推し会議⑧
続いてボードを提示したのはモフミニェ。
が、ここはクマさんと揃っての提示だった。回答が全く同じだったからだ。
その回答は「ワカバ×デュエ(トリブルム含む)」である。
ジェネシエンドでの戦闘後、避難者一行がエクスマに匿われた時の事だ。
アニィ達から聞かされていたこともあり、モフミニェとクマさんは全力で幼女カップル&見守るドラゴンの保護に務めた。
結局のところ一時帰国することにこそなったが、ワカバの母国ヤマト皇国、デュエの母国ヴェルサランス領と交渉し、一度ヤマトを経由してのこととなったのである。
「私達のおかげだね! YEAH」
「くまっ!」
「アレについては本当にお手柄だわ。お姉ちゃんもあの子達に会えて人類の尊厳」
「きゅ~」
ヤマトを経由する途中、ヒナの要請に応じて3人はオーダムを訪れた。
そこでモフミナーサと教授もワカバ達と出会ったのである。
ちなみに3人の宿泊先を決めるため、プレムもワカバ達とは話した。
尊みに満ちた空気をひたすら吸い込みまくってちょっと珍奇な人と思われたが、特に彼女は気にしていない。
「初々しいお二人とそれを見守る幼いドラゴン。尊みの塊であらせられましたね」
「ね。あの子達もアニィちゃん達が助けてくれたのよね」
「まっこと感謝しかございません…」
「……いや私が説明してんだけどさ。そこの2人は何を浸ってるんだ…」
すっかり妄想にふけるモフミナーサとプレムに呆れるモフミニェ。
と、そこでクマさんが手を挙げた。
「くまくま」
「ん? ああ、そうだったね。クマさんにはプレゼントを手渡してもらったんだっけ」
クマさんが2組目として挙げたのは、アニィ以外のチームメンバーであった。
エクスマ・フェスタの時、ジェミィ・カッコの屋台で髪留めとブローチを買い、アニィとプリスにプレゼントした時のこと。
心の傷に苦しむ友のための贈り物。パル達からアニィ達へのプレゼントである。
モフミニェもクラウザーさんこと聖人サン・クラウザーに扮し、プレゼントを渡しに行った身だ。
「あれは…うん……尊かった…」
「くま…」
「そういうことがあったとなれば、お泊りをオススメした身として誇らしく思います…」
フェスタ当日の宿泊を進めたモフミーヌも、そんな尊い出来事に思いをはせる。
尊さとは恋愛だけではない、友情からも生まれるのだ。
いわゆる推し用語的な意味ではなく、人として正しく尊い。
そんな尊さに、彼女達はまた脳をコンガリされたのである。
アニィとプリスの間の愛情だけではない、全員が全員を想い合う友情あってこそのチームの結束力なのだ。
さて、最後はオーダムにいたモフミナーサ達である。
そこでまず最初に挙手したのが、モフミナーサではなくゴマリントン教授であった。
スコンと立てたボードに書いてあったのは、なかなかに意外な答えであった。
「……姉さん、プレムさん、ティアさんの3人。
へえ、つまりオトナのお姉さんトリオってことか」
「きゅ!」
「そういえば聞いたことがあるでゴザル。
政権都市には英雄を救った3人の美女がおられると…」
モフミニェの説明に、ぴょこっと前足(小さくてモフい)を上げて答える教授。
モフミナーサ、プレム、ティア…当時誘拐されたアニィを助けるために組まれたチームの内、女性陣3人である。
明確に文章として美女であることを記したティアのみならず、モフミナーサとプレムもはっきり言って美女である。
ヴァン=グァドの中年3兄弟の雰囲気も良いが、やはり美女が揃うと空気が華やかになる。
特にこの3人が揃った瞬間、周囲には目に見えぬ花が無数に咲く…とまでオーダム住民に言われるほどだ。
それがモフミノーラの言う『英雄を救った3人の美女』の噂になったわけだ。
「あらあら~、やだわ~、ゴマちゃんったらも~~」
「光栄ではありますが、お恥ずかしゅうございますね…」
デレデレに照れるモフミナーサとプレム。
そんな噂があることをここで初めて知ったらしい。
果たしてここにティアがいたらどんな反応をするか、気になる所ではある。
続けてボードを提示したのはプレム。
書いてあったのは腹筋の美しさが際立つヒナかと言えば、さにあらず。
パルの名前であった。
「パルちゃんの? ヒナちゃんじゃないのね?」
「はい。ヒナ様の腹筋はそれはそれは美しくあらせられまして実にわたくしたっぷり10ディブリス分は鼻血を爆散いたしました限りではございますがしかしながらここで敢えてパル様のお名前を挙げさせていただきますのはアニィ様のために悪党に挑んだ友としての矜持と義侠心何よりもご自身が犯罪者となる可能性さえありながらも敢えて自らが拳をふるうその覚悟あともう一回アニィ様への友情が余りにも美しすぎて脳を焼かれてございましてアッもちろんアニィ様とプリス様の愛に最も焼かれたのではございますがしかしながら友の無償の覚悟の美しさはまたその愛の深さと異なる美しさで脳を焼かれてございまして」
「きゅ~」
長い上に早口なので一時停止を要求するゴマリントン。
ちなみにここまで一呼吸である。
「ハッス、ハッス…失礼いたしました。高ぶりました。ンッフン」
「……わかります…!」
「わふ!」
息を切らしたプレムの手をドガシと握るモフミーヌとチャウネン。もちろん他の姉妹とモフモフも同様だ。
ちなみにプレムは本編での登場はかなりの後発となったが、アニィ達が旅を始めて広報が出回ったころ…
少なくとも旅の中盤あたり前後から追い続けていた実績がある。
業務を理由に知り合いとなったビッグワンハウス姉妹を除けば、ファンとしてはなかなかのガチ勢なのだ。
ファングッズがあれば間違いなく買いあさって宿の一室を埋めていたであろう。
「つってもさぁ、まさかここまでドハマるとは思わんかったんじゃない?」
「ちゅん?」
と質問したのはモフミネリィとジャッキーチュンだ。
プレムはその質問に、そうなのですとすぐさま答えた。
何しろ彼女は高級宿泊所の若き支配人。相手にするのは主に資産家、企業の上層部、政治家が殆ど。現代社会でいうブルジョワである。
庶民の相手など殆どすることは無かった。それが突然アニィ達へのファン感情に目覚めたのだ。
当人としても電流が走ったほどの衝撃であった。
「広報で初めて拝見したのが、記憶が確かでしたらヴァン=グァドの後であったと思います。
連邦南部の軍事施設を防衛したのが女の子数名にドラゴン数頭という記事で…
モフミノーラ様、記事が書かれた当時ことは何かご存知でしょうか?」
「うむ。あれは書かれた記者殿も驚いていたでゴザルよ…
発行した次の日にはもう居住者皆々驚いて、ウソに決まってらぁ! とほざいた輩もいたほどでゴザル」
「ポンポコ」
当時としては当然であるが、しかし実績を重ねた結果、連邦国民の大半がアニィ達の事を知るに至った。
中には彼女達のように脳を焼かれた者も結構いる。
プレムもまさにその中の一人だったのだ。顔も名前も知らず、しかし少女達とドラゴン数頭のチームであることは知っていた。
「もうお会いしたその日は心臓が何度停まるかと」
「宿にお迎えした日はパニックになっていたものね…」
「はい。あんなお姿を見られるのは流石に恥ずかしゅうございます…」
と言うが、誘拐監禁から解放された数ディブリス後には、ハイランドディアの子供のように腰が抜けた姿をアニィとプリスに見られている。
都合よく忘れたのか、親しくなった後だから良いのか、まあ両方だろう。
そんな感じで普段の彼女はデキる女ではあるのだが、推しのこととなると途端にブレーキが爆散するのである。
そして最後、モフミナーサの番となった。
彼女が挙げたのは…
「パルちゃんとチャムちゃんのネイヴァ姉妹よ」
アニィの友にして、邪星皇を斃す直前まで旅を共にした姉のパル。
邪星皇との闘いに向かうアニィ達の力になるべく、駆けつけた妹のチャム。
姉はともに旅をして、妹は村で待ち、アニィの旅をプリスと共に支え続けた姉妹である。
しかしパルはただ友情からだけでなく、村でアニィを救うことができなかことの贖罪のために旅に出たという。
アニィは決してそれを気にしていたことはなく、むしろ心強い友だと感謝していたくらいだ。
――ただ、その鬱積した罪悪感は、ごくまれにだがパルの発言に現れたこともあった。
それでも、彼女はアニィと旅を共にした。
「パルちゃんの胸中は複雑だったと思うの。
アニィちゃんを支えるために旅に出てるのに、もうプリスさんがその役目を担っていたし。
罪滅ぼしなのもアニィちゃんに気付いてもらえなくて。
でもね、それでも友達をずっと支えられるのって、ステキだと思うの」
「きゅっ」
確かに、と全員がうなずく。
パルの精神力の強さは、旅の中でアニィ一行の強固な支えとなった。
特にイムリィの罪を暴くとき、独立型邪星獣ズマス=ゾリゾを斃す時。
それらを始め、チームが危機に見舞われた時でも、彼女の強い心を支えに逆境を乗り越えたのだ。
複雑な胸の内に耐えながらチームを支えた要として、モフミナーサはパルを心から賞賛している。
それゆえ、邪星皇の星へ行く直前にヘクティ村が襲われた時の取り乱しようは、ある意味で精神の限界の現れだったのではないかとも思っていた。
「あとあとパル様ご自身から伺ったのですが、チャム様のことは相当不安でいらしたそうです」
「わふ…」
「それはそうよね、大切な妹とはいえ旅には連れていけなかったから置いていったのに…
そこに邪星獣が出て、しかもすぐには戻れないなんて」
「そこで『創星の竜』様が顕現されたのは、幸運でした」
モフミーヌとチャウネンが言う通り、何しろ大事な妹の命の危機だったのだ。取り乱さない方がおかしい。
チームの精神的支柱である彼女を同様させる邪星皇の狙いであり、成功すればアニィ達の戦力をそぐこともできたであろう。
だがそれを立て直したのは、あろうことか命の危機に遭った妹…チャム自身であった。
ずっとアニィ達の力になりたいと願っていたという。アニィ達が旅に出る前の言動で、村の教師センティは察していたらしい。
志は姉妹で同じ。アニィの力になることだった。
チャムが持たない戦闘能力を、『創星の竜』アフタマイスが補い、姉妹はついに並び立ったのである。
「とまあそんなこともあって、アニィちゃんのために命を懸けた姉妹がとても尊いと思うの。激推し」
「判ります… とてもわかります…!!」
ガッシと握手しあい、互いの想いを理解し合うモフミナーサとプレム。
2人の女の相互理解と友情の尊みを吸う姉妹たち。
モフモフ動物たちも互いに握手し、充実感に浸っている。
かくして本題たる推しメン・推しカプ発表までが滞りなく行われ、ここに推し会議は終了を告げた。
全員が妄想の尊みを吸い上げまくり、実に充実した気分であった。
ちなみに時間経過は7ジブリス(約7時間)。
何しろアニィ達の旅を最初から振り返り、推し会議で白熱しまくったのである。
ちなみに有給取得の事由について、彼女達はしっかりと推し会議のことを説明している。
これが協会に受理されたというのだから、要するに協会はアニィ達の限界オタクというのが丸わかりだ。
なお出勤時にレポートを提出するよう上司から指示されているが、果たして何ページになるやら。
「いっやぁ~~~~…語った語った!
ずっとみんなで語り合いたかったんだ」
「くま~~~」
モフミニェとクマさんが大きく伸びをしながら言う。他の姉妹、そしてプレムもその想いは同じだ。
超絶ミーハー限界オタク集団の彼女達にとって、推しのことを語り合う機会こそ最も必要であった。
「ここまで深くアニィちゃん達に関わった人って、私たちくらいしかいないものね。
ファンの人は結構多いんだけど、旅の途中のあの子達に助けられて…っていう程度だもの」
モフミナーサはこう言う通り、実際の所アニィ達のことはあまり深く一般に知れているわけでは無い。
そもそもアニィ達、特にリーダーのアニィが元々は一般市民であることもその理由だ。
特にマナスタディアまでは「こんなことをしているチームがいる」くらいしか広報には書かれていない。
それがアイゴール大雪原の安全を守り、ジェネシエンドの避難民を助け、魔力隔壁で封鎖されたホスサイトを解放し、イムリィ・ニアのたくらみを暴き、そして邪星皇を斃した。
今では時の人どころか伝説にすらなりつつあるほどだ。
それはそれとして、協会の職員がここまで入れ込むのもちょっとどうかと思う。
ちなみにオーダムでアニィ達のことを特に喧伝しているのが、国家保安維持機構長官オルダール・ド・フェンスだ。
イムリィ・ニアの一件以降、彼は完全にアニィ達推しの一人となった。
さすがに知識量はビッグワンハウス姉妹には劣るが、その熱量は姉妹と変わらない。
ただ、アニィはそのオルダールの推しっぷりを知らない。
知った瞬間にどうなるのか、姉妹全員とプレムが実は密かに楽しみにしている。
といったところで、大異界…じゃなかった第1回推し会議は無事終了となった。
ろくすっぽ水分も取らないくせに肌も体内も潤いっぱなしの7ジブリスは、あっという間であった。
全員が席を立ち、思い思いに会場を出ていく。そして出た先は…
「ビッグワンハウス君達か。………随分長い会議だったな?」
「あら長官。すみません、だいぶ長びいてしまいまして」
ドアを開けたモフミナーサと、何やら書類仕事をしていたらしいオルダールが鉢合わせる。
ここは政権都市オーダムの総合庁舎、姉妹達はその中の会議室を7ジブリスも使っていたのである。
つまり極めて私的な理由で公務のための施設を利用し、しかも協会がそれを許可したのだ。
現代日本で言えば、国土交通省の地方整備局の会議室で真昼間から許可を取ってコミケを開催するような物だ。
当然これはオルダールも知っている。
「ちゃんと飲食を…いや、大丈夫だな…?」
「大丈夫です! むしろ心身ともに潤いましたから!」
「そうか。もう何も言わん」
呆れつつ立ち去るオルダール。
ちなみに彼がアニィ激推しであることは、この街でも姉妹とプレム以外誰も知らない。
弱みというわけでは無いが、彼がこの推し会議を敢えて看過したのはそれが理由である。
次女以下の姉妹達は、正面玄関から出て、巨大なドラゴンが抱える送迎用ゴンドラに乗った。
見送るモフミナーサ、ゴマリントン、そしてプレム。
全員が充実し、満たされた表情であった。
推しの事を語って語って語りまくった(もちろん軽々しく話せないことはなるべく控えた上で)ことで、フラストレーションもバッチリ解消。
明日からまた元気モフモフで働けるのである。
「それじゃあみんな、気を付けて帰るのよ!」
「きゅ~!」
「姉さん達もお疲れ様。またいつか話そうね!」
「くまくま!」
窓から顔を出して手を振り返すモフミニェとクマさん。
別れの挨拶を交わすと、ドラゴンがゆっくりと舞い上がる。
ゴンドラの窓を閉めたところで、ドラゴンは翼を羽ばたかせ、南方へと飛んで行った。
妹達を見送ったモフミナーサ、そしてプレムは振り返り、オーダムの街へと戻る。
連邦全体が邪星皇の被害からの復興中であり、オーダムの街もまた例外なく忙しい。
特に協会本部とプレムの宿はアニィ達が立ち寄ったということで、参拝を希望する客もいる。
いわば聖地巡礼であり、当初は迷惑な客になるなどと一部の職員に文句を言われた。
それをツアーにしてしまってはとプレムが進言し、今では1マブリスに5組は訪れる。
モフミナーサとプレムはその対応の担当者で、この日もまた聖地巡礼の予約が入っているのだ。
何と国外から4組。アニィ達の名は海外にまで広まってしまっている。
「さて。じゃあ今日もお仕事頑張りましょうか!」
「はい!」
モフミナーサが言うと、プレムがうなずいた。
ちなみに推し会議が始まったのは午前中。庁舎が開き、業務が始まって1ジブリス経った頃だ。
現実の社会で言えば午前9時開始、そこから7時間つまり午後の4時だ。
……もう夕方である。
協会職員がこうやって推し会議にかまけていられるあたり、フェデルガイア連邦はまあ相当に平和ということであった。
一応あとがきは書いてます。完結から数カ月遅れてのあとがきって人としてどうよ。
【2025/10/13】まとまらないのであとがきは取りやめとしました。申し訳ございません
読んでいただきありがとうございます。
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