第9話 守りたいもの
セレストリアが帝城に帰還したタイミングで、皇帝に呼ばれた。玉座の間に赴けば、皇帝とヴァルターがいた。
「何の御用でしょうか」
「……お前の部下、三幹部についてだ」
「彼らがいかがなさいましたでしょうか」
セレストリアの言葉に、皇帝は片眉を吊り上げる。
「キラキラジュエルがほとんど回収できておらぬではないか」
「以前ご説明した通り、彼らは囮、陽動として運用しております」
皇帝はぎろりと瞳を動かす。
「また庇うのか」
「事実を申し上げたまでです」
ヴァルターが口を挟んだ。
「……陛下、キラキラジュエルは集まってきております。あまり人材を失わせては」
「……使えんのにか?」
「そのような問題ではございません」
皇帝はセレストリアに視線を向ける。彼はしばし考え込むように黙り込んだ。ややあって口を開く。
「……将軍、次はない。下がれ」
「はっ」
セレストリアは一礼して踵を返す。扉が閉まる直前、ヴァルターが何かを呟いた。だが、扉の音にかき消され、彼女の耳には届かなかった。
執務室に戻ったセレストリアは重い息を吐く。
(……そろそろ潮時か……)
シルク、ノヴァ、アルルの三人は、大事な部下だ。そう考えたセレストリアは真新しい便箋を取り出した。一文字一文字丁寧にしたため、封をする。
「ナイト」
「姫様、御用でしょうか」
どこからともなくナイトが現れた。彼女は彼に封筒を渡す。
「これを幻想旅団に届けろ」
「承知いたしました」
ナイトは静かに影へと消える。誰もいなくなった執務室で、彼女は机へと突っ伏した。目を閉じれば、すぐさま眠りが訪れる。そうして、しばし泥のように眠った。
◇
「おや、ナイト殿ですか。わが旅団に入団希望ですか?」
ナイトが幻想旅団を訪れると、団長は仰々しい仕草で礼をする。
「姫様の使いだ」
「おやおや、つれませんね。ナイト殿は我がサーカスでも活躍できそうですのに」
「見世物になる気はない。姫様からの手紙だ」
彼は真顔で団長へ手紙を渡す。団長は大げさな態度で礼をすると封を切った。
「……なるほどなるほど。これはこれは……。……喜んで、と。そうお返事していただけますか?」
「手紙にしろ」
「ああ、なんと冷たい」
彼はヨヨヨ、と泣き真似をする。ナイトが無視していれば「紙とペンを取ってまいります。しばしお待ちください」と背筋を伸ばして裏へと向かった。
セレストリアへの手紙を受け取ったナイトは城へ戻った。玉座の間の近くを通った時、皇帝の声が聞こえてきた。彼は慌てて影の中に身を隠す。
「セレストリア……フィーネ……。ああ、泣かないでおくれ……」
確かに皇帝の声だ。だが、ナイトが聞いたことのある冷たい声ではなかった。彼はそっと影から顔を出す。見えた光景は、二つの女の子のぬいぐるみを抱きしめる皇帝の姿だった。
「大丈夫だ。お父様に任せて。必ず、必ず取り戻すから……。またみんなで……」
ナイトは十分に見届けたところで、影の中へと戻る。……今の光景を姫様に伝えるべきか、否か。ナイトには判断がつかなかった。
そのまま彼は姫様のいる執務室へと戻った。
「姫様、戻りました。……お休みでしたか」
そんな彼の目に入った光景は、机に突っ伏して眠るセレストリアの姿だった。ナイトは足音を消して彼女に近づく。
「体を痛めてしまいますよ」
彼はセレストリアから渡されたブローチを握り込む。すぐさま手足が伸び、衣服が暗殺者然とした服装へと変わった。
「失礼いたします」
ハンターとなった彼は、眠るセレストリアをそっと抱き上げた。ふと、その手が止まる。
(この細い肩で、帝国を背負っているのだ)
そんなことを考えていると、彼の優秀な鼻は甘い香りを拾った。ハンターの頬は赤くなる。
「……姫様はお眠りになっている。平常心を保て」
彼はそう言い聞かせながら、セレストリアを脇の簡易ベッドに寝かせる。そして、きめ細やかな頬をそっと撫でた。
「……もっと、頼ってください」
ハンターの呟きは、闇の中へと溶けていった。
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