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一党追放  作者: 藤咲晃
三章 溢れる幽霊と因縁
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目覚めは病室

 吹く穏やかな春風が頬を撫でる。

 花の香りと消毒液の匂いにユキナはぼんやりと眼を開く。

 見覚えの有る白い天井が視界に映り込んだ。 

 何度か世話になったことがあるアスガルの病院。

 同時にユキナは息を吐く。


「……生きてる」


 穏やかな呼吸、手足の感覚と身体に巻かれた包帯の感触。

 

「おや、目が覚めましたか」


 非常に聴き覚えの有る声──ルイの声にユキナは顔を向けた。

 視線の先には、腰に手を当て貼り付けた笑みを浮かべる彼女の姿。

 

「……言いたいことは分かってますね?」


 無茶をしたからルイは怒っている。

 

「ごめんなさい」


 素直に謝るとルイは呆れた眼差しで息を吐く。

 

「ふぅ……貴女は昔からそうでしたね。それに、なぜアデュク程度の相手に遅れを取ったのですか?」


 決して油断していた訳では無かった。

 ただ剣を使えば加減が下手な自分はアデュクを殺してしまう。

 あの時、アデュクが背後に回り込んだ瞬間。ユキナの思考は水平に剣を振り抜くという選択を選んでいた。

 そして頭に浮かんだのは胴体を寸断されたアデュクの死体だ。だからユキナは二度目の剣を使うことを躊躇した。


「……無力化が好ましいから」


「あ〜確かに私はそう言いましたが……いえ、それは貴女が選択したことですね。なら私がとやかく言うのは違いますね」


 召喚の宝珠を所持していたアデュクがその後どうなったのか知らない。

 色々と話しを聞く為にユキナは、まず当たり障りのない質問から聞くことにした。


「お仕事は良いの?」


「えぇ、友人の看病をするぐらいの自由は効く職場ですから」


 面と向かって友人と言われたことが無かった。

 ユキナを取り巻く関係性はいつだって仲間か家族か他人だけだったからだ。

 ユキナはルイの眼を真っ直ぐと見つめながら、


「ありがとう」


 礼を口にすると、笑ってどういたしましてっと返される。


「そういえば、どれぐらい経ったの?」


「ユキナちゃんが倒れて三日ですね」


 三日も眠っていたのは随分久しぶりだ。

 身体が鈍らないか心配にもなるが、今は休むことを考えなければ看病してくれた彼女に失礼だ。

 最後にユキナは無力化した彼について尋ねることにした。


「……アデュクはどうなったの?」


「アイツは騎士団に引渡しましたよ。エデンの残党ですから情報を吐くまで拷問、尋問に掛けられるでしょう」


 罪人に対する騎士団の拷問と尋問は、処刑宣告なようなものだった。

 これまで数多の罪人が騎士団の拷問と尋問により、情報を全て吐き出された上で廃人ないし処刑されていた。

 本来なら自分もそうなるべき存在なのだが……。


「そう、なんだ」


「……あっ! そういえばそろそろ包帯を替えて解毒薬を服用する時間ですね!」


 ルイはわざとらしく話題を逸らした。

 いつも過去に関連した話題となるとルイは話しを逸らす。それが有難いと思う反面、いつまでも甘えられないとユキナは思う。

 同時に苦い薬は苦手。これから味わうと思うと小さな息が漏れる。ふと動く気配に気付けばシャツに彼女の手がにじり寄っていた。

 彼女の手から逃れるように距離を取る。

 

「自分でできるよ」

 

 残念そうにするルイを他所に、ユキナは手早くシャツのボタンを外しシャツを脱ぐ。

 そして下着姿だけになったユキナは包帯を外すと乳白色の肌が顕になる。

 後髪を束ね持ち上げてからルイに背を向けた。

 一人で背中の包帯を替えられない。だからユキナは彼女に頼んだ。


「包帯はお願いしても良い?」


「お任せを! と言いたいところですが、既に傷口は跡形も無く綺麗さっぱり塞がってますね。流石は優秀な治療師」


 じゃあ包帯を替える意味は無い。そう思った矢先、病室のドアを開け放つ音が響く。

 ちらりと視線を向ければ、そこには意気揚々とフルーツバスケットを持参したレノが居た。


「ユキナ! 見舞いにき……ぶはっ!?」


 病室を訪れたレノは盛大に鼻血を噴き出し床に倒れ込んだ。

 倒れた拍子にフルーツは鼻血に染まった床にぶち撒けられてしまう。

 ユキナは手早く着替えを済ませ、気を失ったレノに近寄る。

 そしてしゃがんでは頬を突く。

 幸せそうな表情を浮かべ気を失ったレノに、ユキナは小首を傾げる。


「……レノ、そこで寝ると邪魔だよ」

 

 軽蔑も何もない赤い瞳でレノを見つめ、何度も頬を突く。

 それでも彼は一向に起きる様子を見せない。


「起きない」


「しばらく放置で良いでしょう。それよりも解毒薬を飲んでくださいよ? まだ体内から毒が抜け切ってないんですから」


「……うん」


 ルイが差出す解毒薬を受け取る。

 解毒薬の毒々しい液体にユキナは一瞬、飲む事を躊躇ったが覚悟を決め、一気に飲み干す。

 濃厚な苦味にユキナは表情一つ変えない。しかしアホ毛は枯れたように倒れた。

 ユキナはベッドに歩み寄り、そのままベッドに倒れ込んだ。


「……苦い」


「倒れる程とはよく聴きますが、確かに色自体がもうヤバいですよね」


 強い薬なのか、眠気を感じながらルイに勧める。


「飲んでみるといいよ」


「嫌です」


 きっと背後でいつもの笑みを浮かべているのだろうとユキナは思いながら一言呟く。


「……理不尽」


「まあ、まだ回復しきってませんから部屋と新米くんの掃除は任せて休んでください」


「うん、ありがとう」


 こうしてユキナは鼻血に染まった後始末をルイに任せ、休息を取るのだった。

 立て続けにアスガルを襲った事件は犯人の捕縛によって解決したが、依然と影に潜む者たちが虎視眈々と隙を窺っているしまつ。

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