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一党追放  作者: 藤咲晃
三章 溢れる幽霊と因縁
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一騎討ち

 二人はアスガルから一日がかりで北の小さなファルス村を経由し、オーガが凄むという山岳部を目指した。

 人の手が入り込んだ山道を進み、オーガが目撃された山岳の山頂に向かう。

 山道を進む中、ユキナは剣の柄に手を添え、レノに眼を向ける。


「オーガは硬いよ」


「らしいな。作戦も一応考えたんだが、多分アンタならオーガも一瞬なんだろうな」


 レノの指摘をユキナは否定しなかった。

 

「何度も討伐したから」


「そっか。楽したい所だが、今回は俺が一人でやる」


 レノの凛とした声にユキナは思わず足を止めた。


「……危ないよっ」


 自分でも驚くほど震えた声が出ていた。

 

「なんだ、心配してくれてるのか」


 心配。本当に自分はレノを心配してるのだろうか?

 ユキナはレノの質問に眼を瞑る。

 頭の中に彼がオーガに踏み潰される光景が浮かぶ。

 仲間の死、昔見た広がる屍の山。そこに追加されるレノの屍。

 心が騒めく。ユキナは眼を開け、真っ直ぐレノの金色の瞳を見つめる。


「うん、仲間に死んで欲しくない」


「そう言われると弱いなぁ。……けど、いずれは辿る道だろ? ここは俺を信じてくれ」


 それを言われるとユキナは頷く他になかった。

 一党を信じるのもまた仲間としての勤めだからだ。

 信頼関係を構築する上で必要なこと。

 同時に万が一レノが危機的状況に陥るなら助けに入る。それで彼が無事なら一党から追放を告げられようとも構わない。

 それとは別にレノがなぜ一人でやろうとするのか興味が湧く。


「如何して一人で挑むの?」


「如何してってそりゃあ、まあ男には色々とあんだよ」


 訳が分からなかったが、何となくレノが言いたい事は理解できる。

 兄とリドもそうだった。ドラゴンの討伐を一人で挑むと言ってボロボロになりながら一人で討伐を果たした。

 男の人はそういう生き物だと義母とリティアが教えてくれたことが有った。

 確かにそうかもしれない。なら今出来ることは彼を信じることに他にない。

 

「……じゃあレノを信じる」


「おっ、信じてくれ。なんなら惚れても良いんだぜ?」


 信じるのは構わないが、惚れても良いという意味が理解できずユキナは小首を傾げた。すると彼は苦笑混じりに肩を竦め歩き出す。

 レノが言った言葉はユキナの中で単なる冗談として片付けられ、彼女は彼の後に続いた。

 


 ▽ ▽ ▽


 山岳部の山頂にソレは居た。

 筋肉に覆われた赤い外皮。頭部の凛々しい角、凶悪な顔、首にぶら下げられた数珠。

 腰に巻かれた腰巻と瓢箪。紛れもないオーガの姿にレノは息を呑む。

 ゴブリンや黒狼には無い威圧感と纏う死の恐怖がレノを襲う。  

 それでも彼は拳を握り、威圧と恐怖に呑み込まれないように丹田に力を入れる。

 そしてオーガに真正面から歩み構えを取る。

 構えを取るレノにオーガは人間の挑戦者が現れたと口元を吊り上げ構えた。

 

「行くぞぉぉぉっ!!」


 レノは吼え、拳と脚に魔力を纏わせながら地を踏み抜く。

 オーガの視界からレノの姿が消え、ユキナは視線を決して動かさずレノの行動を明確に捉える。

 仲間の挙動一つ一つをオーガは観察し、僅かな挙動で誰がどの様に動くのか理解し対応、そして剛腕で踏み潰す。

 そうやって経験を積んだ一党を打ち砕くのがオーガだ。

 ユキナがいま出来ることは、レノの動きを眼で追わないこと。

 そしていざという時に動くことだ。

 オーガの目前にレノが現れ、彼は雷を纏った拳を標的の頭部に叩き込む。

 鈍い音が山頂に響く。

 雷による破壊力と速度を合わせた拳がまともにオーガの頭部に入った。

 オークやゴブリンなら頭蓋骨を粉砕する一撃。だがオーガは殴られたままにやりと笑う。


「やっぱりかよっ!」


 まるで効いていない。

 そう理解したレノはオーガから距離を離す。

 そして詠唱から雷の槍を掌に作り出す。


「雷槍よ貫け!」


 作り出した雷槍をオーガに向け真っ直ぐ投擲。

 しかし雷槍はオーガの肉を貫く前に、掴み取られる。

 オーガは掴んだ雷槍を握り潰し、足を上げながら腕を上げだす。

 何か来る。

 そう判断したレノは右に逸れるように走り出す。

 一瞬、レノの隣を何が通り抜け、破壊音が耳に響く。

 恐る恐る眼を向ければ、先程までレノが居た地面が粉砕されていた。

 冷や汗が額から流れる。一瞬の判断で明確な死が訪れる。それどころか気付かないまま殺されていた。

 それでもレノはオーガに立ち向かう。

 恐い、楽して稼ぎたい。全部ユキナに任せればそれで済む。

 頭に本心と弱音が駆け巡る。それでもユキナは信じると言った。

 だからレノは逃げてユキナに任せるつもりは毛頭ない。何よりも彼女と共に歩むならオーガ討伐は必要だからだ。

 

「こいつはどうだッ!」


 掌に爆炎を纏わせ、オーガの胸に零距離で爆破させる。

 立ち込める黒煙にレノは次の一手を打つ。

 右掌に炎。左掌に雷を作り出し、二つの属性を重ね合わせる。

 炎の爆発力と雷の破壊力を合わせた魔法をオーガに放つ。

 爆炎と雷撃が動かないオーガに炸裂する。

 魔法の直撃にレノは、反撃に備え一度距離を取り構え直す。

 オーガを覆っていた黒煙が突如発生した風圧に掻き消され、確かな火傷を負ったオーガの姿が現れる。

 オーガは腰の瓢箪を取り、中の酒を飲み出す。


「戦闘中に酒って、随分と余裕見せてくれんじゃねえか」


 レノは精一杯の強がりを言うが、オーガの酒は魔力を帯びた酒だ。

 オーガには酒を飲むことによって放てる魔法が有る。


「レノ、そこから離れて」


「分かった!」


 ユキナの助言にレノは走り出す。

 するとオーガは動き回るレノを捉えながら、大きく息を吸い込んだ。

 そしてオーガは口から酒臭い灼熱の息を吐き出す。

 燃え盛る地面、広がる火の手がレノの退路を塞ぐ。

 後方に控えていたユキナに視線をを向ければ、彼女は既に灼熱の射程外に逃れていた。

 レノは拳に魔力を込め地面に叩き込む。魔力の伴った衝撃が岩を隆起させ、今度は隆起した岩をオーガに蹴り飛ばす。

 炎を掻き消しながら飛来する岩。

 だが、岩の落下地点にオーガの姿は無い。

 何処に行ったのか、とレノは周囲を見渡す。

 すると背後に威圧と殺気が立ち込め、レノは本能に従ってその場から離れる。

 瞬間、オーガの拳が大地を激しく揺らす。

 地震に足を取られる中、レノの目前にオーガの拳が迫る。

 腹部にオーガの拳が入り、レノの身体は空に打ち上げられた。

 殴られた衝撃に口から血糊を吐き出したレノは、地上を見下ろした。


「レノっ」


 地上には心配そうに見つめるユキナ。そして落下地点で拳を構えるオーガの姿が有る。

  

(一発でこの威力っ! あと一発食らったら内臓は愚か骨も砕けちまうな!)


 今にもオーガを仕留めんと剣の柄を握る彼女に、何もするな! と強い意志を眼に宿す。

 こちらの意志を汲み取ったユキナは剣から手を離す。そしてレノは打開策を打つべく思考を巡ら続ける。

 オーガの身体は非常に硬い。

 しかしユキナは硬いオーガを魔力も使わずに斬り刻めるだろう。

 どんな方法かはレノには検討も付かないが、鋭い刃でオーガの首を斬れば勝機は有る。

 幸い今は空に打ち上げられ、後は落下するばかり。

 落下の勢いを利用し、全体重と持てる力でオーガの首を落とす。

 一瞬でもタイミングを誤ればレノは今度こそ殺されるか、見極めたオーガが回避に移れば自分の身体は地面に衝突し身体はぐちゃぐちゃになるだろう。

 

(賭けか。ギャンブルは好きだが、命掛けは好きじゃねえんだよなぁ。……けど、魔法があの外皮に弾かれる。なら賭けに乗るしか方法はないか)

  

 身体が落下を始める頃、レノは決断を下す。

 手刀を作り魔力を練り込む。

 鋭い刃を掌の側面に作り出すように。

 やがて手刀に鋭い刃が形成され、オーガはにやりと口元を吊り上げた。

 真向勝負。あの弱き人間は一人で賭けに臨んだ。ならば応じなければならない。

 オーガは受けて立つと拳を構える。

 徐々にレノとオーガの距離が縮まる中、オーガの間合いに彼の身体が入る。

 繰り出される剛拳が空気を歪めませ、レノに迫る。


「レノっ!」


 ユキナの声を合図にレノは、身体を大きく捻った。

 オーガの繰り出した剛拳を宙で避け、彼は剛拳を足場に跳ぶ。

 そして首筋に手刀を斬り付けた。

 オーガの外皮に食い込む魔力の刃に、


「うおおおおおっっ!!」


 レノは気迫と共に振り抜く。

 迫る地面に、レノは受身を取ることで身体に掛かる衝撃を逃す。

 そしてオーガに振り返ると、そこには首を失ってなお佇んだオーガの姿が有った。


「や、やったのか?」


 本当に倒せたのか、確認を込めてユキナに振り向く。


「うん」


 ユキナの頷きに、身体から一気に力が抜ける。

 そのままレノは地面に座り込み、大きく息を吐き出す。

 そして、今頃になって全身に激しい痛みが襲う。


「ぐうぉっ!! めっちゃ痛えぇ!」


 それは無理もないとユキナは、レノの側にしゃがみ込んだ。

 そしてユキナは何処か嬉しそうに、


「おめでとう」


 そんな言葉を告げた。


「お、おう。……それにしてもオーガは何で避けようとしなかったんだ? はっきり言って俺を殺せる機会は有っただろ」


「……オーガは真向勝負が大好き」


 だからオーガはレノの攻撃を全て受け止めた。

 それは人間の自分から見ても漢らしいとさえ思える。

 

「……立てる? 歩ける?」


「大丈夫だって。それよりも下山して休もうぜ」


 そんな提案にユキナは頷いて立ち上がる。そして手を差し伸ばした。

 差し出された小さな手。されども数え切れないほどの命を斬った手。そんな印象を受けながらレノは、彼女の手を掴んだ。

 こうしてオーガの討伐を果たした二人は、一晩休んでからアスガルの帰路に着くのであった。

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