☆ヨルメとバランのハンバーグ☆
ヨルメとバランにご飯を教えている時に、私が頼んだ"おつかい"をリートたちが終えてきた。
「嬢ちゃん、終わり次第話そう。かなり有益だったぞ!」
私は頷く。今はそれよりも2人の小さな料理人の包丁が心配だ。
「オンニ、ヨルメできた。どう?」
ヨルメは上手に成形されたハンバーグのタネをトレーいっぱいに並べられている。
「うん、上手だよ。私もここまで丁寧に作れないよ」
ヨルメの頭を撫でてあげる。照れたような仕草がとても可愛らしい。
「バランもできた?」
私がそう聞くとバランは目を伏した。トレーに乗っているのは苦戦の跡がある肉だった。
「いいじゃん、お手伝いありがとね」
私は右の手のひらで頭をなでる。
「……うん。次は頑張ります」
「今回も頑張ってたよ。だから、また手伝ってね。さて、焼いてみようか」
コンロに火をつけ、フライパンにハンバーグを乗せる。
じゅー、と美味しそうな音を立てる。私はハンバーグのタレを準備する。この前タレ系統を作り置きしておいたのだ。
『ポモーロの情熱ケチャップ』──売ってあったから買っておいた──にいろんな手作りのタレを混ぜたらできた。
味見した感じ美味しかったし、ハンバーグとの相性もいいだろう。
ヨルメとバランが苦闘しながら作ってくれたハンバーグをテーブルに運ぶ。
私はご飯を盛って自分で取りに来るのを待つ。リビングから現れたファーニンが、カウンター越しにハンバーグを受け取る。
「バランちゃんとヨルメちゃん、頂くね」
「美味しかったらいいです……」
「だいじょーぶだよ、バランちゃんが頑張って作ってくれたんだもの」
ファーニンはそれを机のうえに置いた。
もし私が普通の人だったら、今どう思うんだろうか? 心配に思うだろうか、それとも、"おいしいに決まってる"と言うだろうか。
結局なにも言えずに、ファーニンが口に運ぶのを待つことにする。
「おいしいよ! オリが作ったのと同じ、安心する味だ」
「当然だよ。姉ちゃんの教え子だからね。私にも早くちょうだいっ!」
マニは私の横腹を突付きながら急かす。
お皿を渡すと顔を輝かせてササッとダイニングテーブルに座りすぐに食べ始める。
「ん〜、おいしー!」
巧みなナイフとフォークの扱いでひとかけら口に運んだマニ。感嘆の声をあげて、パクパク食べている。
最初の無駄に上品な食べ方はやめたらしい。マニに食事作法なんて無理なのかも。細かいことを気にするような性格じゃないし。三貴族会議のときとかどうしてたんだろう。
そもそも出席してなかったのかな。あま、あの"とうさま"のことだ。後半は面倒くさくなったのかもな。
「オラの分もあるか?」
リートが私に聞いてきた。私は頷いて、渡す。
「こりゃうまそうだな! 嬢ちゃんたちが作ったって聞いたぞ。良くできてるな、食べるのがもったいないくらいだ!」
ワシャワシャと二人の頭を撫でたあと何故か私の頭まで撫でる。
「なんで私まで……」
「こういうのもいいだろ! これでオラにもっと頼るようになればなおさら可愛いんだがな! はっはっは!」
「はあ? まだ足りないの?」
リートはハンバーグを受け取り、
「まだ一度も頼られてないからな!」
「いや、何回もお願いしてるよ」
「そうだったか? 忘れっちまったな!」
リートは私を心配しているのだろう。
でも、私は"家族"を二度と死地に送りたくない。
たまに考える。なぜ彼らは私についてきてくれるんだろう、と。
結論はないのかもしれない。私は全く英雄じゃないけど、でも英雄を演じ続ける。
その疲労が膨れ上がった時、私はどうするんだろうか。たぶん今よりもずっと憧れるんだろう。
"聖揺器"や"東夢器"を集める理由は多分語ることはないだろう。だって、家族は温かすぎるから。死ぬことがない私は家族たちの恐怖を理解できないから、望む。
「俺も食べたい」
そう言うヴェレーノにも渡す。
ヴェレーノはハンバーグの匂いを嗅いで、
「おいしそう」
と呟く。ヴェレーノはそれをテーブルに置いて食べ始めた。
それからは続々と"家族"たちがやってきて一人一人にハンバーグを手渡す。
小泡で最後だ。……そもそも。
「……いつまでいるのかな。泡蘭?」
「ふふ、いつまでもいますわよ。なんてったってまだお菓子パーティをしてないですもの。それよりも、ねぇ、阿莉、なぜいきなりそんな呼び方をしたんですの? あたくしはあなたにもっと近づきたいというのに」
本心なのか、からかっているのか良く分からない言い方だ。
「『泡歌の護り人』って随分従業員思いなのね」
「あら、言わなかったかしら? あたくし、ソレ辞めましたの」
私は驚きすぎて危うくハンバーグを落とすところだった。
「なんで……」
「忠臣は二君に仕えず。そもそも泡歌の国が好きなのでして、今の立場に固着はないのですわ」
口づけでもされそうなくらいの距離だ。
「まあ、今は阿莉が一番好きでしてよ」
「はっはっは! 冗談はその辺にしとけよ? 嬢ちゃんが怒ると怖いんだからな!!」
そう言うリートを睨む。だが、それに乗った英雄がいた。
「そうですよ。オリヴィアさんは何を考えているのかイマイチ分からないですし」
「けっこう思った通り言ってるけど……?」
私はそう言うが、あまり反応は良くない。
「……まあこの辺にしとこうか。早く食べよう、ヨルメとバランのハンバーグが冷めちゃう」
そのまま私は声を張り上げて、
「トルン、シアルを連れてきて!」
と呼ぶと、トルンはすぐにシアルを横抱きして連れてきた。
「シアルさんを連れて参りました。ヨルメさん、起こしますか?」
「うん、ヨルメ起こすよ」
ヨルメはトルンの腕に抱かれたシアルを見つめ、大きく息を吸い込み、
「早く起きて! いつまで昼寝してるの!」
と叱咤するように起こす。シアルの身体がビクンと震え、宙に浮く身体に困惑している。
トルンが彼を床に下ろすと、目を擦り、ぐうっと伸びをする。
どうしても我慢できなくなったのか、ヨルメが指を立ててシアルの横腹をくすぐる。
ひゃあ、とか言って一気に脇を締めるシアル。その反応にしたり顔のヨルメは、私のそばまで戻ってきた。
「早く起きないからだよ。ほら、早く食べて!」
びっくりするぐらいの手際でハンバーグを用意する。頑張って作ったものを早く食べてほしい気持ち、分かるぞ。
ワクワク感のなかに緊張感があって、食べてほしいのに食べてほしくないと言うか。相手の顔を見たいけど、見れないみたいな。
なんだか私までドキドキしてきた。
「ヨルメが……つくったってこと……?」
「そうだよ、うん、そうなんだ。ヨルメがね、作ったの。バランちゃん、そう、お友達と一緒に」
ヨルメはフォークでひとかけらとり、息を吹きかける。湯気が息の流れに沿って流れていく。
3回くらい繰り返して、小さい手をフォークの下に添えたままシアルの口に運んだ。
「どう? おいしい、おいしいでしょう?」
シアルは何も言わずにヨルメからフォークを奪うように取り、パクパクと食べ始めた。
ヨルメも満足したのか椅子に座った。私は、バランのハンバーグと、ヨルメのハンバーグを一つずつお皿に乗せて自分の場所に置く。
バランの分も私の隣の席においておこう。
「ありがとうございます……」
バランが小声でつぶやく。あまり、そんな態度を取られると私も応答に困るな。
「こちらこそ、お手伝いありがとうね。助かったよ」
頭を撫でるだけじゃ足りないのかな。でも、私が嬉しかったこととバランが喜ぶものは一緒なのか、ということを少しずつ知っておかないと。
私は冒険者のお姉ちゃんとのほっぺスリスリが好きだったから、いつかしてあげたいところだが、バランは思ってることをあまり言わないから嫌がっているかわからないしな。
「いただきます」
悩んでいても仕方がない。この、いい匂いを撒き散らして私の集中力を奪う"コイツ"を早めに食べてしまおう。
しかしここで難問にぶつかった。どっちのハンバーグから食べるべきだろうか。食べるという作業はできる限り何も考えずにするほうがおいしい気がする。
何も考えずに口に入れた時の意識を無理やり持ってかれるような感覚のあとから味わうのもまた一興みたいなところあるしな。
だが! 一生懸命作ってくれた以上、初めて口に入れた瞬間を無駄にするのはもったいない気が。
私は近い方のハンバーグをフォークで切り取り口に運ぶ。
「おいし!」
久しぶりに家族の手料理を食べた気がする。
もう一方のも食べようか、と思って食べる。
「おいしい……」
うむ、どちらも美味しい。
さっとどちらも食べきってしまい、満足感に満ちる。まだフライパンに何枚も残ってたはずだ。
そう思って、魔力感知で視点をずらしてフライパンを確認すると、1枚ものこってなかった。
私は急いでフライパンのもとに駆け寄るが、やはりない。ソースまできれいに掬い取られている。
おかわり、だなんて声聞いてないぞ。くそ、こうなるのならもう一枚ずつ乗せておけばよかった。
「……よかったね、もう一枚ものこってないよ」
私は自分が使ったお皿をシンクに置く。皿洗いはリートに任せてあるからあとは3人の食事が終わるのを待つだけだ。
うむ、フール孤児院に関しても今日の分は終わらせてきた。夜ご飯は上位オーク狩り兼ポレモス魔牛狩り兼野菜収穫に出かけ、豚肉、牛肉を大量に準備しておいたからそれを使った。
今回は炎の天使である、ルーヴァとお姉ちゃん枠としてマリ、お兄ちゃん枠としてマルを置いてきた。彼らがいれば火災はおろか、火傷すらしないだろう。
というのも、今回は焼肉パーティーみたいな感じにしてきた。私も少し子供にもらって食べたが良い肉だった。
ほぼお金がかかってないのが素晴らしい。それにみんなで食べるのも良い経験になるだろう。
たまに私のスキルのなかに入っている肉が減るのはマリたちがおかわりに応じているからだと思う。
なくなればまた足せばいい。三百頭ずつ狩ってきたからなくなることはないと思うが。
窓の外を見て、少し後悔する。真っ暗闇はいかにも星々が映えそうなのにそれが無い。
ほぼ動いていなかったのか、埃で着飾ったカーテンを閉めるのだった。




