猫
だんだんと鱗猫の意識が表に出てくる事が増えたが、乗っ取られる事は減っていた。というか猫の衝動が理解できるようになってきて、自分がやりたい事と猫がやりたい事がシンクロし始めている感じだ。俺、このまま心まで猫になっちまうんだろうか。
鱗猫の心は、猫独特の衝動こそあるものの基本的に常に冷静だ。これは不思議な事だった。精神に異物が入ってきたんだ、普通なら排除しようと思いそうなもんだ。俺なら絶対そう。気が狂う。
しかし彼女(以前も言ったがこいつは雌だ)は俺を受け入れるとまではいかなくても同居自体は認めているように思える。なんなら俺に話しかけようとしている雰囲気もある。俺に猫語は分からないので今のところどうにもなっていないのだけど。
...という話をリーネにしたところ、
「ふむふむ。鱗猫は狩りをする強い動物ですが、同時に大人しくて良く人に懐く、とも聞いています。この子もソーマに興味があるのではないでしょうか」
『確かに敵対する感じは無いんだが。しかし言葉が分からない以上どうしたもんか』
「私は感応術で少しだけこの子の気持ちが分かりますよ。人間に対する好奇心ですね、これは」
『寛大な猫だなあ』
「思うんですが、名前を付けてやって呼びかけてやる、というのはどうでしょう」
名前か。考えた事も無かった。
「この子は女の子ですから、何かそういうのを」
うーん。猫の名前なんてタマとかミケとかしか思い付かんが。あ、なんか心の奥のほうから不満げなオーラが漂ってきたぞ。
『この世界では猫を飼ったりしないのか?』
「飼う、とは?」
おおう。概念すら無いのか。
『えーっと、動物を友達として一緒に生活する? 感じ?』
「はあ、それは聞いた事ないですね。ソーマの世界では普通なんですか、その『飼う』とは」
『まあな。そういう家も多かった』
「それは興味深いですね」
「楽しそう」とは言わないんだな。思いつきもしないのか。
しかし名前か。うーん。うーん。
『そうだ、鱗猫だから音読みで「リン」なんてどうだろう』
「オンヨミ?」
『あー、鱗って漢字があって、あ、漢字っていうのは、ってまあいいや、俺らの世界では鱗の事をリンとも読むんだよ』
語学の授業するのは無理。
「そうなんですね。良い響きだと思いますよ、リン」
「にゃー」
鱗猫、改めリンが一声鳴いた。
「気に入ったそうです」
『それは何より』
そう言えば、小説の中で聖獣の名前って「聖獣リンドヴルム」だったっけ。これも愛称はリンだな。まあ偶然ってことで。偶然だよな?
しっかし、なんだか想像より遙かに賢いなコイツ。是非仲良くやっていきたい所存。ただ普段毛皮の手入れをして貰っているからか、リーネ大好きなんだよねリン。体を使ってもらっても構わないけど、リーネに甘える行動は出来れば謹んで頂けたら幸いです。怖い人がいますので。
ほら、今も怖い人がこちらを見ていますよ。
「何か失礼な事考えてませんでしたか?」
『とんでもございません。なあ、リン』
「にゃー」
「ふんっ」
猫語しか出せないのが辛いです。視線が痛いです。




