第18話 砕けたブローチ
「……妾に楯突くというのか。面白い」
ルクシアはにやりと笑う。次の瞬間、彼女は怪訝な顔をした。
「……どこに行った」
「ここだ」
ナイトはルクシアが振り返るより早く暗器を首筋に叩き込む。金属が硬いものを打つような音が響いた。
「……ほう。影に潜る魔法か。犬は物陰に隠れるのが得意じゃからのう」
彼女はナイトの腹に光弾を叩き込む。衝撃が走る。
彼は一瞬だけ苦悶の表情を浮かべたものの、咄嗟に影に潜り、体勢を整えようとした。だが。
「サンクティ・ルミナ」
「……っな」
いくつもの光芒が影ごとナイトを貫く。彼は影から弾き出された。その衝撃で変身が解けた。
「妾の光の前で、影など無力じゃ」
ブローチが床に転がった。
「……姫……様……」
せめて、これだけでも。そう考えた彼はもがきながらもブローチに手を伸ばす。その手が届く直前だった。
「ふん」
ルクシアは靴でブローチを踏み抜いた。バリン、とあまりに軽い音がして、ブローチが砕け散る。
「喜べ。妾が直々に、主のもとへ送ってやろう」
彼女は手を掲げる。その時だった。ルクシアの体が、突如として震え出した。
「……おのれ、この期に及んで邪魔をするか……」
彼女は顔を歪め、頭を抱えて悶える。黄金の瞳が揺らぎ、一瞬だけ赤く染まった。
「……逃げ……ろ。……おま……え……だけ……でも……」
ルクシアは忌々しげに呻いた。
「小癪な!」
彼女の体が光り輝く。黄金の瞳から赤い光が一筋こぼれ落ちる。それは涙のように床へ落ち、やがて掻き消えた。
「……っ、姫、様……」
「やっと消えたか」
ルクシアはそう呟き、ゆっくりと手を振り上げる。光が収束していく。その時だった。
「大地を彩る花よ!」
「命をたたえる海よ!」
「空を照らす星よ!」
「裁きとなりて降り注げ! サンクティ・ルミナ・トリニティ!」
色とりどりの花が、キラキラと輝く波が、こぼれ落ちる星がルクシアに襲いかかる。
「ちっ」
彼女は杖を振った。光の障壁が展開され、花も波も星も轟音とともに霧散した。ぱたぱたと軽い足音が聞こえる。
「ナイト、大丈夫?」
「姫……様が……、っ、姫様……が……」
ナイトの声は震えている。三人は一斉にルクシアを見た。
「増えたか。じゃが増えたところで雑魚は雑魚じゃ。まとめて塵にして……と言いたいところじゃが。……今は器を馴染ませねばならぬ。遊びはまた今度じゃ」
彼女はそう言って杖を振る。現れた白い扉の先へと消えた。マリスが口を開く。
「……帰ろう」
「ナイト、立てる?」
彼は首を横に振る。見かねたステラが「……運ぶから、その……狼への変身だけ、お願いしていいかな」と笑った。




