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一党追放  作者: 藤咲晃
三章 溢れる幽霊と因縁
19/42

過去の刺客

 地下室の広場に赤い刺青の男が佇んでいた。

 ペンダントに嵌め込まれた宝珠を指先でなぞり、ユキナをしっかりと見て嗤った。

 ユキナは男に見覚えが無かったが、醸し出す不快な雰囲気に剣を構える。

 ペンダントに嵌め込まれた宝珠に刻まれた紋章に見覚えが有る。確か魔力を送るだけで召喚を可能にする遺物だったと。


「待て待て! もしかしたら司祭かもしれないだろ? いや、刺青入れてる時点で聖職者って言われると疑うけどよ」


 レノの疑問を無視して男は野太い声を発する。


「あぁ、漸く会えた。まさか自ら此処に飛び込むとは予想外だったがな」


「……? だれ?」


 やはりユキナは男の声も何一つ覚えがない。

 しかし男は酷くショックを受けたような眼差しで、


「お、覚えてないと申すか? ほらこの顔を! 強面で刺青が入った顔など早々忘れる筈が!」


 ユキナは記憶を探る。

 しかし興味の無い人の顔は中々覚えられないし、関心も湧かない。

 もしかしたら何処かで会って話してるかもしれない。そう考えたユキナは男に頭を下げた。


「……ごめんなさい」


「なっ!? いや、貴公は無関心だったな。ならば記憶してないのも道理か」


「アンタはユキナのなに? もしかして自称元カレとかそういう痛い奴?」 


「否! 断じて否! わたしとユキナは男女の仲に有らず! ()()()()()()()()()()


「は? 道具って……何を言い出すんだよ。それとも妄想が祟った危ない奴か? ユキナ、ああ言う手合いは近寄っちゃあダメだぞ」


 レノは男に不快感を顕にした。

 ユキナは男に関して何一つ覚えていないが、自分に対して道具と評する輩には覚えが有る。


「……道具。エデン」


 彼は紛れもなく敵だ。

 結論を出したユキナは、地を蹴り得意の俊足を駆使して一瞬の内に男の懐に入り込む。

 そのまま男のペンダントに狙いを定め剣を斬り上げた。

 だが、狙いを悟った男は身を引き、紙一重で一閃を躱す。

 剣先に斬られた青髪が地下広場に舞い散る。

 初撃が避けられたユキナは剣を鞘に納め拳を構える。

 男はそのままユキナから距離を取り、失望混じりの吐息を吐く。


「……なぜ急所を狙わない? 貴公なら造作も無く殺せた筈だが」


「……もう人は殺さない」


 ユキナの発した一言に男は嗤った。


「あははっ! 人は殺さない? 面白い冗談を吐くな。我らに命じられるまま殺戮を繰り返した道具の分際がっ! 白い死神として恐れられた貴公がっ!!」


 怒りを顕に男は掌に大火球を作り出す。

 それは一度放てば地下広場を業火で覆い尽くすほどの大火球だった。


「デカすぎだろ!? そんなもん放ったらアンタも巻き込まれるぞ!」


「馬鹿が! 自らの魔法に巻き込まれるのは三流以下だ!」


 男は自身の前方に魔障壁を展開し、大火球を振り下ろさんと手を下す。

 しかし大火球が放たれるよりも先に、鋭く甲高い音が地下広場に響く。

 男の視界に一瞬、それは映った。銀の短剣が魔障壁を貫くのを。

 そして地面に飛ぶ男の右腕、魔力供給を失い消える大火球に男と魔障壁に呆然とした。

 地面に転がる右腕と壁に突き刺さる銀の短剣。短剣の刃先に対魔障壁の反抗魔法が仕込まれていた。

 一体誰が? 男は意識を手放してしまいそうな苦痛に耐えながら冷静に見渡す。

 そして男は見た。少年の背後、通路の奥で此方を射抜く()()の姿を。

 魔力で右腕の痛覚を遮断しながら、


「……っ!? 奴が到着したか!」


 男は吠えた。

 だが、ユキナは男の無防備な腹部に膝蹴りを叩き込む。

 膝を引き戻し裏拳で頬を殴る。


「ごふっ!」


 男が地下広場の壁際に吹っ飛ぶ。

 その様子をレノは黙って観ている他に無かった。

 加勢するという選択肢も有るが彼は直感していた。

 これはユキナの過去の因縁。だから彼女の手で決着を付けるべきだと。

 だからレノは何も行動に移さず、ユキナを信じることを選んだ。  

 彼女がオーガの時、信頼してくれたように。

 

 起き上がる男にユキナはゆっくりと歩み寄る。


「待て! 本当に覚えておらんのか!? アデュク・サリアスの名を!」


 一瞬足を止めて記憶を探る。

 やはり聴き覚えも興味もない名だった。


「うん」


「……無関心にも程があろぉぉぉ!!」


 アデュクは怒り任せに身に秘める魔力を爆発させる。

 そしてユキナの視界から消え、彼女の背後から短剣で突き刺した。

 腰まで届く白髪にユキナの血が降りかかる。

 刺された背中の傷口が焼けるように痛む。


「……っ」


 ひりつく傷口と身体を巡る寒気に彼女は毒を盛られたと理解する。

 アデュクは左手で短剣を引抜きそれを投げ捨てた。

 そしてユキナの細い身体を左腕で抱き締めたのだ。


「テメェっ!? ユキナを離しやがれ!」


 怒り心頭に叫び、拳を振りかざしながら駆けるレノを嘲笑うように、アデュクは彼と通路で静観する彼女に勝ち誇った笑みを浮かべる。  

 レノと彼女は距離から間に合わない。二人が到達するよりも魔法が速い。

 あとは転移魔法でユキナを連れ帰るだけの簡単な作業だ。アデュクは魔法の詠唱をしながら勝利宣言を叫ぶ。


「私の勝ちだ! 彼女の回収こそ我らの目的! ではさらばだぁっ!?」


 しかし転移魔法が完成するよりも早く、ユキナの肘打ちがアデュクの腹を殴り付けた。

 アデュクは殴られた痛みから思わずユキナを離してしまう。

 拙い! 焦りの色を浮かべるアデュクの視界に舞い込んだのは、宙を浮かび回し蹴りを放つユキナの姿だった。

 頬に鋭い蹴りが突き刺さる刹那の一瞬、アデュクはしかと目にした。ユキナの純白の下着を。

 そして頬に深く捩じ込むように突き出された蹴りの威力に負け、吹っ飛ぶ身体。

 このまま壁にでも衝突するのだろう。その時こそ勝機は有る。そんな確信を抱くアデュクの足を小さな手が掴む。

 視線の先には無表情のユキナだ。

 

 ユキナは掴んだアデュクの足を振りかざし、床に叩き付けた。

 

「ぐはぁっ!?」


 叩き付けられた衝撃にペンダントの鎖が切れ、床に転がる。

 ユキナは転がったペンダントを宝珠ごと踏み潰し、地に沈むアデュクの前にしゃがんだ。


「これで幽霊は出ない?」


「……宝珠に気付いて……。貴公はなぜ私を剣で斬ろうとしなかった。殺さない誓いは理解したが、剣で斬り無力化もできたはず」


「……血を吸っちゃうから」


「はっ? まさか剣身に吸血石を……」


 人を剣で突き刺せば、ユキナの剣はたちまち人体から血を吸い尽くすだろう。

 それではアデュクが死ぬ。

 だからユキナは格闘に切り替えた。

 しかしいずれアデュクは右腕の切断によって出血多量で死ぬ。

 アデュクの失った右腕を止血するために、自らのブラウスの袖を噛みちぎる。

 ユキナの行動にレノとアデュクは驚愕した。


「なっ!? 一体なにをっ」


 狼狽えるアデュクを無視し、噛みちぎった袖で彼の右腕を縛った。


「これで……だ、じょう……?」


 視界が定まらない。

 巡るしか周る視界にユキナは吐血し、吐気と寒気から倒れ込んだ。

 薄れる意識の中、ユキナは思い出す。


(……毒抜き、忘れてた)


 解毒が間に合わずに死ぬ。

 それも良いかもしれない。

 こんな事を考えているとみんなが知ったらきっと怒られる。そう思いながらユキナは眼を瞑った。

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