☆私の呪い☆
今回登場する神、サラについて説明します。
三つ子の真ん中。数千年前に生まれた神の家系の子。また、ザキルの義理の姉。ザキルが数百年前行方不明になってから懸命に捜索をしていた神。オリヴィアが信頼を寄せる少ない人物の一人である。
マニのご飯を用意するのは面倒くさくなってへーレとザキルを連れて孤児院に向かう。ルーヴァたちは一度私のなかに戻ってもらおう。
毎食やってくる必要はなくなった。と言うのはヴィッペと彼女の友人、アレネロ──『砂場』という名前から私が変えた──たちが大分献立を考えられるようになったからだ。
彼女らならいつか私を超える料理人になるかもしれない。
今日は数日に一度の私が料理を教える日だ。私たちが来るとすでに料理の準備を始めていた。
「ししょー!」
小さい子達が私の足を掴む。いつの間にか師匠呼びされるようになっていた。
"様"呼びを子どもにさせるのはイヤだし。そもそも今私のことを様呼びする奴らは彼女らの意思のもとでそう呼ばれている。
私は一度として様呼びを強要したことはないからね。
(今日も騒がしいですね)
(今日はあんたたちの機会はないよ。ほかの人達を連れてきたからね)
(それは悲しいですね……)
私がどうしてもいけない日は堕霊たちに任せていた。
多分こいつらが吹き込んだのだろう。
「元気にしてた?」
「うん!」
「良かった。寒かったりしない?」
「ししょーがきてからあったかくなったよ!」
そうか、なら良かったよ。
施設が隙間だらけで寒すぎたから、『三権権能 堕霊・断罪』で隙間を無理やり塞ぎ、変な人が入ってこないようにドーム状に覆った。
ファーニンのように自由にしている卒業生はほぼ居ないため、訪ねる人もいない。
ただ私が解放した時に居た子どもたちは全員行き来自由だ。出ていった子どもたちもここに残る子どもたちの会いたくなるかもしれないし。
もちろん、私がその子と薄いつながりを持たなきゃ行けないからイヤな子も居るだろうと思ったが、ヒーローだと思われたようでみんな喜んで受け入れてくれた。
そのおかげで何かあった時守りやすいから助かる。
魔力の増幅実験のような人道に反するどころじゃない実験もしていたようだ。抑え込めれば強い機械人間になるのだとか。そんなクソみたいな実験をする奴らを軽蔑する。
だから、私がそういう異変にすぐに気がつける程度の経路はあるに越したことない。
「ししょー、おさんぽいきたい!」
「ご飯のあと行こうか。どこ歩く?」
「いつものおやまがいい!」
"いつものお山"というのはポレモス魔牛が住むポレモス山だ。
フールは最近不穏だし、二度と戻る気もなかったスツェーナ大陸にちょこちょこ戻っている。知人もいないし戻っていないも同然だ。
(……サラ様から連絡があります。見ますか?)
血の気が引いた。
(では読みますね。『なぜ妾に挨拶をしない? 沈界の子供らを連れて来るのは良いが、友である妾を蔑ろにするとは』とのことです。サラ様はあの国の最高権力者の一人ですよ。かなりお怒り……というよりかは悲しそうでした)
あいつ何千年も生きる神だろ。何が悲しそうだよ。
(適当に返信しといて)
(了解しました。しかし、返信するためには……)
(わかった、あとで散歩している最中にしといて)
なにやら光を遮断する何かが返信を妨害するらしい。私のスキルはなぜか通り抜けられるのだが通信用の魔力ではここは少し遠すぎたようだ。
しかし懐かしい名前である。私が最後の戦争に勝ったのは彼女たちの支援の賜物。
わたしが沈界に来ることを相談した人の一人である。
「ししょー?」
「ぼーっとしてた。えっとお土産持ってきたんだ。食後食べてね」
これはスーパーで買ったキャンディだ。カラフルな色がかわいいと思って買った。
銀貨1枚程度で、一人一袋買ってやろうと思ったのだ。もちろん今一袋はあげない。来るたびに一人三粒ずつあげよう。
毎食そんなお金は出せないが、こういう機に差し入れとして買うのは悪くないなと思った。
「わぁ! ありがとー!!」
「僕いちご味だ!」
「わたし……ねぇ、お姉ちゃん。これなんてよむの?」
「それは"びわ"だよ。ルナトで生産される甘い果物」
ザキルも面倒見のいいやつだ。連れてきてよかった。
「し・しょ・う! 私の分はー?」
妹よ、あなたの分があるわけないだろう?
「あとでね」
ここで無いと言うと子どもたちが優しすぎてマニに譲ってしまう。多分少ない食料をみんなで分けてたべていたからだろう。
「バランちゃんは?」
一人の少年が私にそう聞いてきた。
バランを連れて帰ってこれたおかげでここを解放することができたから彼らにとって救世主的な存在らしい。もちろん、ファーニンの人気も私に劣らないどころか10代においては私よりも信頼されている。
「まだ寝てるみたい。君たちもまだ寝ててよかったのに」
「えー、ししょーがきてくれるなら、ねてるばあいじゃないよ!」
「そう? 私ここに来るのそんな珍しくないと思うけど」
「そーじゃないよ! おさんぽいくんでしょ?」
あまりそれが広がると全員を連れて行くことになるから大変なんだけど、可愛いからそのときはその時だ。
迷子にならないように堕霊か天使にも警護を頼もうかな。今日は連れてきた人数も多いし、みんなで行くのもありかも。
そうそう、いつも散歩の時は、太陽の無い世界に生きる彼らに太陽を見せると混乱を招くから、フィヤルナさんの能力を借りて太陽光を遮断している。
「オリちゃん、目的忘れてない?」
ナイスだ、へーレ。
最近すぐに頭のなかが入れ替わっちゃう。そのうちに会話が進んでたりするから気をつけないと。
「そうだった。料理教えてくるから、お散歩のときにまたお話しようか」
たぶん明日から数日間はここに帰ってこれないし、今のうちに楽しむのが吉だ。料理を教えたら今日のうちに散歩に連れて行ってやろう。
「やくそく!」
「ええ。約束」
指切りをして私は厨房に向かう。
「師匠!」
「準備はできてるみたいだね。ごめんね、来るのが遅れちゃった」
「とんでもないです! 今朝は?」
「うん、魚を使った料理を作るよ。まずは普通に焼き魚にしよう」
私は大柄な魚を二十尾ほど出す。これはこの前フールを探検してたら見つけた湖で釣りをしてたら釣れた魚だ。
釣りか……いつかみんなでやってもいいかもしれない。
「わあ……」
「君たちに渡すときは捌いた状態で渡すよ。骨とか残ってたらケガしちゃうし。それに手が臭くなっちゃうからね、というわけで──よし、これを焼けばいい。一品目は終わりね。次はコロッケにしよう。雷の国で学んだんだ。サクサクでおいしいよ」
教えてくれたのは──あれ、誰だっけ。
「……よし、じゃがいもを茹でよう。まず水洗いしてみて。泥を落としてね」
「了解です」
ヴィッペは私からじゃがいもを受け取り、スキルの水で洗い始める。
きれいになったじゃがいもを水の入った鍋に入れる。すると、アレネロが口を開いた。
「師匠、僕が火つけますよ」
「……ううん、大丈夫。というのも火だけは私が操れないからね。他の魔力ならできるんだけど」
理由は別だ。
私の彼らの侵食を食い止める力が効くのが遅ければ『黒』に汚染されてしまう。すると、火のスキルを使った加熱ができなくなってしまうわけだ。
それ以外の属性は私の『掃除屋』で回収できたのだが。
すでにある手段としては彼らを天使に組み替えるという荒業だ。しかしデメリットが多すぎる。
希望者だけ適応するというのも無理だろう。子どもを人じゃなくするのだから。
しかし、スキルを『黒』が完全に支配すると天使に変えるのはほぼ無理だ。少なくとも今の私にとっては。
天使に変えるというのは、相手の魔力を私の『掃除屋』のスキルで完全ろ過して返すことによって出来る。
黒き炎の対抗手段が『料理屋』しかない私にはできないと言ってもいい。
そもそも『掃除屋』に炎の権能がないのもあり、どうしても炎となると『料理屋』を意識してしまう。そうすれば純粋な魔力に『黒』が混ざってしまい、それが呪いのような働きをして変わらなくなる。
私の穢れを彼らには移せない。
トマトの匂いは、過去の私を想起させた。




