☆絵本『タシャールの旗』☆
少し、部屋で待っていると、食べ終わったのかドアが空き、ヨルメとシアルが部屋に入ってくる。ヨルメは十数冊の絵本の前に座り込む。
「オンニ、ヨルメね、今日はぁ……これが良いな」
私が私の膝を叩くとそこにヨルメは身を預け、本を開く。シアルは私の肩に顔を乗せて本を覗いている。
私の半無限バッグに入っていた古い絵本と同じものだ。子どもの時に何度も読んだ気がする。それとは結末が少し変わっているのだが。
タイトルは『タシャールの旗』。
「それじゃあ、読むね──」
むかし、むかし、ある国に一人の魔女が居ました。その魔女は、魔法師のマージと、姉で暮らしていました。
魔女は大きな家に住んでいました。睡蓮が浮かぶ、大きな湖のほとり、真っ赤の屋根に魔法で作られた大きな煙突を刺した家です。
魔女はお花が大すきでした。百を少し超えるくらいのお花が庭に咲いています。
そこから一輪、花をやさしく折って、植木鉢に挿しました。
魔女は、「52日目だから、今日はスミレね。」とまよいもなく呟きながら。
その国ではたくさんの草花が咲き誇り、その草花一つ一つに精霊がいます。
その草花と会話ができるのか、魔女は毎日全ての花をなでていました。
「──本当なら良いなぁ。ヨルメ、お花さんとおしゃべりしてみたい、そう、してみたいの」
私の読み聞かせはヨルメの声で止まってしまった。
「そうだね。この魔女さんみたいになれるかなぁ」
私がそう言うとヨルメは顔を上げて精いっぱい腕を伸ばし、私の頭を撫でた。
「オンニ、お花の匂いがする……。お花の妖精さんみたい」
「そう? 褒めてくれてありがとね。ヨルメも、シアルも妖精さんみたいに可愛いよ」
私は本を開いたまま、横に避け、二人の頭をなでる。
そのとき、半開きのドアから、もう一人の妖精さんが覗いているのを見つけた。
「バランもおいで」
妖精さんを呼ぶ。可愛い妖精さんは何人いてもいいからな。
少しして、ドアがゆっくり空き、バランが入ってきた。
「はい……」
ちょこんと私の足元に座ったバランを抱き上げてベッドに座らせる。
私は本を元の位置に戻し、息を吸う。本の中の草木の匂いや、太陽の温かさすらのみ込めそうだ。
「よし、じゃあ再開するね──」
ある日魔女はいつものようにお花を撫でていると、心やさしい王様が慌ててやってきたのです。
魔女は、「どうしたの。」と聞きました。
王様は、「太陽と英雄がけんかを始めたのです。」と言いました。
すると魔女はおどろいて、「太陽ってあの国かい?」と聞きます。
王様はうなずいて、「そうなのです。」と返事をしました。
魔女は考えます。この前のけんかの時に神様がおこっていたことを思い出したからです。
太陽の国は、とても強い国で、いろんな国とけんかを繰り返していました。
魔女はとりあえず姉と先生にこのことを教えます。
先生は、「逃げるなら、お空がいいと思うわ。」と言いました。姉は、「それは良いわね。わたし、お空を飛びたかったの!」と言います。
結局、先生と魔女はお空に逃げることにしました。逃げる前に、三人で草花に命をあげることにします。
そこで、魔女は良い事を思いつきました。「ねえ、お花たちに何か残していくのはどうかしら。」と提案すると、先生は、「いい案だわ。おかしとかどうかしら。」と考え始めました。そこに、姉がやってきて、「旗を作るのはどうかな。みんなで戻ってくれるように。」と言いました。
魔女は、すぐにやる気を出します。魔法の"はたおり機"を作り出し、ガッタン、ゴッタン、旗を作り始めました。
魔女は、自分の名前をたくさん入れました。柄にも、表にも、裏にも。それを見た姉と先生も旗を作り始めました。
何日もかけて作り上げた立派な旗を三人は自慢し合いました。
お別れの日、魔女は草花に魔法をかける準備を始めました。毎日なでたお陰なのか、かんたんにうまくいき、百と少しの草花は命を貰いました。
魔女たちは、「元気に暮らしてね。」と言いながら、最初のお花と、真ん中のお花と、最後のお花に旗を渡したのです。
ピンクのお花は悲しんで、みどり色の葉っぱは魔女に抱きついて、青いお花はお別れを惜しみました。
そうして、魔女たちはお花たちと別れ、お空に新たな国を作ったのです。
居なくなってすぐ、世界は暗闇に包まれてしまいました。神の怒りは、世界を暗くし、海を濁してしまったのです。
「──終わっちゃったね」
私は本を閉じてそう言った。シアルはすでに眠ってしまっていて、バランはうとうとしている。バランを布団に横にさせるとすぐに寝息を立て始めた。
「うん、終わっちゃったね。ヨルメ、いつか、お空の国にね、行きたいの、そう、行きたいなぁ」
私は本を本棚にしまうためにヨルメをベッドに座らせる。
「お空の国はどんな国なんだろうね」
私は本を避けて、空いた隙間に絵本を挿し込む。
「お空の国……。真っ暗、そう、何も見えないと思うなぁ」
ヨルメは小さな手を電球に向ける。私はその手を握って、
「そうかな。スキルの力で明るいかもよ」
私がそう言うと、ヨルメは私の手を離し両手を広げた。まるで私をその胸に誘うように。
「ヨルメ、ほかのね、絵本でね、知ったの。お空にはね、昔ね、明るい光の点がね、いーっぱい、あったんだって。だからね、それをね、見るためのお家があると思う」
痺れを切らしたのか、ヨルメは私に飛びついた。私はバランスを崩さないように、ヨルメを抱える。
「オンニ、ヨルメを連れてってほしいな。大好きなオンニと一緒にいたいの」
チクリと胸が痛む。私という汚い存在を、幼い子供にはどう捉えるんだろうかと心配になる。
「弱い私でも良い?」
ヨルメは手のひらで私の頬をパチン、と挟んだ。
「なんでそんなこと聞くの? オンニはオンニだよ。オンニは強いもん。お姫様を守るのは王子様だよ」
私は微笑む。善人とはほど遠い私でも、少しは気が楽になったような感覚がある。
ヨルメの体温が私をほぐす。ヨルメを撫でてベッドに寝かせる。
それと入れ替えるようにヨルメのベッドで寝てしまったバランを部屋に運ぶために抱き上げる。
すぐ隣が私たちの部屋だし、と思って私のベッドに入れておく。
「あれ、武器と寝なくていいの?」
パジャマ姿のマニが私を茶化す。
「最近はしてないでしょ。バラン起こさないでね」
「ラジャ! ……よく寝てるね。読み聞かせ、面白かったよ。私が知らないお話だった」
「聞いてたの? 今度はマニが読み聞かせしてやると良いよ。距離間がぐっと縮まるよ」
「いいね、それ。私も今度読み聞かせしてあげよう」
マニはベッドに入るのを見届けたあと私はリートのもとに向かうことにしたのだった。




