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俺の黒小説が聖典になってた  作者: ぽんた7
Episode2 二人と一匹+1
6/15

感情

 聖都を出てから一日。ルストまで半分ほどまで進んだ。ティア様の毒も相変わらずだ。でもなんか慣れてきた。心地よくはないけど。これ以上進んではいけない、と自制するが、自制してる時点でヤバいのかもしれない。困った事に毒子ちゃん見た目はすんげー可愛いんだよな。


 さて、アマナ神殿の地殻炉から離れて影響が減少したせいだろうか、徐々に俺の中に押し込められている猫の自我が表に出てくるようになってきた。もっとも猫なので論理的な思考がある訳ではない。基本は欲望に忠実で、それをもって体を動かそうとする。日向で丸くなりたくなる、虫や鳥を追いかけたくなる、程度ならまだ良いのだが、それがたまに宜しくない状況を生み出す。


 ある日リーネに毛皮の手入れをされていた。慣れてきたとは言え恥ずかしい。勿論ティアは向かいに座っている。じっとりと睨まれている。


「……リーネ様が、獣の世話をするのですか」


「……ソーマは獣ではありません。お世話は当然です」


 ティアの目が少し曇る。お役目と分かっているだけに反論しにくいだろう。


 と、突然体の制御を猫に奪われた。のっそりと立ち上がり、座っているリーネの膝の上に乗って丸くなってしまう。お、おい、それはダメだ、柔らか過ぎる。ティアが叫ぶ。


「ああー! 何してるんですかこの畜生は!」


『違うんだリーネ、これは猫が勝手に』


「分かっておりますよソーマ。ティア、今のはソーマと同居している鱗猫がやった事ですよ。猫とも感応できているので分かります」


「でもダメです! 中身がアレである以上ダメです! ほら、さっさとリーネ様から降りなさい!」


 アレって。


 ティアが鱗猫を追いやる。猫の精神は不満そうだったが、それほど執着はないようですぐに引っ込んだ。デキた奴だ。


「まったく油断も隙もない。リーネ様は私が守ります!」


「ティア。感情」


「……あ。申し訳ありません」


 ? 今のやりとり何? 感情はダメなん?


『リーネ、感情って?』


 リーネはすぐには答えない。ティアをちらっと見て「ソーマが感情について尋ねています。良いですか?」と問う。


「………はい」


 かなり躊躇った後でティアが同意する。なんとなく聞いただけなのに、そんないちいち同意が必要な内容なの?

 リーネが話し始める。


「この世界では、激しい感情は忌むべきものとされています」


 ティアが身を縮める。


「遠い昔、争いが絶えない時代がありました。当時の人たちは、そんな状況に苦慮し、人間から激しい怒りや憎しみの感情を取り除こうとしたのです」


 マジか。そんな事したら確かに争いは無くなるかもしれないが……


「勿論全ての感情ではありません。激しい負の感情、怒り・憎しみ・妬みなどを抑える事が目的でした」


『そんな事して無事で済むのか』


「はい、これは実にうまくいって世界は平和で穏やかなものになりました。実際にもう何千年も問題なく過ごせています。全ての感情を削除した訳ではないので多少の小競り合い程度はありますが、戦争などは全く発生していません」


 気分の悪い話だが、実績が千年以上あると言われると反論しにくいな。


「ティアはそんな中でも例外的に感情が激しく出ている子だったのです。今はない辺境の生まれで能力が高いので聖都の神殿に引き取られましたが、感情の抑制に苦労していました。この世界では激しい感情は悪い事なのです。そのせいでこの子は異端視されていました」


『そんなんで、よく排除されなかったな』


 ティアはうつむいて黙っている。


「排除だなんて。そんな事を我々は考えません。強い感情は悪ではありますが、しかしそれを嫌悪したり怒ったりはしません。そういうもの、として受け入れています。ただ円滑な関係はなかなか難しく。私の元で行儀見習いをしているのはそういう理由です」


 なるほど。問題児ってことか。それを後ろ暗く感じていると。


「ただ...私もティアと接してきて、感情というものがそんなに害悪なのか疑問に思う事もあります。ティアが地殻炉の恩恵を失って滅びた村から逃れてこられたのもその感情のおかげだと思えますし、ティアが感情を表に出すのを特に不快とも思っていません。...まあそんな感想は長老たちにはナイショなんですけどね」


「リーネ様...」


 ティアは顔を上げてリーネを見る。なーるほど。色々腑に落ちた。


『そうか。俺の世界は感情なんて激しくて当然なところだから驚きはしたが、この世界の理屈はわかった。ティアも苦労してるんだな』


 リーネがティアに翻訳する。


「ちょーしに乗ってるんじゃないです。おまえの正体は絶対に突き止めてやりますからね」


 へいへい。でもなんだか嫌いにはなれないんだよなあ、こいつ。



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