第19話 折れた牙
ナイトは魔法少女たちに連れられてアジトへ向かう。ソファに降ろされても、彼は子狼の姿で俯いていた。
「何があったのか、聞いてもいいかな?」
千里が彼の顔を覗き込む。彼は一瞬、喉を詰まらせたように黙り込んだ。一呼吸の後、拳を振るわせながらなんとか口を開いた。
「……俺にも分からない。……分かるのは、あいつから姫様の匂いがしたこと、あいつはルクシアと名乗っていたことだけだ。……それが本当なら、あいつは光の女神の化身の一柱、ということになる」
「……ミューズと同じ?」
「ああ。……光の女神の化身は、性格も性質も様々だ」
「……ルクシア、みゅう?」
ミューズが口を開く。全員が一斉に彼女を見た。
「知ってるの?」
「みゅう。数百年前に封印された化身みゅう。……力は一番強かったんだけど、人間は導くものじゃなく支配するものだって考えてたみゅう。それで当時の勇者に封印されたんだみゅう」
「……そうか。……姫様が、そんな奴に……」
ナイトの声が震える。フィーネは彼を覗き込み、「何があったの?」と首を傾げた。
「……悪魔は、姫様は上書きされた、と……」
「上書き?」
「……ああ。やっと消えたか、と言っていた」
「……お姉ちゃん、もう戻ってこれないの……?」
フィーネは息を呑む。彼は小さく「わからない」とこぼした。
「……姫様は、ルクシアに飲まれながらも、俺に『逃げろ』と。……その直後に、あいつは『やっと消えたか』と笑った」
部屋の中に沈黙が落ちる。
「……ルクシアは、世界を壊す、って言ったんだよね?」
「……ああ」
千里の言葉に、ナイトが頷く。
「……だったら、止めないと」
彼女は目に光を宿して言った。恵は苦笑して口を開く。
「全く、しょうがないんだから。千里一人で頑張る必要はないよ」
「うん。……お姉ちゃんにひどいことさせたくないし、できれば助けたいから」
恵やフィーネもその言葉に頷く。だが、ナイトは乾いた笑いをこぼした。
「……お前たちは、強いな……」
「ナイトも、一緒に来てくれる?」
フィーネが彼の顔を覗き込む。だが、ナイトは俯いたままだった。
「……俺は……」
その小さな肩は、震えていた。
「……俺には……無理だ……」
ルクシアに手も足も出なかった上、変身能力まで失った。
「……俺にはもう、何も……できない」
三人は何かを言いかけた。けれど、誰も言葉を見つけられなかった。ややあって「……ナイト。今日はゆっくり休んで。この部屋、使ってていいから」と微笑んだ。
……彼は小さく頷くことしかしなかった。
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