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俺の黒小説が聖典になってた  作者: ぽんた7
Episode3 偽りの偉人
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ルスト

 集落ルストに到着した。


 入り口から集落の規模は分からないが、建物や道路の様子は、聖都アマナと全く同じ。過去文明の規格品なんだろうな。集落の奥のほうには神殿らしき大きな建物も見えるが、アマナの神殿に比べるとかなり小さい。リーネによれば人口はアマナの十分の一程度らしい。


 俺は今は歩かずに馬車に乗っている。危険は少ないと認識されているとは言え鱗猫は灰域の生き物だから、無用な混乱を起こさないためにも最初は姿を隠しておいたほうがいいだろう、というリーネの判断だ。ポリカーボネートのような質感の透明板で出来た窓から目だけ出して周囲を見物する。

 道路を進んでいくと、広場に出た。屋台のようなものが並んでいる。ここが市場なんだろう。市場の周りには屋台以外に常設の商店もあるようだ。


 ただ、市場にしては静かだ。人通りはある。売り買いの会話もある。だがその声は淡々として事務連絡のようで活気がない。聖都だって大概の人は無表情だったが、ここも同じくらい能面。その下に何も見えない。


「炉の機能がだいぶ落ちているようですね」


 リーネがつぶやく。その言葉にティアが身をすくめ左手首を押さえた。何か動揺しているようだが、なんだろう。


「まずは神殿に向かいます」


 馬車はそのまま集落の奥にある神殿を目指した。


---


 神殿は申し訳程度ではあるが塀で囲まれていた。門から入り神殿入り口で馬車を停める。建物の中から、白くて長い式服? のようなものを来た人たちが数人でてきた。神官だとか。神殿の一般的な構成員でアマナでも大多数を占めているそうだ。へえ、アマナでは長老としか話さなかったけど、そう言えばそんな人たちもいたっけか。


 リーネとティアが馬車から降りる。神官の代表っぽい一人が恭しく礼をする。


「おお、巫女様。ようこそお越しを」


「私たちはアマナから偉人様の巡礼として参りました。地殻炉を見せて頂きたく思います」


 リーネは馬車の中に隠れていた俺に手招きする。


「こちらが、アマナに降臨された偉人様です。今は鱗猫の体を借りています」


 俺は馬車から出てリーネの横に並んで座った。


「リーネ様、偉人とは『蒼炎の書』に述べられているお方の事でしょうか。鱗猫に降臨された、と?」


「そうです。正確には私に降臨なされた後、うつし身の儀式で鱗猫の体に移動されています。ですので会話ができるのは残念ながら私一人となります」


 にわかには信じ難い内容のようだ。しかし神殿の序列は、長老>巫女>神官らしいので異を唱える者はいなかった。


「わかりました。それでは炉にご案内いたします。どうぞこちらへ」


---


 案内された地殻炉の規模自体は、アマナのものとそんなに変わらなかった。円筒形の筐体にクリスタルな机。だが明らかに光が弱い。動作音も小さい気がする。


「ここまで弱ってるとは……」リーネも仄かな驚きを隠せない。感情を表出しない彼女がこんな顔を見せるというのは余程なのだろう。


「町中も拝見させてください。馬車で通っただけですので、実際に歩いて検分してみたいです」


 代表さんが前に出る。


「わかりました。ご案内いたします」


 神殿から出て町を歩いて行く。見た目は神殿付近とそんなに変わらないが、規格化された建物にある動力の通じている光が弱い。外苑に行くほど弱まっている。比例して道行く人も少なくなっているようだ。


「集落の外縁部から、徐々に炉の力の供給が減少し培養装置が止まりつつあります。今のペースですとあと数年で飢える人間が出始めるでしょう」


 ちょ。何を人ごとみたいに言ってるんだこいつ。


『リーネ、こいつらに対策してるのか聞いてくれ』


「神官殿、偉人様が何か対策を講じているのかお聞きです」


 神官はしかし、きょとんとした表情を浮かべる。


「対策、ですか? 地殻炉が弱っている事についてでしょうか? それでしたら特に何もしていません」


『なんでだよ、死人が出るかもしれないんだろ?』


「偉人様は、死者が出そうなのに何故なにもしないのか問うておられます」


 神官の表情に困惑が混ざる。


「はて、地殻炉が弱るのは炉の意思でございましょう。我々はそれを受け入れるのみでございます」


 信じられねえ。黙って滅びるのを受け入れる?古代文明人、いったい何をしたんだ。


---


 集落の外縁をリーネとティアとリンでぶらぶら歩いていると、数人の子供が近寄ってきた。5~6才くらいかな?


「巫女様、これって鱗猫?」


 リーネは優しく答える。


「はい、そうですよ。でも中身は偉人様なので敬意を持って接してくださいね」


「? 偉人様ってなーに?」


「聖典に書かれた、聖なるお言葉を伝える偉大なお方ですよ」


「ふーん?」


 まあ分からなくて当然、ちびっ子だもんな。むしろ気が楽。どうすれば別人だってリーネに理解してもらえるのやら。


「触っていーい?」


『いいぞ、って伝えてくれ』リーネに念じる。


「はい、良いそうですよ。丁寧にね」


「はーい」


 子供たちが猫の頭をなでる。リンもまんざらではなさそうだ。俺は小っ恥ずかしいが。

 だんだん子供たちは調子に乗ってくる。顎や背中も触りだした。まだ許容範囲ではあるが、リンに体の制御を奪われる。


 ゴロン。


 リンが腹を見せてひっくり返った。おおい、おま、なにそれ。キミ一応野生動物ちゃうの?


「わー。おなか柔らかーい!」


 みんなに腹をわしわしなでられてしまう。ひー、何かに目覚めてしまいそうだ。


 ……ちょっとそこのリーネさん? その前に出した手は何ですか? もしやお腹わしわしに加わろうとしていませんか? さすがに止めてくださいよ? 色々ないろいろがタダじゃ済みません。


「やっぱりケダモノ」


 安定のティアさんが少しありがたく思える今日このごろ。


 でも、子供たちには大人と違ってある程度感情がある。育つにつれて感情を失うのだろうか。だとしたらどういうメカニズムなんだろう。ティアは12才で感情表出を指摘されてるってことは、通常はそれまでには失うもの、ってことだ。幼児に必要で大人に不要なもの?



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