遊園地
後に、鷹也の職業が探偵であった事を知って僕は驚いた。
一週間、泊まり込むというのはよくあるらしい。そして、父の再就職先が、鷹也の勤める探偵事務所である事が二重の驚きだった。
父は探偵業の辛さを語っていたが、まんざらではなさそうで、何だか前より生き生きして見えた。
玲子さんは今でもエキストラ業を続けている。
時々、遠方に行く事はあったが、無理をしないでそれなりに楽しんでいるようだった。
そして、今日は、鷹也の義妹である真由葉ちゃんと一緒に遊園地にいる。
僕の目の前に花柄のワンピースに小さな髪飾りをつけたかわいらしい少女が、目をキラキラさせて乗り物を眺めていた。
「翠お兄ちゃん、次はあれ乗ろうよ」
観覧車を指差してから、僕の指先を小さな指でつかんだ。
「うん」
僕は、真由葉ちゃんがかわいくて仕方がなかった。
「行こうよ、鷹也」
振り向くと、不機嫌な顔で鷹也が頷いた。
「……ああ」
「どうしたの? 何か怒ってる?」
さっきからこの調子だ。遊園地に来たのに楽しくないのだろうか。
「翠、ちょっと耳貸せ」
「あ、う、うん」
僕は真由葉ちゃんの手を握りしめたまま、そばに寄ると、鷹也が口を近づけてぼそりと囁いた。
「お前、真由葉に嫉妬していたんじゃなかったのか」
「だって、こんなにかわいいんだよ」
何を言うのか、と驚いてしまう。
小さな手のひらが僕を急かすように引っ張った。
「お兄ちゃん、早く行こうよ」
僕はにこっと笑いかけると、真由葉ちゃんもほほ笑んで僕に抱きついた。
「翠お兄ちゃんはすごくいい匂いがする。鷹也お兄ちゃんも、最近は臭くない」
僕は面食らって、真由葉ちゃんを抱き上げた。
顔を近づけると、真由葉ちゃんからは甘い匂いがした。
「真由葉ちゃんは、バニラの匂いがするね」
さっきまで舐めていたソフトクリームの匂いがする。
「どれ?」
鷹也が言って、僕に顔を近づけてきた。
あまりに近くてドキリとする。
「た、鷹也っ」
鷹也はにやっと笑うと、
「行こうぜ、真由葉」
と、真由葉ちゃんを奪うと、観覧車の方へ歩いて行く。
うしろ姿を見ていると、鷹也が立ち止まって振り向いた。
「翠っ」
「待ってよっ」
僕は、大きく息を吸いこんだ。
大好きな背中を追いかける。