☆ヨルメと料理☆
──オリヴィア視点──
ヨルメとシアルの居るところに向かう。
私が彼らの世話を申し出たというのに、バランセルと一緒にゲーロイに任せきりだった。
いつでも真っ暗で何時か分からないが、時計が言うには昼過ぎらしい。
「ヨルメ、シアル。ご飯作ろうか?」
異様に静かな子供部屋。開けてみると静かに本を読んでいただけだった。
「うん。ヨルメね、なにか食べたいな。シアルもね、なにか、食べたいみたいだったよ」
私は頷いて、
「なにが食べたいかな?」
と聞いてみた。すると、本を畳んで隣に置き、
「ヨルメね、手伝いたいの。いつか、オンニが旅に出て居なくなっても良いように、ヨルメ、オンニの料理知りたいの」
「そ、そう? じゃあ、今日は私が初めて作った料理を教えよう。おいでヨルメ。シアルは……」
「シアルね、寝てるの。お人形さんみたいにかわいい寝顔をしてるの。ほら、ここ──」
ヨルメに手を引かれ、そのままベッドで寝息を立てるシアルを覗き込む。
確かに可愛い寝顔をしている。起こすといけないが、ヨルメがいなくなれば目を覚ましてしまうかもしれない。
ここはお姉ちゃんとして一肌脱ぐ場面に違いない。
「トルンおいで」
私の近くに紫色の髪をした天使が現れた。
「な、何用でしょう……?」
「シアルの子守の適任は君しかいなくてね。ほかのヒト達はちょっかいを出したりしそう。あなたもそう思うでしょう?」
「えっ……」
トルンが固まってしまった。
「ふふ、冗談だよ。あとでご褒美あげるから彼の近くにいてあげて」
「はっ、はい……!」
シアルに配慮してなのか小声で話してくれる。やっぱこういうことだよ。
「行こうか。あの可愛いお姉ちゃんがシアルのことを見守っててくれるみたいだから料理に集中できると思うよ」
「うん、ヨルメ、安心した。紫のオンニ、シアルをお願いね」
やはり、『黒』が生命体の善悪を区別しているのだろう。それで、紫のオンニが悪いヤツじゃないことを判断した。
やはり、ヨルメなら、マニを殺せる。
「……よし、作るのは『お肉丼』だよ。私が初めて作った料理」
私は使う食材や調味料を用意する。
あの日見た太陽はこの世界には無い。真っ暗闇が生きる欲望を奪うこの世界で、どこか私に似るヨルメが初めて料理するのなら、これが最適な気がした。
「ご飯の炊き方は……」
「ヨルメ、知ってるの。お母様を手伝ってたもん」
ヨルメはどこからか足台を持ってきて、手を洗い、米を研ぎ始めた。
もしかすると米の研ぎ方はヨルメのほうが上手いかもしれない。私はつい最近まで適当に研いでいたからな。
いつか、氷茉に怒られて研ぎ方を習っている最中なのだ。氷茉曰く、研ぎ方を丁寧にするかで戦闘においてスキルを使うか使わないかくらい差が出るそうだ。
ルナト、チェンラン、操国は主に米を主食にしているらしく、それぞれ米の味がまるで違うとのこと。申し訳ないことに私はあまり違いがわからないのだが。
しかし、料理の目的に応じて米の使い方を変えるのがよいそうだ。今回使うルナトの米は、米を食べてから、米が口に残る内におかずを食べるという食べ方が美味しいとか。
なんなら、ルナトでは米の上におかずを乗せて食べることを『お米汚し』と言い、マナー違反なのだそう。
やはり食事マナーというのは国によりまちまちなようだし、その都度理解していかないとね。
「……オンニ?」
いつの間にか、ヨルメは米研ぎを終えていた。
「ごめんごめん。少しだけぼーっとしてたよ。……うん、上手にお米研げてるよ! さあ、お肉を焼こうか」
私は肉を取り出す。『泡吐き竜』の最後の肉だ。
それを包丁で切ってもらう。
「おお……包丁の扱いもうまいね。厚さも均一だし」
私はそう褒めるが、ヨルメは淡々と肉を薄切りしていく。
恥ずかしがり屋さんなのかな。
「……オンニ、できたよ」
そう言ってヨルメは足台から飛び降りる。毎回動くのは面倒くさいだろうに。
しかし、こういう小さな気配りができるのはいかにもヨルメらしい。
「よし、じゃあ次はこのフライパンに……姜、すりおろしたナユの根、香種油、棍棒で叩いた香種をまぜる」
私がそう説明するとヨルメは可愛らしい便箋にメモを始めた。
書き終わったみたいだから、
「さらに、氷茉が開けた酒と料理酒を加える。まあ、無ければここはやらなくてもいいかな。そして、弱火で加熱する」
何十秒かでいいよ、と付け加える。
子どもが食べられるくらいになったら、タレは終わりだ。少し冷ましておく。
「最後に肉を焼くよ。……ちょっと順番間違っちゃったけど」
ヨルメを足台の上に乗せ、肉を焼くように促す。
上手に箸を使いながら焼いている。
箸か。スプーンや、フォークに比べて洗いやすいから私も使えたらいいな、とは思う。
フォークはたまにスポンジが引っかかるのがネックだ。それに比べ箸はまとめて洗えるのも素晴らしいと思う。
スプーンは重ねて洗えないし、米がすごいくっついちゃうし。
だから、スープで先にスプーンを濡らしてから米を掬うようにしている。氷茉にバレたらなんて言われるか分からないからマニにしか共有してない裏技だ。
「オンニ、肉がね、剥がれないの」
肉にはヨルメの努力の証拠が穴というかたちでよく現れている。
「そういうときの、こいつだよ。名前は……忘れたけど」
金属製のヘラを取り出す。
「フライ返しのこと……?」
その声で振り返るとそこにいたのはゲーロイだった。
そうだ、これはフライ返しか。
「オッパ、ヨルメね、オンニから料理教えてもらってるの」
ゲーロイはその呼び方にまんざらでもなさげだ。
「いいね、それ。オリヴィアさんは料理が上手いからね。火と刃物には気をつけるんだよ」
ゲーロイはそう言って居なくなった。
「オッパ、じゃあね」
ヨルメは手を振るが少し悲しそうだ。あの数週間ですっかりゲーロイと仲良くなったようだ。
「料理が出来上がったら食べてもらおうか。さあ、ひっくり返して」
フライ返しを手渡し、ひっくり返してもらう。そして少し待てば完成だ。
肉を何度も焼く内にヨルメも慣れてきたらしく後半はかなり上手に焼けていた。
昼ごはんをみんなで食べる。久しぶりにみんな集まった食事だ。
「うむ、美味しいな! さすがはお主の弟子といったところか!! 我の酒を使っただけあるな!!」
「あはは……バレてた?」
バレないようにちゃんと封をしたのに。
「ふふ、我はすべての酒に妖術をかけているからな。誰かが開ければすぐ分かる。ただ酒を料理に使うのなら我は文句などないがな」
氷茉はご満悦の様子だ。
あとで別のお酒を買ってくる羽目になるかと思ったが、その心配は無さそうだ。
「うん、美味しいよ。ヨルメはきっといい師匠さんに出会えたんだね」
ゲーロイはヨルメをそう褒めた。
「うん!」
私も照れてしまいそうだ。
バランセルはだいぶ慣れた食器で美味しそうに頬張る。
昔話に花を咲かせたこの宴会はまだまだ終わらないだろう。




