☆情報交換☆
私は、煙突に腰掛ける。空を見上げ、空に浮かぶ国を探してみるが見当たらなかった。
「来たよ」
「はっはっは! 嬢ちゃん、よくここがわかったな!!」
「私、屋根が好きなの。あなたの服に屋根の汚れがついてたから、屋根にいたことに気がついたの」
リートは上着を脱ぎ、汚れを見つけ、大笑いする。
「おら、鳥だから、高いところが好きでな!」
「これはあなたの仕業でしょう?」
私は屋根の中央にある木の葉の塊を指差す。中央は窪んでいてそこに座っていたのがわかる。
「はっはっは! いい観察眼をしているな!!」
リートは腰に手を当て、胸を張るようにそう言った。この声量だったら下まで聞こえてそうだな。
「さて、そのままで良いぞ。泡蘭は来ないのか? ここの方が嬢ちゃんの顔がはっきり見えるぞ。はっはっは!」
「……そう? なら、お邪魔しましょうかしら」
茶葉のいい匂いのする手のひらが私の頭をこねくり回す。……なぜ皆私の頭を撫でるのか。
その哲学的問いを前に私は考えることをやめた。しかし最近、一種の愛情表現であるとヨルメたちの面倒を見る内に自然と分かったからだ。
通りすがりで私の頭を撫でた小泡の背中を見つめながら久しぶりにそう思った。
「こんなところで二人、どうかされたんですの?」
「おらたちが革命派と会ってきたことを共有しようと思ってな」
「ならば、あたくしは阿莉の尊顔でも眺めてようかしら」
小泡は足を組み、私の隣に座る。少し風が強いのか彼女の髪の匂いがする。とても優しい、良い匂いだ。
「ふふ、気に入ってくれたら嬉しいですわ」
あれ、顔に出ていただろうか。ごまかす必要もないから頷く。
「あたくしの主様も好きな香りですの。白檀という植物のお香ですの。魔物除けの効果があるとも言いますけど、あまりあてにはなりませんわ」
「へぇ……今度私にも紹介してよ。血の匂いが気になるからさ」
「そうですの? それならば、全くそんな事ありませんわ。しかし、祟りを祓うとか。ですので、良いと思いますわよ」
私の肩に柔らかい手を置く小泡。
「はっはっは! 嬢ちゃんらは相変わらず仲が良いこった! よぅし、そろそろ情報交換をしようか。今回の戦争で思ったほどの利益が出なかった帝国はもう一度挙兵するそうだ。今回は、負けなくてよいのだろう?」
「ええ。あなたたちは出る幕がほとんどないかもだけど」
「へぇ? それはなぜですの?」
小泡は私にそう聞いてきた。私は大きく頷いて、
「今回は私が本気を出そうかと思ってね」
私はスキルから紙を取り出す。ソル帝国に捕まっていた時に盗んだ物の一部だ。
「この、魔獣部隊……というのがかなり厄介な気がしてね。私たちで掃討しちゃおうかなって。……ほとんどない、は言い過ぎたかも。城の占領を頼みたいなって」
いま──当然だが──ソルに対してはかなりの弱腰外交でソルからの完全独立のためには国をひっくり返さなきゃいけない。
革命のお手伝いはしたことがあるし、大丈夫だと思う。
思考の整理をして、私は自分の発言に頷く。
「ふぅん? 阿莉、この国の軍と言ってもいいあたくしたちに謀反を起こせってことですの?」
やべ。それを忘れてた。
「嫌ならやらなくてもいいよ。ごめんね、考えなしだった」
反省しなきゃな。軽率な作戦だった。
しかし、この世界ではあまり魔獣はいないらしいし、どう分割しようか。
「……はっはっは、嬢ちゃん真面目だから本気にしちゃったぞ! 泡蘭どうするんだぁ? おらは知らんぞ」
「はぁ。あんたのせいで阿莉の"やっちゃった顔"を見れなくなっちゃいましたわ」
え、もしかして、私おちょくられてた?
「どういうこと? 私をバカにしてたの?」
「ふふ、言い方が悪いですわ。そもそも阿莉、あなたのお願いなら断らないですわ。それに軍はやめたと、言いましたし」
「あれ冗談じゃなかったの!?」
私は驚く。だって、この国を守るために来たって言ってたし。
「その国はもう無くなるのでしょう? 勝ち馬の群れが走ってるのなら、乗るのが当然ではなくって? しかも先頭はあなたですし」
私の顎を冷たい指先が通過する。でも、その冷たさだけではない不思議な感触に混乱しそうだ。
私はいい仲間を得た。
小泡は屋根から飛び降りて、部屋の中に消えた。
「……彼女は、ひどい人見知りだ。なのに、嬢ちゃんには最初から『小泡』と呼ばせた。そして、『阿莉』と呼ぶ。どちらも、家族や親友にしか使わない呼称だ」
リートは純白の羽根を撫でながら、続ける。
「嬢ちゃん。あなたは──神様なのか? ならば、納得がいくのだ。嬢ちゃんが強い理由も、なにもかも」
うん、そうだよ。
そう言おうとして、口が動かない。だってまだ違うから。
「神様なのかな。たぶん、半神。妹のおかげで半神になれただけの、出来損ないだよ」
私が出した声はくぐもっていて、少し震えていた。
リートは何も言わずに私の体を抱きしめた。そして、少し息を吐き、
「嬢ちゃんは良くやっている。……みな、嬢ちゃんを心配している。だから、彼らを頼るといい。そうすれば、彼らは絶対に嬢ちゃんを救うだろう」
いつもの大きな声ではなく、優しい声色に拳に力が入る。
より強くリートに身を寄せる。
「──私、子どもみたいだね」
「……おらの年下はみな子どもだ。安心して大人を頼ると良い。きっと、迷いながら正解を教えてくれるだろう」
私の背中まで包む翼がより私の身体にくっつく。
「そもそも、"子どもみたい"というのは悪いことじゃないぞ」
私はリートの優しさで安心できた。
「……お客さんだ。来るか?」
その声で見下ろした屋根の下には炎の明かり。
放火ではなさそうだが、島兵だ。
しかもリーダーは隻腕で、その断面には私の魔力がこびりついている。
全くもって記憶にない。敵兵のスパイか?
「行こうか」
私はリートの胸から離れる。
私はすぐに屋根から飛び降りる。すると細い腕が窓から出てくる。避けようとしたがいきなり過ぎてできなかった。
「阿莉、あたくしも行きますわ」
小泡は私を横抱きしたまま外に飛び出る。
裸足みたいだが大丈夫なのだろうか。
少し心配になってきたから、小泡の全身を防御壁で包む。
「ありがとうございますわ」
「いや、私も運んでもらってるし。綺麗な足を私なんかのために汚したらもったいないよ」
小泡は一瞬私の顔を見て何か言いたげだったが、声には出さなかった。
「──開けろ。次開けなかったら……。おっと、捕まえろ。裏切り者どもだ」
ドアを適当に叩きながらそう言っていた男は私たちに気がついたようだ。
避けられない、争いの香りに私は高揚を感じるのだった。




