文化祭
あれからというもの、今のところ身体にこれといった不調はなく、気づけば6月になっていた。
我が校では6月に文化祭をするのが恒例で、今は文化祭特別準備期間となっている。
「えーっと、うちのクラスはメイド・執事喫茶をやることになってるんだけど、今からは…」
そう、私のクラスである3-E組はメイド・執事喫茶をすることになったのだ。
そんな感じでクラス委員の子が話をまとめていき、大まかな役割分担が決まった。
「姫は衣装制作だっけ?まぁ、手先器用だもんね〜」
「そうなの!ミシンを使うのは好きだから、おまかせあれ!」
そんなことを話していると、同じ衣装係の子たちが話しかけてきた。
千佳ちゃんに手を振ってその子たちの元へ走っていく。
それからは衣装係で話し合いをして、大体のデザインと、作る際の材料、そして採寸の日取りを決めた。
ちなみに今回は全員分の衣装を作るのではなく、接客をする人たちの人数分、おそらく25着ほどだ。
作る側の人たちは別に表に出るわけでもないので、動きやすい服で、ということになったらしい。
「ゴリっゴリのメイド服になったらしいじゃない。勘弁して…」
「大丈夫だよ!ちゃんと一人一人に合うように作るから!」
そう、瑠花も接客をすることになったのだ。
だが、さっきも言った通り、一人一人に合わせてイメージを崩さないようにおとなしめの見た目の子には静かめのメ
イド服を作ることになったのだ。
これから約2週間半をかけて衣装を制作していくことになる。
衣装係は25着をこの短期間で仕上げねばならず、さらに一人一人のイメージにも合わせるため、朝のちょっとした
時間にも、ミシンを使わずに作れるところは作っていく。
基本的に我が校の文化祭は土日の2日開催で、ここら辺の地域では有名な文化祭だ。
そのため、4時間目が終わったらすべて文化祭の準備時間ということになる。
「姫奈ちゃん、ここのフリル部分がどうしてもくしゃっとなっちゃって…どうしたらいい?」
「こういう時はね、こうしたらいいんだよ!」
そういってパパッとやり方を見せると、お礼を言って作業に戻っていく。
こんな感じで姫奈は衣装係のリーダーのような存在になっていた。
そして慌ただしく時間は過ぎていき、文化祭3日前になった。
「「「できたー!!!」」」
衣装係の声がミシンのある家庭科室の中に響き渡る。
そう、衣装がついに完成したのだ。
「じゃあ、早速教室に戻って試着してもらおうか。個人に合わせて作ったから、ちょっと細かい部分の調整もいるだ
ろうし、みんなそれぞれ必要なもの持っていってね」
「「「アイアイサー!姫奈さん!」」」
そういって衣装をそれぞれ持って教室に入る。
すると、教室中から歓声が沸き起こった。
「衣装、できたの!?」
「早く着たい!」
「今回の衣装は一人一人のイメージを崩さないように作ったの。だから、一人一人試着してもらうねじゃあ最初、誰
が着る?」
すると、宗一郎が口を開いた。
「俺、最後でいい」
「えー、じゃあ俺が最初に行くね」
そういって出てきたのは、春樹だった。
「じゃあ、その次」
と言って春樹の横に立ったのは蘇芳。
そんな感じで次々と名乗り上げ、ご丁寧に試着待ちの列が出来上がっていた。
並んでくれているが、細かい手直しもするので、それなりに時間もかかる。
このまま並んでもらっていたら、他の作業が滞るのではないかと悩んでいると、教室の後ろで何かをしていた千佳が
こちらにきた。
「はいはーい、接客の皆さーん、そのまま並んでてもこっちの仕事捗らないんで整理券渡すんで番号呼ばれたら試着
いってくださーい」」
ナイスアイデアすぎる!千佳ちゃん!
と心の中で思っていると、千佳がこちらを向いてウィンクをしてきた。
こうなることを見越して作っていたのだ。
なんとも頼もしい。
そして手直しも順調に進み、あと一人で最後!というところで放課になってしまった。
どうしようかと悩んでいると、宗一郎の方から話しかけてきてくれた。
「姫、放課後でもいいよ」
「ほんと!?手直しは今日終わらせたかったから、助かる!」
そう、姫奈はフロアマネジメントも依頼されていたので、なんとしてでも今日衣装を作り終えたかったのだ。
早速試着してもらう。
執事の衣装で戻ってきた宗一郎はそれはもう当たり前にかっこよかった。
姫奈は心の中でこっそり、宗一郎くんは放課後でよかった…とおもった。
なぜなら、先ほどまで、顔面偏差値の高い我がクラスを一目見ようと大勢の人が押しかけていたからだ。
そうして早速試着してもらう。
「姫、これすごいな。ぴったりだ」
すぐに着替えて戻ってきた宗一郎は思った通りカッコ良過ぎた。
宗一郎に合わせて作られた衣装は、宗一郎の爽やかさややんちゃさを失わせないよう、腰にはチェーンを加え
て遊び心を出している。
だがやはり襟元などに調整が必要そうだったので、襟元に手を加えるため針を持って襟に手をかける。
すると、思った以上に顔が至近距離になっていて、びっくりした。
「わっ!」
宗一郎も照れているのか若干顔が赤い。
「ご、ごめん」
「いや、大丈夫だ」
そこからも少し手を加え、立ちあがろうとするとなんだか視界がちょっと歪んだ気がした。
気にせず立ち上がると、急に眩暈に襲われ、倒れそうになり必死に堪えようとするも結局は倒れかけてしまった。
倒れそうになった姫奈を支えてくれたのはもちろん宗一郎で、とても心配そうな顔をしている。
「大丈夫か!?体調悪いんじゃないのか?とにかく保健室に行こう」
「いや、大丈夫だよ。多分、今日のお昼抜いちゃってたからだと思う」
「確かに…衣装係はみんな抜いてたな。なんか食うか?」
「いや、今は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
嘘はついていない。衣装を仕上げるためにみんなで昼食を抜いたのは事実だ。
だが…姫奈の場合はそうじゃない。
(いけない、薬は毎食後に飲む…けど今日はお昼ご飯抜いてたから薬飲んでいないんだ…)
どうしよう。もう6時になるぐらいだから夕ご飯の後に飲むしかない。
もし体調が悪くなったりしたらどうしよう。
そんなことを考えていると、突然視界が暗くなった。
なんと、宗一郎にハグをされているのだ。
混乱した頭で、かろうじてえ?と声を発する。
「ほんとは、文化祭でいうつもりだったんだ。」
何を?と考えていると急に視界が明るくなった。
真っ直ぐに宗一郎が見つめてくる。
「姫、好きだ。付き合ってほしい」
え?今彼はなんと言った?私と…?
「え?」
「実は、去年の文化祭から気になり始めてたんだ。姫はいろんな男にモテる。でも姫は鈍感だろ?それで…他のやつ
には奪われたくないって思うようになったんだ」
そう言われ、必死に頭を回らせる。
だって、ありえない。宗一郎がこんな可愛げもない女を好きになったりなんか…
すると思考を読んだかのように宗一郎が言った。
「姫は可愛い。他の誰でもそう言うはずだ。だから、俺だけの姫になってほしい」
そう言われたあの日、私は今は返事をできないと言った。
あんなことがあっても、宗一郎は変わらず普通通りに接してくれる。
いろんなことを考えた。
自分の気持ち。病気のこと。この先について。
私は宗一郎が好きだ。大好きだ。でも、難病持ちの私は、長く生きられないかもしれない。
もし私が死んでしまったら、悲しい思いをさせてしまうことになる。
あぁ、でもそうなる前に別れたらいいのかな…?
もし、付き合っている期間中に悪化したらどうしよう。一緒にいる時に何かが起こってしまったら、心配させ
るだろうし、迷惑になる。
それに、この間知ってしまった。
薬を飲んでいなければ何かしらの症状が出てしまうことを。
でも、それでも宗一郎を他の子にあげるなんてできないし、ちょっとでもいいから宗一郎の隣を歩いてみたい。
そう思った姫奈は、これからよろしくお願いしますの言葉を伝えることを決心した。
文化祭当日初日。
10時から始まる文化祭の準備のために最終チェックをしている。
現在は9時30分。
姫奈もフロアの配置や飾り付けなどのチェックをし、衣装に着替えに行く宗一郎が見えたので、追いかけて行
った。
「宗一郎くん!」
呼ばれて少し目を見開いた宗一郎は少し驚いていたようだった。
「ちょっと、いいかな」
「あぁ、ここじゃなんだし、ちょっと歩こう」
校内は文化祭の準備をする生徒や、外部から来る人たちへの対応の準備をする先生たちで慌ただしい。
少し歩いてやっと静かになったところで、姫奈は口を開く。
宗一郎がしてくれたように真っ直ぐ目を見つめて。
「この間の、お返事をしようと思って…!」
ある程度予想はしていたのだろうが、緊張した面持ちになる。
「宗一郎くん、あのね…私も宗一郎くんのことが好きです。こんな私でよければよろしくお願いします」
言い終わるやいなや、視界がまたもや暗くなった。
2度目のハグをされているのだ。
「…ありがとう、姫。これからよろしくな」
私を離して、そう言った宗一郎の声は本当に嬉しそうで、心なしか目が潤んでいるようにも見えた。
その後少しして宗一郎は着替えに行った。姫奈も教室に戻り、教室を見回す。
すると、にわかに廊下が騒がしくなった。
「イケメン…!」
「可愛すぎるだろ…」
宗一郎含め我がクラスの接客係たちが着替えて戻ってきたのだ。
全員が衣装を着ているのを見るのは今日が初めてなのだが、やはり個人の魅力を引き出せるような衣装を作り
上げているのもあり、破壊力が強い。
我がクラスの接客部隊だけで文化祭が盛り上がるだろう。別の意味で。
「さすが、私たちが手塩にかけて作った衣装…!」
そう言って衣装係たちは喜んでいる。
「かっこいい…」
思わず姫奈も口にだしてしまっていた。
思わず見惚れてしまっていると、突然宗一郎がこちらに振り向いた。
スタスタと歩いて来る。
「衣装、ありがとな」
立っているだけで目を引く宗一郎はみんなの視線を一気に集めている。
しばらく見惚れていた他のクラスメイトたちが、騒ぎ出す。
「え!?特定の女子とは親しくしなかった宗一郎くんが…!?」
「いや、まだ衣装のお礼言っただけじゃん…!そうと決まったわけじゃ…」
外野のことなど気にしない宗一郎はそのまま姫奈に話しかける。
「なぁ、俺のシフト11時までなんだけど、それ終わったら一緒に回りたい」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「え、う、うん」
戸惑いつつそう答えると、宗一郎は満足そうに春樹くんたちの方へ戻って行った。
「「「えぇぇぇぇ!?!?」」」
クラス中から、いや正しくは廊下からも、驚きの声が聞こえた。
「え、ちょ、どーゆーこと!?てか、え!?」
「我らが王子が…」
廊下からはファンクラブの子達も聞こえてくる。
「これから私たちはどうしたら…」
「いや、でももし本当に付き合っていたとして、それが宗一郎様の好いた方なら、私たちは応援すべきだと思いま
す」
「確かに…姫奈さんはこれから姫奈様とお呼びしなければ!みんなであのお二人をお守りしましょう!」
という謎の団結も生まれていたりした。
一方その場に居合わせた男子メンバーたちはというと、
「宗一郎…まじかよ!?俺姫ちゃん狙ってたのに!」
「まさか俺たちの癒しをお前が奪うなんて…」
「このことは姫奈様見守り隊の隊長にお伝えしなければ…!」
などとさまざまだった。
その後、ちゃんと千佳ちゃんと瑠花ちゃんに報告した。
「おめでとー!!こっちからしたらやっとか、って感じだけど!で、どっちから!?」
「千佳、この後姫迎えに来る王子様いるんだからそこらへんにしときなよ。千佳も私とシフトの時間同じでしょ?ほ
ら、行こ」
「ちょ、色々聞きたかったのに〜!今度ぜっっっっったい聞くから!」
「それは私も同意見よ。じゃあ、彼氏さんと楽しんでね、姫」
そう言って2人はシフトに入って行った。
いつ来るかな、と待っていると、突然視界が真っ暗になった。
「だーれだ?」
「宗一郎くん…!」
「バレちゃったか〜」
パッと視界が明るくなったと思うと、やはり後ろに宗一郎がいた。
そしてなぜか周りの人たちが固まってこちらを凝視している。
かと思えば、普通は騒ぎそうな子たちが何事もないかのように仕事をしている姿も目に入った。
それからは宗一郎と一緒にクラス企画を見て回ったり、一緒に食べ物を食べたりした。
その間、どうしても姫奈には不思議に思うことがあった。
なぜか、宗一郎が姫奈の好みをまるで把握しているかのように接して来るのだ。
「なー、姫、ここのワッフル食べる?」
今もそうだ。あまり姫奈のことは知らないはずなのに、姫奈の好きなワッフルを勧めてくる。
「う、うん。ありがとう。あ…あの、なんで私の好きなものばかり勧めてくるの?」
そう質問すると、宗一郎の耳が赤くなった。
「…去年からずっと見てたから」
思った以上に返答の声が小さかったので、聞き取れずに聞き返すと、
「見てたんだ。去年から。姫のことを。姫、よく友達と商店街近くに遊びに来てただろ?実は俺、商店街の中にある
喫茶店でバイトしてて。よく見かけたし、甘いもの…特にワッフルなんかは幸せそうに食べてたから…」
「え!?見られてたなんて…!そ、そうなんだね」
なるほど、と納得した姫奈と恥ずかしそうにしている宗一郎はその後も文化祭を見て回った。
文化祭も大成功に終わり、今から後夜祭がある。
あの後分かったことなのだが、宗一郎のファンクラブや、その他のところで、姫奈と宗一郎が付き合ったことが連絡
で回ってきたらしく、ファンクラブでは、二人を邪魔せず見守るように、などと謎のお達しがきていたそうだ。
「ところでさ、姫。薬飲まなくていいのか?」
「えっ」
なんで宗一郎が薬のことを知っているのかとびっくりする。
「いや、だってここ数ヶ月毎日昼飯のあと飲んでないか?言っただろ、姫のこと見てたって」
「あ、そっか…びっくりしたぁ」
「何にびっくりしたんだ?」
それはもちろん宗一郎が姫奈の病気のことを知っているのかと思ったからなのだが、ここは曖昧に流しておく。
「あ、もうすぐじゃない?今年の好評だったクラスの発表!」
「お、そうみたいだな。でも、薬はちゃんと飲めよ?」
「うん、わかった。じゃあ飲んでくるから、先に行ってて」
そう言って宗一郎とわかれた。
薬は教室にあるので、教室に行く。
でも、薬は飲まなかった。
飲みたくなかったとかいうわけではなく、時間が時間なので、帰って夕ご飯を食べてからの方が薬を飲む時間が狂わ
ずに済むからだ。
あと1〜2時間くらいだし、大丈夫だと思う。
不自然にならないように少し時間を置いてから戻る。
姫奈が通う高校の文化祭では、生徒と来場者一人一人に、投票用紙が配られる。
どこのブース、お店が良かったかを投票してもらい、集計をとって、後夜祭の1番初めに発表する。
そして優勝したクラスには、なんと10万円が授与される。
それが終わった後は、ビンゴ大会や、ちょっとしたレクリエーションがあり、最後には花火を打ち上げて終わりとな
る。
もうすぐ発表があるという放送を聞いて慌ててステージのある広場に戻る。
すると、なぜか自然と道が開けていった。
まるで進んだ先に宗次郎がいるといわんばかりに。
どうしたらいいか戸惑っていると、千佳や瑠花が人だかりから現れた。
「遅かったじゃん」
「あ、うん。えーと…?」
「あー、これね、多分ファンクラブの中で情報共有されてるんだと思うよ」
「そうそう。なんか新しいファンクラブもできたみたいだし」
「え…!?どういうこと?」
「宗一郎様と姫奈様を見守る会、だったかな。もーちょっといい名前あったでしょって感じなんだけどね。でも、今
日発足した割にどこのファンクラブよりも入会者数が多いのよ」
「ちなみに!うちらも入ってるよ!」
そう言ってニカっと笑う千佳ちゃん。
もう何が何だかわかんないよ…
「とりあえず、多分この先に宗一郎くんがいると思うよ。行ってらっしゃい」
未だ状況が理解できなかったが、とりあえず道を進む。
「あ、来た。こっちこっち」
そう言って姫奈のことを呼んだのは宗一郎だった。
「急に後ろに道が開けたから何事かと思ったら姫奈ちゃんだったのか」
と、驚く春樹。
「なんでもいーよ」
と言って気だるげにしている蘇芳。
改めて思う。こんなに暖かいところに私がいてもいいのか、と。
「はやく、発表が始まる」
宗一郎に急かされて慌ててみんなの元に行く。
そんなことをしていると、司会が話し出した。
「さぁみなさんお待ちかね!優勝クラスの発表のお時間です!!」
賞金10万ということもあり、静まり返る。
「今年の優勝クラスは〜?」
「「「おぉぉぉぉ〜〜〜????」」」
「3-Eです!!!」
「うぉぉぉぉ〜〜!!!」
「やっぱりか…」
ふたつの正反対の反応が会場に響いた。
なんと、姫奈のクラスが優勝したのだ。
「いや、あれは負けても仕方ない…」
「宗一郎くんたちがいるクラスでしょ!?そんなの勝って当たり前じゃん!」
前者は他クラスの普通の生徒の声。
後者はファンクラブ会員の声だ。
「ここで!優勝したクラスにインタビューをしたいと思います!どなたがいいでしょうか…そうですね、今回の3-E
の出し物は衣装がすごかったと聞きました!そこで、衣装作成を担当したという染島さんに聞いてみましょう!」
えぇ!?私!?と驚いているうちにステージの上へ引っ張り上げられてしまった。
「さぁ、インタビューしていきましょう!それではまず…」
姫奈は特に噛んだり言葉に詰まることもなく順調に質問に対して答えていった。
だが途中、なぜかはわからないが手足が痺れてきていることに気がついた。
そしてマイクを持っている手に力が入りづらくなっていることも。
(手足が…痺れてる…!薬を飲まなかったから…?どうしよう…動けない…マイクも落としそう…)
混乱し、受け答えもぎこちなくなってしまった。
(今は質問に答えることだけに集中しよう)
意識を受け答えだけに集中させたその時…
鼻腔をくすぐるいい匂いと共にふわりと肩を抱かれた。
驚いて首を左に向けると、宗一郎の顔が至近距離にあった。
しかもなぜか体を支えるように立っている。
(体調が良くないって気づかれた…?でもまさか…)
すると、耳元で宗一郎の声が聞こえた。
「後で、お話しようか?」
心なしか怒っているように聞こえた。
「インタビュー長くない?去年もっと短かったと思うけど。そろそろ姫は返してもらうから」
そう言い放って、なんと姫奈を抱き抱える。
(こ、これはお姫様抱っこというやつ??)
恥ずかしすぎて気絶したくなる。が、痺れが強くなってきて歩けそうになかったのも事実。
ステージを降りた宗一郎は観客席ではなくなぜか教室へ向かった。
お姫様抱っこのまま教室に到着した宗一郎と姫奈は現在宗一郎が床に座り、その膝上に姫奈が乗っている形となって
いた。
だが、宗一郎はむすっとしたまま何も言わない。
「え、えっと…?」
「なんで体調悪いの隠してた?でもステージに上がるまでは普通だったよな?薬、ほんとにちゃんと飲んだのか?」
「い、いや最近貧血気味で…でも今は治ったから大丈夫だよ!」
そう言って宗一郎の膝から降り、くるりと一回転して見せた。
幸いしびれも弱まっていて、宗一郎を納得させることができたようだ。
「…なら、いいんだけど…いやよくないけどね。姫にはずっと元気に俺のそばにいてほしい。」
「大丈夫だよ」
(重症になることはほとんどないって聞いてるけど、治るまでは今日みたいなことがあるかも…)
その後は若干痺れを感じながらも後夜祭を楽しみ家に帰った。
後日、打ち上げに行くことになった。
もちろん、焼き肉である。
お店に入ると、すでにほとんどが集まっていた。
「あ!遅いよー!姫はこっち!」
声がした方を見ると千佳と瑠花がいて、ちょうど二人の真ん中が空いている。
どうやら席を確保してくれていたようだ。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
席に座って周りを見て見ると、宗一郎を見つけた。
姫奈がいるところが左隅だとしたら宗一郎のいるところは右隅なので、真反対である。
「みんなちゅーもーく!!ただいま全員揃いましたので、これより文化祭打ち上げを始めます!かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
お肉を焼き、みんなとワイワイ騒ぐ。
衣装の話や、宗一郎との話、いろんなことを話した。
途中煙に咳が出たこともあったが、楽しい時間はすぐに過ぎ去っていった。
終盤に近づき、学級委員の子が二次会に行く人を募り出した。
カラオケということもあり、姫奈ももちろん参加である。
「やってきましたぁ!二次会!何人かは帰りましたが、盛り上がっていきましょう!!」
「「「おーーー!!」」」
カラオケでは、人数が人数なので、グーとパーで部屋分けをした。
残念ながら宗一郎とは別の部屋になったが、千佳と瑠花とは同じである。
「好きな曲入れてこー!私の実力を見せてやる!」
そう言ってモニターを操作し始めた千佳。普段はこういうところは苦手そうな瑠花も選曲に乗り気だ。
「姫も入れなよ!」
「う、うん…」
そう言って千佳からモニターを受け取ったのはいいものの、家族以外とはカラオケに来たことがないので、どんな曲
を入れたらいいのかもわからないし、何よりみんなの前で歌うのは恥ずかしい。
そんなこんなしていると、あっという間に他のみんなが曲を入れ、姫奈の入れた曲はだいぶ後半になってしまった。
「姫、どんな曲入れたの?」
「えぇっと、恋愛ソング…かな?」
「おっ、宗一郎に向けて?」
しまった、そんなこと考えていなかった。
ただ自分が歌える曲で、みんなも知っているような曲がこれぐらいしかなかったのだ。
「い、いや、そういうわけじゃないよ!そーゆー瑠花ちゃんこそ曲何入れたの?」
「私?私はねぇ、ロック」
「え!?瑠花ちゃんがロック!?」
“ジャーーーーン!!!”
エレキギターの大きな音が響いたので、驚いてスクリーンを見る。
すると、がなりを入れながら瑠花が歌い出した。
「…すごっ」
「かっけぇ…」
その場にいた全員が驚いていた。
それもそうだ。姫奈でさえ想像できなかった声があの瑠花の口から奏でられているのだ。そして上手い。
そんな友達の知らなかった一面に驚いたり、他のクラスメイトの普段の声からは想像できないような声に驚きながら
たくさん笑ったりもした。
時間もしばらく経ち、いよいよ姫奈の番が来た。
今までポップな盛り上がる系の曲だったこともあり、いきなりの恋愛ソングで場が静まり返った。
〜♪
姫奈が歌い始めると、なぜかみんなが息をのんだ。
「どこからか天使の歌声が聞こえると思ったら…」
いきなり声が聞こえてきたと思ったら部屋の入り口に宗一郎が立っていた。
驚きすぎて声が上ずりそうになるのを必死に抑えて歌い切る。
すると、ぱちぱちと拍手が起こった。
「い、いや…うますぎ?」
「天使の歌声かと思った…」
「わ、私も…」
「いやぁ、心が浄化された〜」
「ちょ、千佳ちゃんまで!?というか宗一郎くんなんでここに!?」
色々と状況に追いつけなかったが、姫奈も宗一郎と二人になりたかったので、勇気を出して散歩に誘った。
カラオケを出て二人で歩きながら話す。
「姫、歌ってる姿可愛かった」
(ちょ、そんなストレートに…!)
一気に顔が赤くなる。
するとよこでふっ、と笑う気配がした。
「笑わないでよ!もう!」
「ごめんごめん。でも部屋に乱入したのはそれだけじゃない。体調…大丈夫かと思って。」
まさか、そんなことを聞くためだったとは思わなかった。
「うん、大丈夫だよ!」
「なら、いいんだけど…。寒くなってきたし、戻ろう」
「そうだね…!」
そこからまた来た道を戻ってカラオケまで戻り、みんなと盛り上がった。
「じゃあ〜もう9時になるし、解散するか〜」
「次は体育祭だな〜!」
「次も優勝するぞ!」
「「「おーーー!!!」」」
カラオケを出てそれぞれ帰路につく。
「え、姫一人で帰んの?」
「危ないよ?」
「大丈夫だよ!うち、すぐそこだから!」
「そう…?でも…」
「大丈夫!じゃあまた学校でね!」
そう言って歩き出す。
なぜかはわからないけれど、この場をはやく離れた方がいい気がしたのだ。
帰り道、急に世界がグラグラし始めた。
「え…?」
地震でも起こっているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
だんだんと足がおぼつかなくなる。
少し休憩しようかとも思うが、座る場所もない。
なにより、もう少し歩けば家である。
というかあと数十メートルだ。
だがいよいよ立っていられなくなり、倒れそうになる。
(まずい…アスファルトは痛い…)
だが倒れた時、なぜか痛くはなかった。
(だ…れ…?)
意識を手放す寸前に聞こえたのは、姫奈を呼ぶ大好きな人の声だったような気がする。




