第24話 お母様
体力の消耗か、あるいは器にされた影響か、セレストリアは深く眠り続けた。
ナイトは彼女から片時も離れず、身の回りの世話を続けていた。
「……ナイト、お姉ちゃんの様子、どう?」
フィーネが声をかける。
「……よく、眠っていらっしゃいます」
ナイトの答えに、フィーネ、千里、恵は黙り込む。……沈黙を破ったのは、千里だった。
「……全然、眠れてなかったんでしょ? きっと、いっぱい寝たら起きるよ」
「……そうだな。……ずっと張り詰めていらっしゃったから、今はゆっくり休む時か」
ナイトは視線を下げる。……穏やかな寝顔であることだけが、救いだった。
◇
光も影もない、ただ白い空間の中。セレストリアはただ一人佇んでいた。今が昼なのか夜なのか分からない。時間の感覚すらあやふやだ。
「……ここは……?」
彼女はあたりを見回す。だが、何もない。
「……あたりを歩いてみるか」
セレストリアは静かに足を踏み出す。目に映るのは白ばかり。地面の感触もはっきりしない。
何分か、何日か、何年か分からないほど歩き続けた。その時だった。
「……なんだ?」
白い空間に、水面のような楕円が揺らめいた。映っていたのは帝都だった。……誰もいない。街行く人も、市場の売り買いの声も、何も。ただ風だけが吹いていた。煉瓦の壁から欠片が一粒こぼれ落ちる。
「……民は……どこに行った……?」
セレストリアは手を伸ばす。だが、楕円は揺らめくばかりだった。
静寂が満ちる。次の瞬間だった。
人々の悲鳴が聞こえる。振り返ると、別の楕円が浮かんでいた。映るのは日本。人々は悲鳴を上げながら逃げ惑う。その中心にいたのは。
「……私……?」
白いドレスも、金色の髪も、今の自分とは似ても似つかない。だが、あの顔も、あの声も、あれは紛れもなく自分の体だった。
セレストリアは息を飲む。次の瞬間、景色が変わる。彼女は墓場に立っていた。
いくつもの墓石が立ち並ぶ。目の前には、ひときわ立派な墓標があった。皇族の紋章が刻まれている。
「……まさか」
セレストリアは震える手を伸ばす。刻まれている名は……皇帝のものだった。
「……そうか」
彼女は重い息を吐く。
「……帝国も……民も……お父様も。……私は、何も守れなかったのか……」
セレストリアの膝から力が抜ける。彼女は空を見上げた。……雨が、しとしとと降っていた。
「……過去に囚われ、現実から目を背けた。……その報いが、これか。……私は……将軍としても、皇女としても、失格だ……」
セレストリアの口から笑いが溢れた。その時だった。
「セレストリア」
凛とした声が響く。彼女はそちらに視線を向けた。輝く金の髪、慈愛をたたえた青い瞳、だが顔立ちはどこかセレストリアに似ている——そんな女性が立っていた。
「……おかあさま」
雨はいつの間にか止み、雲間から光が差していた。
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