☆焼き魚と魚コロッケ☆
私はコンロに火をつけて、じゃがいもを投入する。
「師匠にもできないことがあるんですね」
「あるよ〜。他にも、弓は使えない、とかいろいろね」
「え、他の武器なら使えるんですか?」
「教えてあげようか? 弓なら私の友だちが得意だよ。狩りとかにも使えるでしょう」
アレネロは少しためらったあとに、
「俺、師匠みたいにギルドに入りたいんです。ブローモスに入れるようになりたくて」
世界で活躍するギルドの集団は6つある。火山国のプロリオス、太陽国のクローロス、秀国のブローモス、教王国のイオーデース、鉱国のアスタトス、精霊国のテネシン。
この世界ではその6つのうちどれが推しかという会話は自己紹介の定番なのだとか。
私が聞いたことがないのはそのどれもフールにやってきたことがないからだそうだ。
「だから、大剣の扱いを知りたくて」
「大剣ね、良いよ。ただ、ヴェレーノって猫のほうが得意だと思うから彼に教えてもらって。基礎訓練みたいなものは私が教える」
私がそう言うと、ヴィッペが、
「もう! アレネロ、そう言う話はあとでしてよ! 師匠困ってるじゃん!!」
と言ってくれた。別に困ってはいないが、魚の処理を終わらせたいし助かる。
「……ごめんなさい、興奮しすぎました……」
「ううん、大丈夫。夢を語れるのはすごいことだからね。料理ができればそういうところにも入りやすいし、頑張って! ……さあ、じゃがいも終わった?」
残りのじゃがいもはすべてキレイになっている。
私がそうされたら嬉しいから、彼女らの頭を撫でてやる。
「魚を炒めるよ。コンロに火をつけて」
魚に塩と酒をかけてもらう。
そして、油を引いたフライパンに寝させる。
火が通ってきたらそれを解すことを繰り返す。
骨と皮を取り除き、魚の準備は終わった。次は水から茹でたじゃがいもを取り出す。
そして、新しく洗ったじゃがいもを茹で始める。
じゃがいもはすでに皮を取ってあり、潰すだけだ。ボウルに入れ、潰す。
塩と胡椒を加え、魚と混ぜる。
あとは成形して、小麦粉、卵、食パンを砕いた粉の順でつけて揚げるだけだ。
これをあと一回すれば人数分のコロッケができる。
子どもたちは衛生に気をつけてくれているし、そもそも私は影で『掃除屋』を使って無菌状態にしてるから食中毒の心配もあるまい。ちゃんと加熱もさせてるしね。
「あとはできるね?」
「「「はい、師匠!」」」
それにしても私が師匠か。
彼らの"お姉ちゃん"みたいになりたかったのだが、仕方がない。
私はザキルが面倒を見ている子どもたちのもとに向かう。
ザキルは私を見つけるなりすぐに、
「オリちゃん『恵灰能力』使ってもいい?」
と聞いてきた。
きれいにするためにゴミを私のなかに送るため、一応の確認なのだろう。
魔力通信してこなかったのは私が料理を教えているのを邪魔したくなかったようだ。
やはりいい子である。
「あとできればプールみたいにしてもらえる? 子どもたち用に」
ほう、面白いことを考えるじゃないか。
それは私じゃなくてマニだな。
4つある噴水を繋げられたら楽しいのだろうが、ソレはあとで考えよう。
「なら私がやるよ。魔力はとっといたほうがいいよ」
「だって、あたしが考えたんだもん、オリちゃんの魔力を使うのはもったいないよ」
これはいわば、奢る奢られる論争みたいなもんだ。
俺が誘ったんだから払わせてよ、私のほうがいっぱい食べたから私が払うよ、みたいな。
こんな会話を前ヴェレーノとやったな。
しかし、魔力に関しては命に直結するため親密な人としか交わさない。
「神ノ恵技 掃除屋」
こういう時に重要なのは"無理やりさ"である。
「あっ!」
ふっふっふ。この私がそのような会話を続けるわけがないだろう。
「もうご飯だから水だけ入れてもらおうか」
マニが来た。さっき呼んでいたのだ。
「水ためて」
「うい! 神ノ御力 蒼水ノ大槍」
ダイナミックに注がれた水は透明できれいだ。
「ナイス! じゃ、戻ってコロッケ食べよー!」
私たちのスキルを眺めていた子どもたちを呼び中に戻る。
「配るの手伝うよ!」
マニは手伝い始めたようだ。
しかし残念だな。君とへーレはすでに洗い場担当である。
最近は私が適当に木で作った容器を使っているからそんな多くはないのだが。
子どもたちは各々でコロッケを2つづつと焼き魚をとる。
そして、私が一切指導しなかったスープはトマトスープだ。
買い出しも子どもたちが担当していた。今どき、背中に泡があると居づらいみたいで今度それも解決しないと。
「師匠、飲んでみてください。師匠に習った通りトマトは茹でてから冷やして皮を剥いています。あとは色々味見をしてみて足りない味を補ってみました」
創作意欲は花丸だな。さて、味だ。
私は感謝して受け取る。
多分、コロッケのことを考えてさっぱりしたスープを選んだのだろう。
少し口に含むと、トマトの酸味と胡椒のあっさり感が良くできている。味も花丸でいいだろう。
「うん、おいしいよ! 良くできている」
「ありがとうございます!! 実は特に練習した料理の一つなんです」
「横目で見たけどずいぶん手慣れてたもんね。包丁とかでケガしないようにね」
こんな可愛い弟子たちを料理で怪我などさせたくない。
「もちろんです! でも、師匠のほうが心配ですよ。いつでも俺たちは師匠のことを待ってますので」
そうとだけ言って彼は厨房に戻り料理の配膳を再開した。
私はコロッケをサクッと食べて子どもたちのところに向かう。
「ししょー! ここにすわって!」
そう言われて促されるままに座る。
皆私がコロッケを持ってないことを不思議がっているようだ。
「私はもう食べたよ。みんなが食べてるところを見たくて来たの」
「ウソだよ。わたし、まえ、そのウソつたことあるもん」
ちくりと胸が痛む。
オトナが持つ美談はすべて、彼らには通用しない。
「はんぶんあげる! ししょーももっと食べたらもっとかわいくなるよ!」
「ししょうはかわいいじゃなくてかっこいいだよ!」
子どもたちは至って真面目だが、当の私は少し恥ずかしくなってきた。
「ししょーはかわいーもん!」
こんな私のために争わないで状態あるかな。
「ほう、あなた達わかってるわね。しかし、残念だわ。"尊い"こそがオリを象徴する言葉よ」
何だコイツ。ついに勝手に出れるようになったのか。
「セレイア姉ちゃんだ!」
あんたは姉ちゃんなのかよ。私がそう呼ばれたかったのに。
「それで、それがオリの手料理かしら?」
「そーだよ! セレイアねーちゃんもたべる?」
「いいのかしら? なら貰うわ。ふふ、それで湖の水を枯らしてたのね」
ばか! そう言いかけた。子どもの前でそういう言葉は使わないように、という自制心のおかげで抑えられた。
「違うよ。釣ったんだよ」
「あら、そういうことだったの? ふふ、慌てるオリも尊いわぁ! そうだ、今度オリに釣りに連れて行ってもらったら?」
こいつ、私をどうすれば窮地に追いやれるかを熟知してやがる。
「いつ行くの!? 僕行きたい!」
「わたしも!!」
喧嘩が収まったから文句も言えないな。
「わかった! 次来た時に行こう!」
100本も釣り竿用意しなきゃいけないし、子どもの安全を守るためにたくさんの仲間を連れて行かなきゃいけないな。
食事の時間はあっという間に過ぎ去り、今日一番の大仕事が始まるのだった。




