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一党追放  作者: 藤咲晃
三章 溢れる幽霊と因縁
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溢れる幽霊

 住民は騒然としギルドは困惑に包まれていた。

 幽霊が町中に溢れ返り、何処を見渡せども幽霊ばかり。

 

「……クエストはゴーストバスターってか?」


 レノは目前に浮かぶ幽霊に魔力を込めた拳を振り抜く。

 魔力が霊体の実体を捉え、拳が霊体を貫く。

 甲高い悲鳴と共に消滅する幽霊に、レノはギルドを見渡す。

 そこにユキナの姿は無かった。

 

「ユキナ、まだギルドに来て無いのか?」


 不在の彼女に疑問を口にすると不意に肩を叩かれる。


「何だ、受付嬢かよ」


 ユキナの悪戯。無いと思いつつ淡い期待感から振り返ると、そこには悪戯が成功したと笑うルイの姿が有った。


「ユキナちゃんじゃなくて残念? ですけど……ユキナちゃんは既にギルドに来てますよ」


 既に来ているユキナ。

 しかしギルドを何度も見渡そうと彼女の姿は無い。

 ふと、ギルド内に置かれた木箱に眼が止まる。

 それは壁際に置かれた人が一人入れる木箱。

 レノは記憶を探る。


「普段、あんな場所に木箱なんか有ったか?」


「木箱は主に備品庫と食糧庫に置かれてますね」


 笑みを崩さないルイに、レノは再度木箱を見つめる。

 何処を見渡そうとも姿が見えないユキナ。しかし既にギルドには来ている。

 そして普段置かれない場所に木箱。

 レノはルイと木箱を何度も交互に視線を向け、


「……まさか?」


「かわいいですよ」


 それは最早答えだった。

 そしてレノの行動も極めて迅速で、木箱の蓋を開ける。

 するとそこには膝を抱え、全身を震わせるユキナが居た。

 完全に怯えている。それは誰の眼からも明らかだった。何よりアホ毛が倒れているのが証拠だろう。

 なぜこんな場所にとか色々と聴きたいことが有ったが、レノは一先ず優先事項を尋ねた。


「恐いのか? 幽霊」


 問い掛けにユキナは静かに何度も頷く。

 その仕草は怯える小動物のように見えて大変可愛らしいものだった。


「ダメなんだな、幽霊」


「斬れない。倒せない」


 レノは頭を抑えた。

 確かに霊体に有効な手段は魔力による精神攻撃だ。

 魔力が使えないユキナは、現状霊体に対する有効な手段が無い。

 それとも魔力を帯びた魔剣をユキナに与えるか。

 レノは魔剣調達にかかる多額の費用を頭に浮かべ、すぐさまその案を却下した。

 そもそも魔剣といっても種類が有る。

 所持者の魔力を増幅させる物。剣身そのものに魔法が付与され、魔剣のそのものが魔力を保有している物。

 中には周囲の魔力を奪う物まで有る。

 いずれにせよユキナにとって当たり外れが有るのも大きい。

 何よりもユキナの可愛らしい一面が減り、自分の立場も無くなる。

 そう考えたレノがユキナに魔剣を与える選択肢を排除したのは必然とも言えた。

 彼女が倒せない幽霊は自分が代わりに討伐してやればいい。

 

「悪いんだけど、ここはアンタに我慢して貰うぞ? 俺にも日々の生活が掛かってるしよ」


「……が、がんばる」


 怯えた声で眼を強く瞑り震える身体を抑えながら木箱から出た。

 まだギルド内に幽霊は居り、ユキナは視界に幽霊を入れないよう努めた。

 彼女の怯えた様子にルイが背後から声をかける。


「言い忘れてましたが今回の件は既に別の一党が請けましてね」


 幽霊討伐は既に無いと語るルイにユキナの表情がほんの僅かに和らぐ。

 ルイは受付嬢だ。彼女はどの一党がどのクエストを請負ったか把握していれば、ギルドに寄せられた依頼数も当然把握している。

 そう、ユキナが木箱の中で怯えている間にルイは彼女が幽霊討伐を請けることが無いように手を回した。

 レノは自身の推測に遠からずと言った手応えでルイに顔を向けた。

 するとこちらを見てほくそ笑むルイに、


(や、やられたぁぁ!! 職権乱用でユキナの好感度上げやがったぁぁ!!)


 レノは心の中で叫び、してやられたと悔しげに顔を歪めた。


「けどよ、こんだけ溢れてんなら頭数は必要なんじゃねえの?」


「そこもご安心よ。アスガルの町に滞在中の全冒険者一党……11組み中5組みが既に協同で討伐に当たってます」


 自分たちも参加したい。そう頼み込むつもりがルイはそれすら見越した上で進路を断つ。

 これ以上はレノの私情を挟んだ単なる我儘でしかない。何せ町の幽霊討伐に討伐手段を持たないユキナを連れて行くと言ってるようなものだ。

 それはルイに限らず、危険性を考えれば誰だって難色を示すだろう。

 特にユキナが魔力を使えないのはアスガルの冒険者には周知の事実だ。

 誰しもがユキナの参加を足手纏い断言することは目に見えていた。


「分かったよ。それじゃあ別のクエストにするか……ユキナ、何が良い? この際だ多少遠出になっても構わないぞ」


「……良いの?」


「ああ。幽霊が平気でもこう多いと気が滅入るからさ」


「……選んで来る!」


 どうやらユキナはこちらの意図を察したようだ。

 町に幽霊が溢れるなら町から離れるようにクエストを請ければ良い。

 レノは勝ち誇った表情でルイに顔を向けると、


「予定通りですね。現在張り出されてる依頼の中で遠出となると三日は掛かるものばかりですから」


 最初からルイの掌で踊らされていた。

 ユキナに対して単純な思考に陥りがちのレノをルイは注意深く観察し、彼がどんな行動に出るのか三手先まで読んだ上で幽霊発生時に計画を練った。

 後は幽霊騒動が解決されれば今回の一件はそれで終わり。

 レノは漸くルイの思惑にも気付き、内心で彼女を賞賛した。

 立場と使用できる権限、洞察力と観察眼。そして受付嬢としての経験にもレノは敗れたのだ。

 元より勝負などしてはいなかったが、同じくユキナを気に掛ける身としてルイにも負けてはいられない。

 しかし遠出となれば少なからず目的地到着まではユキナと寝食を共にする。

 レノがユキナと距離を縮める好機でも有る。

 邪念と煩悩がレノに渦巻く中、嬉しそうにアホ毛を揺らすユキナが戻って来た。


「選んだよ」


 そう言ってユキナは依頼書を見せる。

 そこに書かれていたのは、山岳部に出現したオーガ討伐だった。

 オーガと言えばアスガル領内に出現する魔物の中で上位に位置する存在だ。

 そして山岳部には村を一つ経由して片道一日半。


「新米は出会ったら逃げろって言われてるオーガを選んじまったのか?」


 いずれは挑まなければならない新米にとっての難敵。決して恐くないわけでは無い。正直言えばレノのは心の底から恐怖していた。

 そんなレノに対してユキナは小首を傾げながら彼の両手を握り、


「? レノは護るよ」


 惚れてしまいそうな事を平然と言ってのけるユキナに、レノは一瞬ときめいた。そして叫んだ。


「逆ぅぅぅぅ!! その台詞は普通男がするもんなんだよっ!」


「あら〜スライムに衣服を溶かされ、ユキナちゃんにお姫様抱っこならぬ王子様抱っこされた者の台詞とは思えませんねぇ」


「何で知ってんだよっ!?」


「ふふっ……私は受付嬢ですから」


 ドヤ顔で揶揄うルイをレノは鋭く睨む。だが、彼女は涼しげな顔で向けられる殺意をものともしない。

 この女をどうしてやろうか。そんな事を考えていると不意に服の袖が引っ張られる。

 

「レノ、早く出発しよ」


 周囲に幽霊が浮遊する場所から一刻も早く離れたい。ユキナはそう訴えていた。

 彼は仕方ないと息を吐き、


「オーガ討伐なんだ。入念な準備が必要だろ? 恐いと思うがそこは我慢してくれ」


「が、がまんする」


 恐がる彼女の為にもレノはさっそく準備に取り掛かり、幽霊騒動で阿鼻叫喚となった町を発つのだった。

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