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予感

 目を覚ました時、なぜか自分の部屋にいた。


夢を、見ていたような気がする。


とても綺麗な場所で…。


みんなが遠くにいるような夢…。


「大丈夫か?」


びっくりして飛び起きると、宗一郎がいた。


「な、なんで私の部屋に…?」


すると、お母さんが入ってきた。


「あらまぁ覚えてないの?」


お母さん曰く、1時間ほど前家の前が騒がしいと思い出てきたところ、宗一郎が倒れている私を抱き抱えていたのだ


そうだ。


「どうしようかと思っていたら、お母さんが出てきてくださったんだ。姫も起きたことだし、俺帰るわ」


「ふふ。泊まっていく?もう23時だもの。高校生をこの時間に返すわけにはいかないわ〜」


完全に姫奈を蚊帳の外にし、話を進めていく2人。


結局、宗一郎を車で送っていくことになった。


すると、お母さんが宗一郎を部屋から出した。


「姫奈、体調悪い…?薬は飲んでるの?」


「ちゃんと、飲んだよ。でも急に…眩暈がして…」


「2週間後が定期検診だけど、明日病院にいきましょうか」


「うん…宗一郎くんには…」


「大丈夫よ。病気のことは何も言ってない。貧血が酷かったのかしらね、って言っておいたわ。姫奈が自分の口から


言うまで、お母さんは何も言うつもりはないからね」


「ありがとう…」


じゃあ、体が楽な服に着替えて下に降りてきなさい。と言ってお母さんは部屋を出ていった。


お母さんには感謝しかない。


宗一郎がいるのにスウェットで行くのは気が引けたが、楽な服がこれくらいしかないので、着替えてリビングに降り


ていった。


リビングに降りていくと、お父さんと宗一郎が何やら話していた。


「それで?うちの姫奈にはなんて言ったんだい?」


「それは、ストレートに」


「お父さん!恥ずかしいからやめてよ!」


「え?でも素直に答えてくれたぞ?」


すでに色々と話をしているらしい。


「あら、降りてきたの?それじゃあ、宗一郎くん送りに行きましょうか」


運転席にお母さん、後頭部座席に2人で座っている。


他愛もない話をしていると宗一郎の家に着いてしまった。


姫奈の住む一軒家とは比べ物にならないほどの大きさだ。


「あらまぁ、宗一郎のお家大きいわねぇ」


「ここまでありがとうございました」


すると、家の玄関から女の人がパタパタと走ってきた。


「そうちゃん?遅かったわねぇ」


程よくウェーブがかかっている黒髪の女性はどうやら宗一郎のお母さんのようだ。


さすが宗一郎のお母さん。美人だ。


「あら?あらあら?女の子じゃない!まぁ〜わざわざ送ってくださったんですか?お礼しないとねぇ。お茶でも飲ん


で行かれます?」


「…母さん、今何時だと思ってる?」


はぁ…と呆れたように言う宗一郎。


「そうだったわねぇ。じゃあ今度家にいらして?歓迎するわ。もちろんお母様もね!」


「わかったから、家に入ってて」


そう言うとおとなしく家に入る宗一郎のお母さん。


「すみません。うちの母親、天然なんです。改めて送ってくださってありがとうございました。姫奈、ちゃんと寝て


貧血治して」


そう言って宗一郎は姫奈の頭を撫でた。


大きくて温かい手。なんだかドキドキと共に安心もする。


「…うん」


それじゃあ、と言って別れる。


家に帰って自分の部屋に戻ると、まだ少し眩暈がするのを感じてその日は早めに寝ることにした。


「姫奈さん、お久しぶりですね。定期検診まではまだありますが、何かお変わりありましたか?」


「実は…」


そう言って昨日のことや最近のこと、薬はちゃんと飲んでいることを伝えた。


全て話終わると先生は少し考え込んで、待合室にいるように言った。


「お母さん、もしかして私って…」


「大丈夫よ」


嫌な予感がした。あの夢が現実になるような…。


「染島さんこちらへお越しください」


そう言って案内されたのは、先ほどの診察室ではなく、小さい個室だった。


「どうぞ」


そう言われて椅子に座ると、先生が話し始めた。


「姫奈さん…今から少し酷な話をします」


そう前置きを置くと、意を決したように口を開く。


「姫奈さんの病気は通常、私が処方した薬を飲めば症状は抑えられ、快方に向かっていくものです。最初、お話した


ことを覚えていますか?」


「…力が入りづらくなったり、手足が痺れたり…、あとは…」


「そう。重症になれば呼吸筋の麻痺、自律神経の乱れによる生命の危険もあるとお話ししたと思います。ここ数日の


姫奈さんの症状、薬の効きの悪さ、進行速度から総合的に判断して…」


先生はまっすぐにこちらを見る。


「重症になる可能性が極めて高く、このままの進行速度でいけば、持って半年です。この病気の重症者は極めて少な


く、記録も少ないため、あくまで推測ですが、記録によれば…そのぐらいです」


何を、言われているのかわからない。


モッテハントシ…?


理解ができない。


「持って半年…。今は6月…12月まで…?」


みんなと…卒業ができない?


「あくまで推測です。決まっているわけではありません。ですが…一つお伝えしておかなければならないことがあり


ます」


まだ、何かあるの…?


「現在、この病気の重症者に対する特効薬的なものが…まだ開発されておりません。そもそもの重症者の数の少なさ


ゆえに、実験もできず…。申し訳ありません」


そう言って先生は深々と頭を下げる。


鈍器で殴られたような頭を必死に回転させる。


「…先生のせいじゃありません。それで…これから現れるかもしれない症状は…」


「病気の進行速度にもよりますが…おそらく8月の終わりには、手足の痺れがひどくなり、立っていることが難しく


なると思います」


「先生…私…好きな人がいて…」


ぼろぼろと泣き出した姫奈の話を先生は優しく聞いてくれる。


「この間の文化祭では…私のクラスが優勝して…!みんなでっ、体育祭も優勝しようねって…言ったばっかりなの


に…!」


「うん…」


「みんなと一緒に卒業もしたいっ…!」


「先生も…諦めないから…。一緒に頑張って卒業しよう…」


もう、涙が止まらない。気づけばその場にいた全員で泣いていた。


家に帰って、姫奈は自分の部屋でベッドに転がっていた。


8月の終わりには、立っていることが難しくなる…。


あと2ヶ月もない。


体育祭は9月。体育祭なら、なんとかなるかもしれない。


でも、卒業式は3月。


先生の予測では今年の12月までもてばいい方だということだった。


いや、諦めない。先生も一緒に頑張ってくれると言っていたのだから…。


こうして考えてみると、やりたいこともいっぱいある。


宗一郎とは…どうするのが正解なのかわからない。


別れた方がいい?そのままの方がいい?


ぐるぐると考えていると、気づけば夜になってしまっていた。


リビングに降りていくと、お父さんとお母さんが待っていたかのようにソファに腰掛けていた。


「姫奈…これからどうしたい?」


「…お父さん、いろんなことがしたい…。家族みんなで旅行に行ったり、料理作ったり…!宗一郎くんともデートし


たり…、宗一郎くんのお母さんとも仲良くなってみたい…」


「そうね…お母さんは…姫奈の好きなようにしたらいいと思う。姫奈の人生だもの。そりゃあ、姫奈がいなくなるな


んて考えられない…。けどね、お母さんたちにできることならなんでもするわ」


「お母さんの言うとおりだよ。姫奈の好きなようにしなさい。…学校の先生には話しておかないといけないけど、そ


れ以外の人たちに話すかどうか、よく考えるといい。お父さんたちからは言わないから。」


「うん…ありがとうっ!」


また涙がぼろぼろとこぼれ落ちてくる。


「ただ、これだけは約束してくれるかい?」


それから姫奈は絶対に無理しないこと、体調に異変があったらすぐに知らせることを約束した。


病院の担当の先生とも連絡をしているので、先生とも情報共有をすることを約束している。


次の日、少し早く学校に行った。


先生にはお母さんの方から直接先生に説明してくれると言っていた。


「おはよう」


「瑠花ちゃん!?いつもこの時間に来てるの?」


「うん」


「あのね…今日の放課後、時間ある…?」


放課後、千佳も呼んで3人でファストフード店に来ていた。


「それで?話って…」


この1日ずっと暗い顔をしていたせいか、千佳も真剣な顔をしている。


「何かあった?」


しばらく経って、深呼吸をする。


この2人に話すか、とても考えた。


でも、クラスに病気のことを知っている人がいてくれた方がいいだろうし、何よりこの2人には隠しておきたくなか


った。


「あのね…」


姫奈が言いづらそうにしているのを見て、2人は優しく声をかけてくれる。


「姫のタイミングでいいよ。どんなことでも受け止めるから」


「一旦、なんか食べてからにする?」


「それは千佳が食べたいだけでしょう。でも、それもいいかもね」


「いや、今言うよ」


2人をまっすぐみる。


「私ね、私…病気なんだ…」


沈黙が走る。


ずいぶん長い時間が止まっているように感じた。


「え…?」


先に沈黙を破ったのは瑠花だった。


「そんな…え?冗談よね?治療すれば治る病気とかでしょう?」


「ううん、この間お医者さんにね、持って半年だって言われた」


「え…?どーゆーこと?理解できないんだけど?冗談だよね?姫がさ、そんな…」


「千佳、黙って」


「2人ともごめんね」


「いや、姫が謝ることじゃないよ。私たちに話すかも相当悩んでくれたんだろうし…。話してくれたことは嬉しい。


それで…詳しく聞かせて?」


そう瑠花に言われ、姫奈はこれまでのことを話した。


当初は薬を飲んでいけば治るだろうと言われたこと。重症になったケースが少なく、いまだに特効薬が開発されてい


ないこと。これからの症状のこと。みんなには話さないでおこうと考えていること。そして、これからしたいこと。


「…わかった…。全部、ぜんぶ叶えよう…!」


「私たちに話してくれてありがとう…!言えなくて…辛かったよね…ごめんね…」


千佳も瑠花も話終わる頃には号泣していた。


周りのお客さんからなんだなんだと注目を集め始める。


「ちょ、千佳ちゃんも瑠花ちゃんも泣かないでよ!他のお客さんから見られてるよ!」


「これが…泣かずにいられるかぁ!」


「千佳、声大きい」


泣きながらもちゃんと千佳を宥める瑠花。


「とりあえず…、お店でよう。家にくる?」


2人を連れて家に帰ると、お母さんがすぐに出迎えてくれた。


2人をソファに座らせている間に薬を飲む。


今処方されている薬は、痺れを抑える薬や、呼吸を安定させる薬、どれも特定の症状にしか効かないもので、症状が


現れるようになったる随時飲むように言われている。


薬を飲むと、痺れは治ってきた。


その代わり、めまいがしたので、今は壁にもたれかかっている。


それに気づいた2人が駆け寄ってくる。


「姫…!大丈夫!?」


「あらあら、ごめんなさいねぇ。驚かせちゃった?」


洗濯物を取りに行っていたお母さんが戻ってきた。


「しばらくじっとしていたら治ると思うから、大丈夫よ」


「姫のお母さん、姫から…病気のこと聞きました。少し…いいですか」


「あら、聞いたのねぇ。わかったわ。向こうで話しましょうか」


「千佳は姫と一緒にいて」


「アイアイサー!」


しばらくして、めまいも治ってきた。


「千佳ちゃん、ありがとう」


「ううん!それより、こんなことはよくあるの?」


「うーん、最近は…あるかな。どうかした?」


「だって、ある程度聞いといた方が対応とかしやすじゃん!」


「…ありがとう」


改めて、いい友達を持っていることを実感した日だった。


「あら、姫奈、もう大丈夫?」


「うん、よくなったよ」


「そう、じゃあ2人ともゆっくりしていってね。なんなら今日は泊まっていく?」


「え!?いいんですか!?」


いつもなら遠慮してその日に泊まります!とか言うことがない瑠花が今日はやけに乗り気だ。


「だよね!行動するなら早い方がいいし!1日でも無駄にしてらんないもんね!今日は計画立てだー!!」


「いいわよぉ、それじゃあ親御さんにも連絡しておくわねぇ」


姫奈と瑠花と千佳の親は親同士でも仲が良いので、ここはお母さんに任せておいても問題ないだろう。


そのあと、お父さんも帰ってきて、5人で夕飯を食べる。


お風呂も上がったあとは、リビングにある机で3人で計画立てをしていた。


ちなみに、姫奈の部屋には3人も入らないので、ここのリビングで寝ることになっている。


ふと何気なくスマホをみると、鬼のように宗一郎からの連絡が来ていた。


サッと青ざめた姫奈を見て何事かと2人も覗き込む。


「うわぁ…」


「宗一郎ってさぁ…意外と過保護…?」


「とりあえず…電話してきな?」


「うっ…そうするね…」


メッセージの文面からして心配がほとんどだったが、少し怒られそうな気がする。


トゥルルルル…


『姫!?』


「ご、ごめんね…メッセージ気づかなくて…」


『いや、それよりなんともない?』


「うん、大丈夫」


すると、はぁ〜っとため息をつく音が聞こえた。


『めっちゃ心配した…またこの間みたいに倒れてたりしないかって。でも、無事ならよかった。伝えたいこともあっ


たんだ。電話できてよかった』


「伝えたいこと?」


『母さんが、今週の日曜、家に来ないかって』


「え!いいんですか!」


『うん。お母様も一緒にどうですかって』


「行く!行きます!」


『じゃあ、母さんに伝えとく。明日は土曜日だから会えないけど、メッセージは送るから。ちゃんと見て。じゃない


と俺が死ぬ』


「え…?」


『じゃあ』


と言って一方的に電話は切られた。


死ぬって…どうゆうこと?


疑問を残しつつリビングに戻る前にお母さんがいるところに寄る。


「お母さん、今週の日曜宗一郎くんのお母さんに来ませんかって誘われたけど…」


「あら!もちろん行くわ!」


「あ、もう返事しちゃった」


「どんなお洋服着て行こうかしらぁ。手土産も買っておかないと…」


そんなお母さんを残してリビングに戻る。


「おかえり〜」


「姫が電話してる間にいろんな候補出しといたよ」


「わぁ!いっぱい!」


その日はワイワイ盛り上がり、楽しかった。


宗一郎said ________


今日は、姫の様子がおかしい。


普通に過ごしていたけど、少し暗かった。


放課後になり、一緒に帰ろうと誘ったが、いつものメンバーで遊びに行くらしく、断られた。


入学した時から一目惚れしていた女の子が、今は彼女になってる。


入学式の日、学校の裏にある大きな桜の木を静かに見ていた彼女、染島姫奈に恋をした。


それからというもの、別の女の子から告白されても一度も付き合ったことはなかった。


「今日はオヒメサマと一緒に帰るんじゃないのか」


「友達と遊ぶんだってよ」


「…宗一郎拗ねてる」


ふっと笑う2人。


「まぁ、俺はよかったなと思ってるよ。だってお前一年の頃から好きだっただろ?ファンクラブのクラブ長にまでな


ってさ」


「お姫様、そのこと知ってるの?」


「知ってるわけないだろ。てか、なんで2人は姫のことお姫様呼びなんだよ」


「だって…、なんかオヒメサマって感じじゃん。でもさ、なんか最近はテンシサマって感じがする」


「はぁ?何言ってんだ姫はいつも天使だが」


「…春樹の言いたいこと、わかる気がする。なんか、気づいたらいなくなっちゃいそう」


「そうそう」


すると、突然教室の入り口から春樹を呼ぶ声が聞こえた。


「あ、あの…!春樹くん!ちょっといいかな?」


「だってよ春樹、お呼び出しだぞー」


チッ…


「お前舌打ちした?」


「…春樹、キャラ」


「おっと、危ない。それじゃあ行ってくる」


「おーよ」


実はこの春樹、学校では頭のいいクール系を演じているが、本性は口が悪く、まるでヤンキーだ。


それから五分と経たず戻ってきた。


「…最短記録更新?」


「で?あの子3-Aの可愛くて有名な子だろ?」


「はぁ?確かに、可愛いかもしれないけど、少なくともお前の彼女のほうが可愛いと思うけど」


「おい、姫と比べるなよ」


「…お姫様と比べたらいけないと思う」


「俺にとってのお姫様もいるからね」


そう、この春樹にも好きな女子がいるのだ。その相手がなんと、同じクラスで、姫奈の友達でもある瑠花だ。


「お前、告ったりしねぇの?」


「うーん、考えてはいるけどね…」


そして、告白されるのには慣れているくせして告白する側になるとビビっている。


「何やってんだか…もうあと9ヶ月で卒業だぞ?」


「わかってるよ」


そのあと久しぶりに3人で帰った。


家に帰ってから夕飯を食べお風呂に入る。


ひと段落してからスマホをみると、珍しく姫奈からの連絡が一つも来ていなかった。


いつもなら、何かしら来ているはずである。


「何かあった…?」


またこの間のように倒れかけていたりしているのではと思い連絡を入れる。


電話もしてみたが出なかった。


とりあえず待ってみようと思い、気を紛らわせるためにテレビを見ていると、姫奈からの電話がかかってきた。


ほっとしつつ、電話に出る。


電話越しでの姫奈もかわいい。


いつまでも聞いていられる。


できるなら、ずっと俺のそばにいてほしい。


そう、願わずにはいられなかった。

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