだ。
「どこ行きたい?やっぱ夏といえば…海に…プール、花火とか?」
「海行きたい!…あと、花火も見たいな…」
「欲張りだなぁ。いいよ。全部しよう」
あはは。と2人で笑う。
できることは、全部やりたい。先生が言うには、8月の終わりには歩けなくなる可能性が高いと言っていた。
(どうか、間に合いますように)
そのあと他愛もない話をし、母親たちと合流してお茶菓子を食べながらたくさんの話をした。
「あら!もうこんな時間!」
「あらあら!ほんとね〜」
「じゃあそろそろお暇しようかしらぁ。明日も学校だし」
今日のお茶会はそこでお開きとなった。
「また来てちょうだい!」
「えぇ!」
「お邪魔しました…!」
「また明日、学校でな」
「うん!」
蓮王子親子と別れ、帰路につく。
すると突然前触れもなく手に力が入らなくなり手に持っていた鞄が地面に落ちた。
___トサッ___
「え…?」
横を歩いていた母が突然止まった姫奈にキョトンとした顔をした。
「姫?どうしたの?なんで拾わないのよぉ?」
「ひ、拾えないの…。手が…手の感覚がない…」
徐々に体中の血が引いていくのを感じた。
まだ7月の初め。
この間は足だった。足には若干麻痺が残っている。今回は手だ。
病院に行き、先生に話してみないとわからないが、感覚的に、速い気がする。
「…だ、大丈夫よぉ、お母さんが持っていくわねぇ。早く帰りましょう。明日病院に行かないとねぇ。大丈夫よぉ。
まずは家にある薬を飲みましょうか」
平然を振る舞っているが、動揺が滲み出ている。
「う、うん…」
母が人目を忍んでないていることを姫奈は知っている。
すすり声を聞くたびに胸がいたむ。申し訳ないと思う。そしてそれと同時にもっと生きたいと思う。
もっといろんなことをしたい、と考えているうちに、発作が起こって過呼吸になることも少なくなかった。
家に着いて薬を飲む。その間も手の麻痺は戻らなかった。
薬を飲んでしばらく経つと薬が効いてきたのか腕の感覚も戻ってきた。
「おかえり姫奈。急に腕の感覚がなくなったんだって?困るよなぁ」
と言って父はははは。と笑っている。
「…うん。お母さんは?」
「母さんは…部屋にいるよ」
お父さんもお母さんも私には知られていないと思っているのだろうが、部屋にいる、と言われたときには泣いている
ことを知っている。
「明日、病院に行くんだろう?きっと大丈夫さ」
「ありがとう。そうだといいな。お茶会でお菓子いっぱい食べたからお夕飯はいらない。先に寝るね」
「おやすみ」
そう言って自分の部屋に戻る。
ベッドに横になると疲れが出たのかすぐに眠ってしまった。
朝、昨日の服のまま目覚めた。
慌ててスマホを見ると宗一郎からのメッセージが来ていた。それもかなり。
蓮王子家を出た後の出来事で頭が真っ白になり、薬を飲んだ後も手が動かしづらく、さらにすぐに寝落ちしてしまっ
たため、いつもならしている、家に着いたよ、という報告を忘れてしまっていたのだ。
文面だけ見てもかなり心配させてしまっているようだ。
返信しようとキーパッドを出すと、ちょうどその時家のインターホンがなった。
こんな時間に配達だろうかと不思議には思ったがそのままスルーした。
それから間もなくお母さんが下の階から姫奈を呼ぶ声が聞こえてきた。
「姫ー!降りてきなさーい!!」
はーい、と返事をしてスマホの画面を一旦閉じて降りていく。
「なに?」
「玄関、行ってみなさい」
不審に思いつつ言われた通り玄関に行くと、なぜか玄関には宗一郎が制服姿で立っていた。
なぜ!?と思いスマホで時間を確認すると、ちょうど通学の時間だったので、これから学校に行くのだろう。
しかし姫奈は病院に行く予定なので、先ほどまで寝ていたし、ましてや準備などしているはずもない。
「お!おはよう…ってあれ?昨日の服のまま…?」
「おはよう…昨日家に帰ったあと寝落ちしちゃってたみたいで…」
恥ずかしすぎて目を合わせられない。
「学校行く時間だけど…大丈夫か?」
「あっ…今日は、病院いくから学校には行かないの」
「そうなのか…やっぱ昨日なんかあった?」
「いや…?何もないよ!っていうか、いっぱい連絡してくれてたのに、ごめんね…」
「あぁ、いや…元気そうならいいんだ」
「というか、宗一郎くんなんでここにいるの?」
どうやら一緒に学校に行こうと思っていたらしい。申し訳ない。
「いやいや、大丈夫だよ。明日は学校来る?」
「明日は行くと思うよ」
「そっか。じゃあ、明日迎えに来る。夏休みまであと1週間もないし、これからは来る予定だから。じゃあ、俺は学
校行ってくるな」
「えっ、いいのに…」
「いーの。俺がしたいだけだから。それに、姫奈に何かあったらって思うと落ち着かないから、帰りだけじゃなくて
朝も一緒に行く」
「わ、わかった。ありがとう…それと、いってらっしゃい」
「おう!」
そう言って宗一郎は出て行った。
夏休みが始まるまであと数日。その間だけでも一緒に学校に行って帰れることが嬉しかった。
___病院___
「進行が早いわね…。この調子だと、夏休み中には入院してもらうことになりそう…」
「そんな…。遊びに行く予定もあるし、体育祭だって…」
「早めに入院して、体を休めながらだったら体育祭も出れるかもしれない。でも…その分、家で過ごす時間は少なく
なると思っておいて。その判断は姫奈ちゃんに任せるわ」
病気がわかり、余命宣告された時以降初めての大きな衝撃だった。
「……っ!!」
瑠奈や千佳と遊びに行く予定も、体育祭も。宗一郎とやりたいこともまだまだたくさんある。
「私…入院します。やりたいことが、まだ沢山あるんです。そのためなら…」
迷いは一瞬だった。
「本当に…いいのね?」
その問いに、頷きで返す。後悔はなかった。
その後、手続きなどをし、その日のうちに入院することが決まった。
家族もそのことに反対はしなかった。
夜、荷物なども移動し終え落ち着いたので瑠花や千佳と電話していた。
『…そっか』
『姫が決めたことなんでしょ?だったら、何も言うことはないし、私たちもできるだけサポートするから。それよ
り、私たちに教えてくれてありがとう』
「瑠花ちゃん…ありがとう」
病院から出ることができるのは9時以降になるので、そこを考慮して時間をずらしたり、夏休みに予定していた予定
の時間を調整した。
『それにしても、病院かぁ…』
『千佳、あんた…』
『いやいや!そーゆーことじゃなくて!!姫の家はさ、比較的学校から近かったじゃん?でも、病院ちょっと遠いか
らさー』
「あはは。確かにそうだね。無理してこなくて大丈夫だよ」
『『毎日行く!』』
綺麗にハモった。
どうやら、毎日来てくれるらしい。
「じゃあ、もう少しで消灯だから」
『おっけー!』
『じゃあ、明日の終業式で』
「うん。またね〜」
そう言って、電話を切った。
その後宗一郎とメッセージでやり取りをし、眠りについた。




