第14話 知らぬふり
セレストリアがいつも通り執務を片付けていると、スマホがけたたましく鳴り響く。着信はフィーネからだ。胸騒ぎを覚えた彼女はすぐさま電話を取った。
「お姉ちゃん」
「どうした」
「ハンターが出た」
セレストリアは動きを止める。ナイトは今日、ずっと彼女のそばにいた。ついに現れたか、と独りごちる。
「……何を狙っていた」
「ミューズ。……連れて行かれちゃった。返してほしければ、帝国に来い、って」
「……そうか」
「だからね、みんなでそっちに行く」
「……私は敵だぞ。作戦を明かしてどうする」
彼女は呆れたように笑い、長く息を吐いた。
「……私にも立場がある。今回ばかりは助けられない」
「分かってる」
「切るぞ」
セレストリアはそう言ってスマホを置く。あえて通話は切らない。
「……魔法少女の襲撃か。お父様の警護を増やさなければ。……第三棟の騎士をこちらへ回すか。秘密の出入り口の警備は……いや、あそこは皇族しか知らない。問題ないだろう」
一拍置いて、彼女は通話を切った。そのまま傍らにいたナイトに声をかける。
「ナイト。聞いていたな」
「はい。ミューズを探してまいります」
「ああ。早くしろ」
「かしこまりました」
ふ、っと影が消える。セレストリアは机の上へ視線を落とし、小さく息をついた。
「……お菓子のストックも確認しておこう」
彼女はそう呟いて椅子から立った。
一時間もしないうちにナイトが戻ってきた。「どうだった」と聞けば、彼は口を開く。
「姫様。ミューズは城の地下牢につながれております」
「そうか」
「ダクトをいくつか開けておきました。潜入は容易かと」
「牢の鍵は?」
「……申し訳ございません。うっかり壊してしまいました」
「お前はおっちょこちょいだな」
「以後気をつけます」
セレストリアは思わず含み笑いをした。その時だった。ダクトがガラリと音を立てる。二人は思わずそちらへと視線を向けた。
「何だ?」
「えっと、わんわん」
「じゃ、じゃあ、にゃーん」
「マリスも早く!」
「さすがに無理があるでしょ」
「いいから!」
続いて聞こえてきたのは魔法少女たちの声。彼女の肩から力が抜ける。
「……犬と猫と……。最後のは何だ?」
「……何かしらの動物ですね」
セレストリアは喉の奥で笑いをこぼす。ナイトも口角を上げた。その後彼女は地下牢の場所を示した警備配置図を机に置き、わざと音を立てて立ち上がった。
「……ナイト、休憩にしよう。30分は執務室にもいたくない」
ナイトは無言で鍵束を机へ置く。
「……姫様、申し訳ございません。城の鍵をなくしてしまいました」
「そうか。まあ、いつか見つかるだろう」
「そうですね」
「……休憩が終わったら、みっちり執務だな。仮眠室に誰かいても、気付かないくらいには」
「姫様、お菓子のストックは十分ございます」
「……誰かが食べていても、私は気付かない自信があるな」
セレストリアとナイトは何事もなかったように部屋を出た。扉を閉めた瞬間、小さな着地音がした。だが、二人はそちらに一切視線を向けなかった。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。




