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第23話 帰ろっか

「フロス・アエテルヌス!」

「オケアヌス・セルヌス」

「インベル・ステラルム!」


 魔法少女たちの放つ大輪の花が、青い波が、輝く星がルクシアに襲いかかる。


「……かかったな」


 ルクシアの意識が三人へ向いた、その一瞬。漆黒の影が足元から跳ね上がる。死角から放たれたナイトの一撃が、ルクシアの脇腹を正確に貫いた。

 ついに彼女は膝をつく。


「……くっ……。矮小な雑魚どもめ……」

「今だ。決めろ」

「うん!」


 フローラはしっかりと頷く。マリスは柔らかく、フィーネは強い光を宿した瞳で頷いた。ステッキを構える。


「大地を彩る花よ!」

「命をたたえる海よ!」

「空を照らす星よ!」

「裁きとなりて降り注げ! サンクティ・ルミナ・トリニティ!」


 魔法少女の声が重なる。ルクシアは防御魔法を張ろうとするが、震える手ではうまくいかない。


「……小癪な」


 花を、波を、星をまとった光芒が彼女に襲いかかる。ルクシアは吹き飛ばされた。次の瞬間。

 光の粒が四散する。金色だった髪は夜を思わせる黒へ、黄金の瞳は紅玉のような赤へ戻っていく。


「姫様!」

「お姉ちゃん!」


 ナイトとステラが呼びかける。戻った——そう思った瞬間だった。

 四散したはずの光が、意思を持つように再びセレストリアへ絡みつく。彼女は一瞬顔をゆがめ、そして叫んだ。


「フィーネ! 私ごと吹きとばせ!」

「でも」

「やれ!」


 叫び声が響く。ステラは唇を噛みしめる。


「……ごめん、お姉ちゃん! っ、インベル・ステラルム!」


 空から堕ちる流星が、光の粒をまとったセレストリアへ降り注ぐ。光の粒はぼたぼたとこぼれ落ち、セレストリアの身体から離れていく。ゆらりと彼女の身体が傾いた。


「姫様!」


 ナイトは駆け出す。彼女を包み込める長身の体躯はもうない。それでも。自身の身体を滑り込ませ、セレストリアを受け止めた。


「……ご無事ですか」


 セレストリアは何も答えない。赤い瞳は閉じられていた。


「……姫様……?」


 ナイトの腕が一瞬こわばる。だが、穏やかな寝息が彼の耳をくすぐった。肩から力が抜ける。


「……帰ろっか」

「……そう、だな……」


 ナイトは尻尾を揺らし、セレストリアを何とか抱え上げた。空には星がキラキラと瞬いていた。



◇



 光の粒となったルクシアは、それでもゆらゆらと瞬いていた。


『……おのれ』


 光が震える。そのときだった。こつ、こつと足音が響く。


『……悪魔か』

「ご苦労さまです、ルクシア」

『そこで何をしている。……早く妾を』


 悪魔は口角を上げた。


「いかがでしたか? 私の手のひらで踊る気分は?」

『……は?』

「滑稽でしたよ。私が少し囁いただけで、『光の女神の支配から自由になる』と仰ったあなたは」

『滑稽?』

「ええ。その願いも、その怒りも、すべて私が利用させていただきました」


 ルクシアは何も答えなかった。悪魔の影がゆっくりとルクシアへ伸びる。


『……妾は……。……妾の……自由は……』


 光が弱まる。悪魔は大口を開け、ぱくりと粒をのみ込んだ。

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