第12話 借りは返した
ナイトは魔法少女たちとしばし街を歩く。
「いいの買えたね」
「そうだね」
「お姉ちゃん、きっと喜んでくれるよ」
「……だといいが」
そんなことを話していれば、彼らの耳に爆発音が響く。視線を向ければ、三幹部たちが巨大な山車で大道芸をやっていた。
「キラキラジュエルをちょうだいよぉ」
「ここにあるのは分かってるんだぞ!」
「渡さないと、大変なことになりますよ!」
シルクがノヴァごと大玉を空へと投げる。ノヴァは大玉のうえでバランスを取る。最大まで打ち上がったタイミングで宙返りをして玉から降りた。直後に大玉は花火となる。爆風で街の看板が揺れた。
空中に投げ出されたノヴァは、アルルが空中ブランコでキャッチする。
街ゆく人々は「力持ちだなぁ」「今の宙返り、すごくね?」「大道芸?」と口々にざわめく。「危ない危ない!」と距離を取った男性も、見事な空中ブランコに思わず拍手してしまう。
ナイトは「……相変わらず、目立つな」と呟いた。そんな彼に気づかず、アルルは口を開く。
「あ、リーダぁ。あの看板の宝石、キラキラジュエルじゃなぁい?」
「え? ……間違いないですね!」
「ほんとだ! いただくぞ!」
ナイトは看板に視線を向けた。……確かにキラキラジュエルが嵌っている。
「そうはさせない!」
変身した魔法少女たちが飛び出す。
「写真撮れ、写真!」
「ヒーロー登場だ!」
「かっこいい!」
「かわいいなぁ」
「どこのイベント?」
「がんばれー!」
街ゆく人々が歓声を上げた。ショーだと思われているのだろう。
「魔法少女、来ましたね! 今日こそあなたたちを倒します!」
「今日のために用意した最終兵器、受けてみなさぁい。ノヴァ、おねがいねぇ」
「うん! 絶対倒しちゃうビーム、発射!」
山車が口を開けてビームを放つ。魔法少女たちは飛び上がってビームを避ける。三人の視線はまだ山車に向いていた。
「引っかかったわねぇ。その山車は囮よぉ」
アルルが空中ブランコから離脱する。次の瞬間には圧縮された光魔法のビームが、彼女たちへと向かった。対応が間に合わない。
「……借りがあるからな」
ナイトは影へ潜り、ビルの壁へと移る。壁の影から腕を伸ばし、三人をつかんで一気に引き寄せた。
光のビームが、さっきまで三人のいた場所を貫いた。
「え?」
「今のって……」
「借りは返した」
彼はそう言い残し、再び影へと沈む。
「あ、待って!」
「ナイト、ありがとう」
「随分と律儀ね。でも、ありがとう」
魔法少女たちの笑い声が背中に届いたが、ナイトは振り返ることはなかった。
◇
彼が帝国に帰還すると、セレストリアは執務をしていた。ナイトが影から現れると、彼女は顔を上げる。
「戻ったか」
「ただいま戻りました」
「おかえり。……買い物か」
「はい」
ナイトは袋を見つめ、小さく息を吐いた。そして、包みを差し出す。
「……姫様。これを」
「どうした?」
「お誕生日、近かったでしょう」
「……もうそんな時期か。……忘れていたな」
セレストリアは小さく息を吐いた。ナイトは苦笑いをする。
「……ご自愛してください。心配します」
「……すまなかったな。……開けてもいいか」
「どうぞ」
彼女は丁寧に包みを開ける。マグカップを見て、少し口角を上げた。
「気に入っていただけましたか」
「ああ。……そうだな。ナイト、手隙ならこれにコーヒーを淹れてくれないか?」
「かしこまりました」
彼はマグカップを受け取り、給湯室へ向かう。部屋を出る直前だった。
「……こういうことをされては、手放すのが惜しくなるな。……だが」
ナイトの耳に、セレストリアの小さな呟きが聞こえた。
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