表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

遊園地




 後に、鷹也の職業が探偵であった事を知って僕は驚いた。

 一週間、泊まり込むというのはよくあるらしい。そして、父の再就職先が、鷹也の勤める探偵事務所である事が二重の驚きだった。


 父は探偵業の辛さを語っていたが、まんざらではなさそうで、何だか前より生き生きして見えた。


 玲子さんは今でもエキストラ業を続けている。

 時々、遠方に行く事はあったが、無理をしないでそれなりに楽しんでいるようだった。



 そして、今日は、鷹也の義妹である真由葉ちゃんと一緒に遊園地にいる。

 僕の目の前に花柄のワンピースに小さな髪飾りをつけたかわいらしい少女が、目をキラキラさせて乗り物を眺めていた。


「翠お兄ちゃん、次はあれ乗ろうよ」


 観覧車を指差してから、僕の指先を小さな指でつかんだ。


「うん」


 僕は、真由葉ちゃんがかわいくて仕方がなかった。


「行こうよ、鷹也」


 振り向くと、不機嫌な顔で鷹也が頷いた。


「……ああ」

「どうしたの? 何か怒ってる?」


 さっきからこの調子だ。遊園地に来たのに楽しくないのだろうか。


「翠、ちょっと耳貸せ」

「あ、う、うん」


 僕は真由葉ちゃんの手を握りしめたまま、そばに寄ると、鷹也が口を近づけてぼそりと囁いた。


「お前、真由葉に嫉妬していたんじゃなかったのか」

「だって、こんなにかわいいんだよ」


 何を言うのか、と驚いてしまう。

 小さな手のひらが僕を急かすように引っ張った。


「お兄ちゃん、早く行こうよ」


 僕はにこっと笑いかけると、真由葉ちゃんもほほ笑んで僕に抱きついた。


「翠お兄ちゃんはすごくいい匂いがする。鷹也お兄ちゃんも、最近は臭くない」


 僕は面食らって、真由葉ちゃんを抱き上げた。

 顔を近づけると、真由葉ちゃんからは甘い匂いがした。


「真由葉ちゃんは、バニラの匂いがするね」


 さっきまで舐めていたソフトクリームの匂いがする。


「どれ?」


 鷹也が言って、僕に顔を近づけてきた。

 あまりに近くてドキリとする。


「た、鷹也っ」


 鷹也はにやっと笑うと、


「行こうぜ、真由葉」


 と、真由葉ちゃんを奪うと、観覧車の方へ歩いて行く。

 うしろ姿を見ていると、鷹也が立ち止まって振り向いた。


「翠っ」

「待ってよっ」


 僕は、大きく息を吸いこんだ。

 大好きな背中を追いかける。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ