第10話 影の初恋
その日、ナイトは魔法少女たちのいる街に買い物に来ていた。カジュアルな服装に身を包み、キャスケットを深めにかぶって耳を隠す。雑貨屋であれでもないこれでもないと商品を眺めていた時だった。
「あ、ナイト!」
彼の耳にぱたぱたと足音が聞こえる。聞き慣れた声に顔を上げた。目の前にはフィーネの姿があった。
「お買い物?」
「……そんなところだ」
ナイトは気恥ずかしくなってそっぽを向く。話題を変えるように「ほかの仲間はいないのか」と確認した。
「千里と恵? いるよ。こっち、こっち!」
フィーネが手を振ると、千里と恵が駆けてくる。
「もう、急にいなくならないでよ」
「ごめんね。ナイトの姿が見えたから」
「……ナイトってハンターだよね?」
千里はじっとナイトを見る。彼は視線から逃げるようにキャスケットを深くかぶった。
「もっと年上かと思った」
「ナイト、14歳だもん」
「え?」
「……同い年?」
「……悪いか」
ナイトがそう吐き捨てれば、魔法少女たちは「ううん。親近感あるなって」と笑う。
「今日は任務?」
「……プライベートだ」
「へえ、こういう店来るのね」
恵が意外そうに笑う。フィーネはにっこり笑って「……多分、お姉ちゃんへの誕生日プレゼントかな?」と答えた。
「……答える義理はない」
「え〜。……ちなみにだけど。お姉ちゃんが好きそうな雑貨はこっちの店じゃないと思う」
「詳しく話せ」
後ろで「食いついた……」というつぶやきが聞こえたがナイトは無視をする。
「角の突き当たりにある店とか。動物モチーフが多いよ」
「……なるほど」
彼はしばらくじっと考え込む。ややあって口を開いた。
「……案内しろ」
「いいよ」
フィーネはそう言って、含みのある笑顔を浮かべた。
「にしても意外だね〜。ハンターが誕生日プレゼント買いに来るなんて」
「……ナイトでいい。ハンターは変身後の名だ」
「あ、そうなの?」
「気になるの、そこなんだ……」
恵のツッコミをナイトは無視する。道中、フィーネは「そういえば……」と口を開いた。
「ナイトって、もともと狼にしか変身できなかったよね? いつの間に人間に変身できるようになったの?」
「狼になれる?」
千里が身を乗り出した。彼は口角を上げて答える。
「俺は影狼族だからな」
「ちなみにナイトには動物の耳があるよ」
フィーネはそう言いながらナイトのキャスケットを取る。その下にはピンと立った三角の耳があった。
「ほんとだ!」
「ハンターにはないよね?」
「ハンターのときは消している。……返せ。目立つ」
彼は帽子を奪い取りかぶり直す。
「……話を戻すぞ。ハンターへの変身は、俺の力じゃない」
「え?」
「姫様の力だ」
三人はぽかんと口を開ける。
「原理的にはお前たちの変身と同じだ」
「……え?」
「女神の化身の娘だからな」
「セレストリアさん、すごいんだね!」
「姫様は責任感が強く、部下や民を思い行動されるご立派な将軍だ。……だからこそ、その背中を少しでも支えられたら、と」
「ナイトはお姉ちゃんのこと、好きだもんね」
「なっ……」
ナイトは息を呑む。頬が真っ赤だ。彼は慌てて「ち、ちがう!」と反論した。フィーネはニヤニヤと笑う。
「お姉ちゃんのこと、嫌いだった?」
「そんなわけない! 姫様はかっこよくて、お可愛らしくて、その……」
「初恋の人?」
「そう! それだ! ……あ」
千里や恵の顔がにやにやとしたものに変わる。
「へえ、初恋なんだ」
「顔が真っ赤だよ」
最悪だ。最悪だ。彼は思わずその場に蹲る。
「ごめんごめん、からかいすぎちゃったね」
千里が柔らかく笑う。
「お詫びといったら何だけど、ちゃんと手伝うから」
「……二言はないな?」
「ないない」
魔法少女たちは楽しそうに笑う。ナイトは長く息を吐いた。
「……みっちり付き合ってもらうからな」
そう吐き捨てれば、三人は笑った。
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