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一党追放  作者: 藤咲晃
三章 溢れる幽霊と因縁
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絶望

 オーガ討伐を果たした二人は意気揚々とアスガルに帰るのだが、ユキナは絶望した。

 三日前と変わらず町中に溢れる幽霊。

 ルイは確かに三日で幽霊討伐は完了すると言っていた。しかし現実は違う。


「……どうして?」


 膝から崩れ、地に手を付けたユキナに門番が告げる。


「幽霊は何度も一掃されたんだが……何者かが何処かに召喚陣でも刻んだのか、明朝には溢れるんだよ」


「それって、三日の間に一掃、明朝に振り出しに戻るってことか?」


「そうだ。アスガル伯爵の騎士達が調査に動いてるが……」


「進展無し。となると俺達も手を貸した方がいいな」

  

 ふわふわと町を漂う幽霊がユキナの身体を取り抜ける。

 腹部から背中を通過した霊体にユキナは小さく悲鳴を零す。


「……やっぱもう少し怯える彼女を見るのも」


「悪趣味な奴め。嫌われても知らんぞ」


「それは困るな。……って、ユキナはいつまでそうしてるつもりだ?」


 二人の会話が耳に入らない。

 幽霊が恐い。いつも恐い時は兄が側に居てくれた。

 眼を瞑り晒そうとも溢れる恐怖の前に精神は限界を迎え、


「……お兄ちゃん助けて。何処に居るの?」


 自分でも知らない内に兄に助けを求め捜していた。

 もう兄から見放されたのに懲りずに助けを求めた。

 それは【竜の顎】の名声低下に繋がる。

 自分が原因で兄達に迷惑をかけることは嫌だ。

 だから立ち上がって幽霊騒動を解決しなきゃならない。

 ユキナは幽霊騒動解決のために立ち上がる。


「おっ、やる気だな。ってか兄貴が居たのか」


「うん、大好きな兄ちゃん」


「だ、大好きねぇ。随分と想われてるんだな」


 何故か悔しげに歯軋りするレノに、ユキナは訳が分からず小首を傾げる。

 そして気がつく。レノと話していると恐怖が和らいでいることに。

 なぜそれが恐怖を和らぐのかは依然として理解できないが、ユキナは行動を迅速に移す。


「話しながらギルドに行こ」


「……あっ……よし! 会話は任せておけ」


 こうして二人は、幽霊が溢れる町中で雑談を繰り広げながらギルドに駆け出す。


 レノが幽霊を蹴散らしながらギルドに向かうと。

 扉を蹴り開けたルイとかち合う。

 銀の短刀を右手に構え、普段とは違い冷徹な表情を浮かべる彼女にレノは戦慄し眉唾を飲んだ。

 強者の風格を醸し出すルイにユキナは慣れた様子で声をかける。


「ルイが出るの?」

  

 此方に視線を向けるなり一瞬驚いた表情を浮かべ、いつもの事務的な笑みを取り繕う。

 取り繕わなくともありのままの姿で良いと思う。


「っ……ユキナちゃんでしたか。いえ、不審な気配を感じたので飛び出した所ですが……如何やら逃げたようです」


 彼女の言う気配に心当たりがないユキナは辺りを見渡した。

 ギルド周辺は幽霊が徘徊してるばかりで誰も居ない。

 

「……ゆ、幽霊しか居ないよ」


「あぁ、まあそうですね。……それでお二人は報告ですよね?」


 ルイの対応にレノは違うと笑みを浮かべた。


「報告も有るけどよ、やっぱ俺らも参加する」


「……霊体に対する有効打を持つのは新米くんお一人。ユキナちゃんを連れてどう動くつもりですか? そもそも有効打の無い彼女に任せるほど我々は愚かではありませんが」


「あー。当初は幽霊討伐で終わる話しだったろ? けど今は状況が変わった。不確かな情報だが、召喚陣を捜し出すぐらいには役に立つつもりだ」


 レノの話しにルイは指先を顎に添え思案を浮かべた。


「確かに人手は一人でも多い方が良いですね。現在アスガル伯爵の騎士団も動いてますが、未だ召喚陣の発見には至ってません。そもそも召喚陣では無い可能性も有ります」


「召喚陣以外にこんだけの幽霊を召喚する方法ってあんのか?」


 召喚魔法を用意ない方法。

 ユキナは懸命に過去の記憶を探る。

 しばらく探ると【竜の顎】の一人として経験した体験の中にそれは有った。

 北方の古い遺跡内部の深部で安置された宝珠から大量の魔物が呼び出された経験が確かに有った。


「……遺物?」


「その可能性も捨て切れませんね。かつて【竜の顎】が回収した宝珠と同型の物が別の遺跡で発見されたという報告も多数有りますし」


「……それじゃあアンタが感じたっつう気配が怪しいな」


「誰かが保有し町中を移動している。あるいは何処かを拠点にしているのでしょう。ですのでお二人は不審人物の方を探してもらえませんか? 既に地下水路や町中は冒険者と騎士団が探っているので」


「分かった。……って、もしかすると人を相手にすることになるのか」


「……殺さず捕える」


「是非ともそうしてください。捕縛は重要な手掛かりになるので」


 ルイはこちらの眼を見つめ、大丈夫か? と言いたげな視線を訴えていた。

 もちろん不安は有る。だけど今は一人じゃない。


「大丈夫」


「そう、ですか。無茶はしないでくださいね」


「ん」


 ユキナは短く答え歩き出す。

 レノは彼女の後を追いながら、


「待てよ。先ずは怪しくない施設から調べるぞ」


 一つ提案した。

 怪しくない施設。アスガルで怪しくない施設の方が多い。

 逆に怪しい施設を探す方が難題だ。


「……? 教会、ギルド、公衆浴場、アスガル警備署、領主のお屋敷」


 一先ず思い付くだけ口にすると、レノは笑みを浮かべた。


「ギルドは確実に除外して良い。アスガル伯爵ってのは成り上がり貴族だろ? 確か冒険者の功績で貴族の爵位を授かったって」


「うん。珍しくない話し」


「折角成り上がって事件を起こすのはリスクが多い。下手をすれば爵位撤回とかな。なら教会が怪しいと思うんだ」


「どうして?」


「誰でも気軽に訪れられる。人の出入りも時間帯問わずだろ」


 それなら公衆浴場も怪しいとユキナは思う。

 そんな考えを見透かしたのか、レノは自らの考えを口にした。


「公衆浴場も候補ちゃあ候補だが、ギルドから近いのは何処だと思う?」


 幾ら無関心でもそれぐらい分かる。別に不快ではないがアホ毛が逆立つように動く。

 なにせ通い慣れた町、何も知らないと思われるのは少しだけ心外だった。


「同じ中央区に在る教会──アダム教会」

 

「そうだ。……まあ当てが外れたら片っ端から調べれば良いだけだしな」


「それなら急ご……幽霊はもう見たくないから」


 行き先が決まった二人は地を蹴り、町中を走り出す。

 二人を観察する視線に気付かずに……。

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