第13話 俺の姫様は、姫様だけです
「……すみません、ボス。……キラキラジュエル回収は、できませんでした」
帝国に帰還した三幹部は、肩を落としながらセレストリアに報告する。
「でもでも、拍手はいっぱいもらったよ!」
「……ノヴァ、ボスが欲しいのはぁ、キラキラジュエルよぉ?」
「……負傷や損害は?」
「この通りピンピンしてます!」
シルクが両手を広げる。セレストリアは「そうか」と呟いて立ち上がった。
「お前たちに通達する」
「通達、ですか?」
「なになに?」
「なぁに?」
三人は背筋を伸ばして彼女を見る。セレストリアは厳しい顔を作って言った。
「ここで解雇されるか、自ら帝国を去るか選べ。……自ら去るなら、退職金くらいは持たせよう」
「え、そんなぁ」
「なんで?」
「ボス、オレたち、まだやれます」
「却下だ。選択肢は変わらない」
彼女は三幹部を睨みつける。彼らはセレストリアをじっと見て、そして笑った。
「……ボス、そんな顔をしても全然怖くないですよ」
「そうよぉ。ボスが本当はぁ、とぉっても優しいこと、あたし知ってるんだからぁ」
「うん。ボスは優しくて、強くて、かっこいいや」
「だから、理由を聞かせてほしいです」
三幹部は笑っている。「……隠し切るのは無理だったか」と、セレストリアは小さくため息をついた。
「……もう庇えない。次に登るのはステージではなく、断頭台になる」
三人は目をぱちくりとさせる。しばらく後、ノヴァが嫌だ……と震えだした。シルクやアルルの顔も真っ青だ。
「そうなる前に、ここを去れ。……今夜、幻想旅団が帝国を出発する」
「幻想旅団って、サーカスの?」
「有名なところだよね?」
「ああ。彼らに同行する形で亡命しろ。出国後はお前たちの自由だ。……ちなみに、団長はお前たち自身に興味を持っている。一度話をしてみたらどうだ」
「紹介してくれたんですか?」
「……話題に出しただけだ」
セレストリアはふい、とそっぽを向く。
「……分かったなら、荷物をまとめろ。置いていかれるぞ」
「あの!」
シルクが声を張り上げた。
「……何か質問か?」
「オレたち、絶対劇場を開きます! だから、必ず見に来てください!」
「……考えておく」
「絶対ですよ! 特別席、用意しとくんで!」
セレストリアは何も言わず、笑う三人に背を向けた。
「……ナイト」
「お呼びでしょうか」
彼女は誰もいなくなった室内で彼を呼ぶ。 影から現れたナイトは、いつもと変わらずセレストリアの前に跪いた。
「命令だ」
「はい」
「お前はこれより、フィーネにつけ」
彼は何も答えない。セレストリアがもう一度口を開こうとしたときだった。
「申し訳ございません。承諾できかねます」
「何だと」
彼女は思わず聞き返した。ナイトがセレストリアの命令を拒むなど、一度たりともなかった。
「俺の姫様は、姫様だけです」
彼はまっすぐセレストリアを見つめる。五年前、初めて会ったときと変わらない目で。
(……嫌われるしかない、か)
そう考えた彼女は、厳しい表情を作って口を開く。
「お前はもう、私には必要ない」
最後の一音だけがわずかに掠れていた。彼女はナイトの顔が見れなかった。ごまかすように背を向けた、その瞬間、静寂を切り裂く声がした。
「でしたら、俺の首をはねてください」
「……何?」
彼女は思わず振り返る。ナイトは頭を垂れていた。
「俺は姫様のそばを離れるつもりはございませんので」
「……忠義もここまでいくと愚かだな」
彼女は吐き捨てる。頼む、見限ってくれ。どうか、お前だけでも生き残ってくれ。そう考えてもナイトの目は揺らがない。
「愚か者でも構いません。この命、いかようにもお使いください」
彼女は黙り込む。
……ここで突き放さなければならない。分かっている。分かっているのに。
……心の何処かで、セレストリアは安堵する。
「……好きにしろ」
彼女はそう答えるので、精一杯だった。
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