第11話 マグカップ
千里、恵、フィーネ、ナイトが訪れた雑貨屋は、確かに動物モチーフの商品が多かった。
「ねえねえ、これはどう?」
千里はそう言ってうさぎのぬいぐるみを手に取る。ナイトは視線を向けた。
「ぬいぐるみか」
「前かがみ防止用のクッション、だって」
「……確かに可愛らしいが。でもだめだ」
「え、なんで?」
「俺のかわりにされる」
彼がそう言うと、二人は目を丸くした。
「かわり?」
「どういうこと?」
「……狼の姿は、あれに近い」
ナイトはデフォルメされた狼っぽいぬいぐるみを指さす。それを見た千里は呟いた。
「……イメージと違う」
「諜報にはうってつけの体だ。悪いか」
「うってつけ?」
「小さい分見つかりにくい。姫様は『諜報に向いているな』と言って、落ちこぼれだった俺を見いだしてくれた」
「落ちこぼれ?」
千里が目を丸くした。……知らないのも無理はないか、とナイトは続ける。
「影狼族は本来、巨大な狼の姿になれる。……だが俺は、何度練習しても、子狼と言って差し支えない姿にしかなれなかった」
彼は思い出す。親兄弟にすら「できそこない」と言われた日々を。
「……影狼族は本来、主を守る一族だ。……でも、俺は戦えば誰よりも弱かった」
「私たち、ハンターにかなり苦戦したんだけど?」
「姫様のお力添えがあったからだ。俺一人なら、お前たちに敵わない」
ナイトは自嘲気味に笑う。すると、「そんなことないよ」という言葉が返ってきた。
「私たちだってミューズから力を借りて戦ってる。けど、魔法は自分で練習しないと使えない」
「そもそも、影に潜るのはナイトの魔法でしょ」
「……褒めても何も出ないぞ」
彼は視線をそらして吐き捨てる。
「……とにかく。姫様は居場所がなかった俺を見いだし、重用してくださった。……だから、何があっても姫様についていく。そう、決めているんだ」
「……すごいね」
千里はしみじみと呟く。
「そうか?」
「うん」
「……そうか」
彼はいたたまれなくなったのか、紅茶の缶を手に取って眺めるふりをした。それを見て恵が口を挟む。
「紅茶? 確かにパッケージかわいいね」
「……姫様はコーヒー派だ。それに、飲めばなくなるものより残るほうがいい」
「確かに」
彼は紅茶の缶を戻しつつ、商品を眺める。そして、「姫様は執務が多いからな」と文房具コーナーへ向かった。その時だった。
「……死神の鎌ペーパーナイフ?」
ナイトは思わずそれを手に取ってしまう。
「……このボロボロ感、いいな……」
その言葉を聞いて、魔法少女たちが振り返った。
「セレストリアさんの趣味ってそんな感じなの?」
「……多分、ナイトの趣味だと思う」
「意外……」
彼の耳に三人のひそひそ声が聞こえてくる。……ペーパーナイフなら増やしても……、と考えたところで、ナイトは小さく首を振った。
「……お前たちは勉強で机に向かっているな。勉強中、あると便利な物は何だ?」
「ペン立て」
「マーカーペンかな」
「付箋とか」
「……聞き方が悪かった。文房具以外で頼む」
彼がそう言うと三人は考え始める。
「冬はひざ掛け使うけど……今は売ってないし」
「確かにな」
「……マグカップ? 蓋付きだとうれしいかも」
「マグカップか……。なるほどな」
ナイトはそう言いながら食器コーナーへ向かう。
「あ、これ可愛い」
「どれだ?」
「これこれ」
千里が手に取ったのは、動物のいる森が描かれたマグカップだった。
「お姉ちゃん、好きそう」
「いいね。……あ、軽い」
「……蓋付きのほうがいいんだろう?」
「蓋、別売りであるよ」
恵がシリコンでできた蓋を指さす。取っ手が狼になっているものもあった。それを見たフィーネが口を開く。
「あ、ちょっとナイトに似てる」
「……そう、だな」
彼は狼の取っ手をじっと見つめる。少しだけ考えてから頷いた。
「……この程度であれば、許容範囲だ」
「そこ大事なんだ……」
呆れたように笑う恵を無視して、ナイトはマグカップと蓋をレジに持っていった。
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