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一党追放  作者: 藤咲晃
三章 溢れる幽霊と因縁
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悪夢

 鎖に繋がれた少女は必死に呼び掛ける少年に応じず、何もない天井を見つめていた。

 何も考えられない、興味が湧かない。少年がかける言葉に感情も沸かない。

 

「頼むからお兄ちゃんを見てくれ!」


 必死に呼び掛ける少年の声が薄暗い地下牢に響く。

 少年は何とか少女を助け出そうと鉄格子を何度も揺らし、魔法を放つ。

 しかし少年の努力を嘲笑うように無傷の鉄格子が少年と少女の牢を隔てる。

 そして、数人の足音が響く。

 三人の大人が少女の牢に足を止め、


「欠陥品は感情を失い、心が砕けたか。その点兄の方は優秀と言うべきか?」


「制御出来ない点では失敗作に変わりはない」


「……妹の方は幾分かマシというだけか。何にせよ、これから始める訓練次第か」


 大人は周囲の牢に眼を向け嘲笑う。

 兄妹と同じ様に牢に幽閉された子供たち。

 しかし、彼らはもう生きては居なかった。

 また魔物の餌が増えた。そう笑う大人に少女は眼を向けず、虚な眼差しで天井を見上げるばかり。


「さあ時間だ」


 そう言って牢は開かれ、少女は大人たちに連れて行かれた。

 地下牢に残されたのは少女の名を叫ぶ兄と物言わぬ死体だけ。

 暗がりに啜り泣く声が寂しげに響くばかり。


 それから少女が兄の前に再び姿を見せたのは、二年後のことだった。

 

 ▽ ▽ ▽


 蛇口スライム事件から一週間。

 夢見が悪く目覚めたユキナは、額の汗を拭う。

 そして彼女は自らの身体に視線を向ける。

 汗に濡れたぶかぶかのシャツと下着が肌に吸い付き、開けていた窓の風に身体が冷える。

 

「……びしょびしょ」


 忘れたい過去の夢を見た。

 だから酷い寝汗を掻いた。

 冷える身体にユキナはベッドから起き上がる。

 

「……シャワー」


 気分転換も兼ねてまだ寝ぼけ気味の頭を起こすためにも、彼女は備え付けのシャワー室に向かった。

 熱々のシャワーを浴びながら長い白髪を掻き分ける。

 乳白色の肌に泡が伝い排水口に流れる。

 徐々に鮮明になる思考。しかし残念ながらユキナの頭は活性化しようとも思考に変わりは無い。

 嫌な過去は忘れるに限る。それがリティア達から教わった上手いやり方だ。

 本当にそれでいいの? 嫌な過去から逃げてばかりでいいのか。迷いを訴える小さな自分の姿が目前に浮かぶ。


「……逃げちゃダメ?」


 随分と弱気な問いに小さな自分は頭を左右に振る。

 それじゃあ兄達に捨てられたままだ。小さな自分の眼が訴える言葉にユキナは小さく息を吐く。

 過去の悪夢は恐いがユキナにとって過去は、贖罪しなければならない罪だ。

 ユキナは手を伸ばす。すると小さなユキナは笑みを浮かべながら消えた。


「……弱気じゃダメだよね」


 もしも彼らがまた現れるなら戦う他にない。

 ユキナは小さな決意を固めシャワーのノズルを回す。

 それからシャワーを浴び終え、冒険者用の衣類に着替え髪を乾かしたユキナは、部屋を前に呆然と立ち尽くした。


 部屋の中をふんわりと浮かぶ半透明な少年少女。

 部屋に幽霊、窓に視線を向ければ外にも幽霊。何処を見渡せども幽霊。

 夢の悪夢の次は現実の悪夢のような光景。

 一体の幽霊がユキナの腹から半透明の頭を出す。

 先ほど過去から逃げないと改めて決意したが、彼女にとってこれは別問題だった。

 見たくもない光景にユキナの顔は青く染まり、アホ毛がぺたんと倒れる。


「……いやっ!」


 小さな悲鳴をあげたユキナは剣を手に取り、窓から飛び出した。

 そして着地した彼女はそのままギルドに走る。

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