第3話 将軍の休日はない
魔法少女たちの力を測るため、セレストリアは執務の合間を縫ってキラキラジュエル回収に赴いた。
「フロス・アエテルヌス!」
「オケアヌス・セルヌス」
「インベル・ステラルム!」
花吹雪が、青い波が、流れ星が襲いかかってくる。彼女は防御魔法を展開して攻撃を防ぎながら、心の中で呟いた。
(筋がいいな)
フローラとマリスの両名は、本来魔法のないこの国、日本で生まれ育った。成長速度には目を見張るものがある。
「サンクティ・ルミナ」
セレストリアは剣を掲げて魔法を放つ。空から光芒がいくつも振り注ぐ。少女たちの防御魔法は間に合わず、直撃を受けた彼女たちはそのまま地面に倒れ伏す。だが、その目は闘志を失っていなかった。
「……いい顔をしているな」
この分であれば、暴走する帝国を止める抑止力となるだろう。
そう考えた彼女は小さく頷く。
「キラキラジュエルはもらっていく」
セレストリアはそう告げると踵を返す。
「……期待しているぞ」
小さく呟いた言葉は、風に乗って溶けていった。
◇
「ボス! お帰りですか!」
セレストリアが執務室に戻ると、ポンポンと爆発するジャグリングに出迎えられた。一人は球の上で片手倒立を披露し、もう一人はしなやかに踊る。残る一人はジャグリングを続けていた。
キラキラジュエル回収の任を受けている三幹部、シルク、ノヴァ、アルルの三人だった。
「今戻った」
「おかえりなさい!」
空に舞い上がったボールが花火へと変わる。彼女はわずかに眉を上げた。
「ボス、キラキラジュエル回収できたのですか?」
「ああ、このとおりだ」
「やっぱ、ボスってすっげえや!」
「ねえねえ、ボスぅ。次はアタシたちに行かせてよぉ」
ノヴァは玉からアクロバティックに着地し、アルルは柔らかくしなやかな身体を生かしてポーズをとる。
(……近々狙うのは山間部のキラキラジュエル反応だ。ちょうど市街地にも微弱な反応がある。陽動を任せるか)
しばし考え込んだセレストリアは、ややあって口を開いた。
「……そうだな。次はお前たちに任せる」
「やったぁ。今度こそジュエルを回収してきますからねぇ」
「……目的を忘れるな」
彼女がそう呟くと、彼らはキョトンとした顔になる。
「目的?」
「ああ。お前たちの、目的だ」
三人の目に強い光が宿る。
「……劇場を」
「自分たちの劇場を作ります!」
「そこでいっぱい芸をして、みんなに笑ってもらうのぉ」
「そうだ。帝国に飲まれるな」
「はい!」
三人は笑顔で見様見真似の敬礼をする。セレストリアは「作戦は追って伝える。……期待しているぞ」と呟いた。
◇
三幹部の退勤から数時間。ようやくセレストリアの仕事が終わった。肩をもんでいると「姫様」と声をかけられる。彼女は振り返る。視線の先にいたのはナイトだった。
「今戻ったか」
「はい」
「首尾は?」
「……キラキラジュエルが光の女神の化身に由来するもの、と」
「……悪魔については」
ナイトは首を横に振る。
「そうか」
「申し訳ございません」
「気にするな」
ふっと笑いをこぼす。ナイトは「話が変わるのですが」と続けた。
「姫様はルクシアという化身をご存じですか?」
「初めて聞く名だな」
「さようでございますか。……調査中、浮かび上がってきた名前なのですが。……西の遺跡に関係がある、と」
彼女は顎に手を当てる。
「キラキラジュエルの正体、つかめるかもしれないな。予定を調整しよう」
「行かれるのですか?」
「ああ。ついてきてくれないか?」
「かしこまりました」
「……助かる」
セレストリアはぐっと伸びをする。
(……今日は特に疲れたな。こういうときは……)
「ナイト。狼になってくれないか」
「……かしこまりました」
ナイトは少し照れたように目を伏せると、可愛らしい子狼へと変わる。彼女は彼を抱き上げて、お腹へ顔を埋めた。
「……姫様」
「どうした」
「くすぐったいです」
「……不快か」
「……そういうわけでは……」
ナイトの耳が下がる。セレストリアはしばらくその温もりに頬を埋めていた。




