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一党追放  作者: 藤咲晃
五章 貴族の屋敷に招かれて
32/42

パーティー準備に向けて

 翌日の朝、ギルドに向かったユキナは道すがら昨日の事を思い出す。

 結局男性冒険者は半日で釈放され、同じ一党の女性冒険者に少し豪華な食事を奢ることで覗きの罪を赦されていた。

 そもそもユキナは普段宿部屋のシャワーで済ませているため知らなかったが、この町の公衆浴場はよく覗きの被害に遭うのだと。

 石畳の道を進みギルドの建物が目前に迫る中、


「レノは昨日居なかった」


 昨日同じく釈放されたレノの姿が見当たらなかった事に一株の不安が芽生える。

 まだエデンの残党が全員確保された訳ではない。もしかしたらレノが狙われているかもしれない。

 そんな不安が頭の中に過ぎる中、ユキナがギルドの扉を開けると。


「いらっしゃいましたかユキナさま!」


 威勢の良い声に驚き、更にギルド職員の服装をしたレノにまたアホ毛がぴんっと真っ直ぐ立つ。

 なぜ彼は低姿勢で接客の真似事をしているのか分からない。

 そもそも敬称付けで呼ばれる謂れは無い。

 何が有ってこんな事になっているのかユキナは周りを見渡した。

 すると微笑ましげに見ている冒険者と苦笑を浮かべるルイと目が合う。

 何が起こってるのか悩むユキナにレノは、


「はっ! もしやさま付けではなくお嬢様とお呼びした方が!?」


 低姿勢のまま呼び方を変えた方が良いのか提案され、ますますユキナは混乱した。

 混乱したままユキナは、思い切って尋ねる。


「……どうしたの? なんだか変だよ」


「変でしょうかユキナお嬢様!」


「うん、変」


「……もしや不快でしょうか?」


 これまで呼ばれ方を気にしたことも無いがこれだけははっきりと理解できる。

 何故かレノと仲間としての距離感が離れている。


「不快じゃないけど……距離を感じるからいや」


 感じた事をそのまま伝えるとレノは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「悪かったよ。いや、俺なりに昨日の件をどうやって詫びようか真剣に悩んだんだ」


 彼は覗きの件を謝りたかったと。そう告げているのだと理解したユキナのアホ毛が左右に動く。

 正直言って自分の貧相な身体を見たところで喜ぶ者は居ない。

 レノはそんな自分の身体で鼻血を噴射させるが、きっと彼もその場のノリで覗きに及んだことは、なんとなく理解していた。

 

「そんなに気にしてないから良いよ」


「つまり赦してくれるのか?」


「ん」


「はっ! 気にしてないなら覗いても!」  


 また再犯すると宣うレノにユキナのアホ毛が激しく逆立つ。


「怒るよ?」


 淡々と無表情で告げると彼は青ざめながら後ろに退がった。

 幾ら無関心で自身に頓着が無いとはいえ、確かな不快感を感じるのも事実だ。

 

「お、怒るとこわっ……てかっアホ毛はそう動くのか」


 レノがそんな事を呟くと背後から声が響く。


「すみません! 冒険者の方々は既に集まっておいででしょうか!」


 振り向くとそこには、沢山のトランクをそれぞれで抱えたアスガル伯爵のメイドと執事が勢揃いしていた。

 そんな彼らにルイが応対すべく駆け寄り、


「えぇ、全冒険者は揃ってますよ」


 笑顔で告げる。

 そんな彼女に執事の一人が感心を示す。


「おや? 時間も自由な冒険者が勢揃いとは……」


「はい、昨日のちょっとした()()()()の後に言い含めておいたので」


 ルイが強調した言葉に男性冒険者の身体が震え、ユキナのアホ毛も震える。

 怒ったルイは幽霊以上に恐いからだ。

 

「そうですか。では早速我々も仕事に取り掛からせて頂きましょう」


「では、仕立てには二階の空き部屋をお使いください」


 ルイの案内に使用人達が着いて歩き、彼らから少し遅れてユキナたちも二階に向かった。


 ▽ ▽ ▽


 男女別に別れたユキナたちは、メイド達が長テーブルに並べるドレスを各々選ぶ事に。

 女性冒険者たちが着々と自身に合う色合いのドレスと装飾品を選ぶ中、ユキナは赤いドレスだけを手に取る。

 

「では、あちらの試着……貴女は」


 首筋辺りで切り揃えられた銀髪、真面目そうな印象を受ける眼差しのメイドがユキナに困惑の色を浮かべていた。

 ユキナは彼女に見覚えがはっきりと有った。

 彼女はシスティア・パーシアル。彼女にとって自分は仇の一人だ。

 故にユキナもシスティアを前に戸惑う。

 そして戸惑いから覚悟を決める。

 そんな二人の間に漂う不穏な気配を察知したルイが静かに近寄り、


「システィア。貴女は奉公に出ている身でしょう?」


 システィアの耳元で囁く。

 彼女は眉を僅かに寄せ、頷いて見せるとユキナの手を引きながら試着室に向かった。

 試着室に押し込められる形で入ったユキナは、ドレスを両手に抱えたままシスティアを静かに見つめる。

 自身のした事は謝罪を告げることさえ赦されない。

 眉を寄せるシスティアにユキナは沈黙するしかなかった。

 そんな時だ。システィアがため息を吐いたのは。


「理解はしてます。だけど納得はできない……貴女にも分かるでしょう?」


「……ん。ふくらはぎの短剣で殺されても何も言えない。私はそれだけの事をした」


「いつでも殺される覚悟があると?」


「うん。ベル・パーシアルを殺害したのは私だから」


 過去に自分が犯した罪の一つをシスティアにはっきりと告げる。

 すると彼女は眉を深めるばかりでユキナの小さな手を掴む。


「……貴女は確かに兄を殺した罪人。それは紛れもない事実、故にわたしは貴女を決して赦す事はない。ですが、これでも何も知らない者共よりはあの事件の背後や貴女が何をされたのかは把握してるつもり」


 決して赦しはしないとはっきり告げるシスティアにユキナは頷く。

 赦されようとは微塵も考えてはいない。

 むしろ彼女には自分を裁く権利が有る。

 ユキナがそう考えていると、身体に違和感を感じた。

 視線を落とすとシスティアの手によって脱がされたブラウスが視界に移る。

 はだけられ顕になった白い下着、突然の事にユキナは困惑した。


「な、なにを?」


「なにって。一度試着してもらわないと丈を合わせられないでしょう」


 そういえばパーティー用のドレスを仕立てる為に試着室に居るのを忘れていた。

 そうこうしている内にシスティアの手によって衣服を脱がされ、赤いドレスを着せられていた。

 見事な早技にユキナから感嘆の息が漏れる。


「……赤いドレス、似合いますね」


「そうかな?」


「えぇ。7年前にテュラリア公爵家主催の社交界で貴女はいい意味でも悪い意味でも有名ですからね」


 悪い意味でなら理解が及ぶ。

 数々の貴族の御子息、御令嬢、果てには領主を殺害した自分がテュラリア公爵に養子として引き取られ、社交界の場に現れれば当然こう思うはずだ。

 何故家族の仇が? テュラリア公爵は何を考えるのかと。

 その意味でユキナは大多数の貴族に恨みを持たれている。

 それは当然のことだ。しかし良い意味で有名というのは、一体何のことかと首を傾げた。

 だがシスティアはユキナの疑問に答える事はせず、作業を続けるばかり。

 しばし沈黙が流れ、長い時のように感じた沈黙はシスティアが作業を終えた頃に漸く終わりを迎えた。

 

 こうして無事仕立てが終わり、あとはパーティー当日を迎えるばかりに……。


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