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俺の黒小説が聖典になってた  作者: ぽんた7
Episode2 二人と一匹+1
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旅立ち

 最初は、残っている3基の地殻炉のうち、辺境に近い集落の1基を訪ねる事になった。


 残っている炉は、ここ聖都アマナ、交易町カルム、そして集落ルスト。距離的にはルストのほうが少しだけ近いらしい。


『近い順に回るの?』


「はい、トーラ長老からの指示です。まずはルストとカルムの炉を順に見て頂こうと思います。その後で灰域も見て頂いて見識を高めて頂こう、という事のようです」


 ふーん。まあ灰域とやらは気になっていたから異議はない。そのルストまでは聖都からは馬車で2日ほどの距離だそうだ。


---


 出発の日。二人は巫女の服ではなく、似たような意匠だけどフリフリが少ない上衣に長ズボン、という出で立ちで現れた。


 神殿前に準備された小さな、でも少し見た目が豪華な馬車(馬だよなこの動物。なんだかすげー毛深い上にでかいけども)に乗り込んで出発した。なんと御者はリーネだった。この世界の巫女さんって万能だなあ。

 護衛とか要らんの? と聞いてみたのだが、必要ないと言われてしまった。危険な動物は多少はいるけれど、馬車に搭載されたジャマーが灰域の動物を近づけないんだと。凄いけど、んじゃリンは? と聞くと、鱗猫にはジャマーの効きが悪いので大丈夫だと。いやいやいや、それ防げない動物がいるって事じゃん?

 しかし、鱗猫は灰域の生物のほぼ頂点だけど、人間を襲わないそうだ。むしろ良く懐くとか。で他にはジャマーの効かない動物はいない。ふーん。なーんかご都合というか意図的な何かがある気がするなあ。だってリン、普通にネズミとかの肉食ってるし。人間だけ除外ってのは不自然だよな。


『「ほぼ」頂点、って事はマジ頂点がいるって事だよな?』


 リーネに質問してみた。


「はい、数はとても少ないのですが、灰獣というのが最も強い生き物です。四本足ですが鱗猫のように翼はありません。私も近くで見た事は無いのですが、凶暴だと聞いています。でもジャマーは効くので心配はありません」


『ふーん』


 歩き出した馬車の速度は超遅い。人間の早足のほうが早いくらいだが、水や食料を沢山積んでる以上仕方ないのだろう。


 聖都アマナは、異世界ものの小説や漫画のように城壁で囲まれていたりはしない。関所とか検問所とかも無い、ごく普通? の市街だ。人口は1万人程度、日本で例えれば小規模の地方都市、俺の生まれた北海道で例えれば、滝川市とか美唄市とか、そんな規模感だ。小さくは無いが、首都として機能できるほどの人口はない。ひとえに地殻炉があるおかげで維持されている。

 城壁が無いからといって、居住地がだらだら広がっているかと言うとそんな事はない。炉の効力が届かない場所に住むのは相当不便なので、実質は30平方キロ、およそ5キロメートル四方といった程度の広がりしかない。


 以前は一つの炉で広大なエリアを管轄していたらしいが、次第に炉の出力が低下し、自動的に遠方の支援が打ち切られていったそうだ。そうした土地に住んでいた人たちの一部は中心に向かって移住したりもしたが、特に対策もせずその地で滅びを受け入れた村も多かったらしい。

 全く理解できない。何故そんなに簡単に死を受け入れてしまえるのか。連中の感情が異様に薄い事と関係がありそうだが、今のところ分からない。この世界の最も気持ち悪い所だ。


 ティアを見ている限りでは、皆が皆感情を失っている訳でも無さそうだが、どうなってるんだろう。とは言えティア以外に感情豊かそうな人間も知らないのだけど。あの毒ロリだけ特例なんだろうか。


 と言う感じで、割とはっきりしている聖都の境界線を馬車はポクポク出た。建物自体は境界の外でも同じように建っているけど、手入れされていないのが一目瞭然なので市外に出たとすぐに分かる。離れるに従って建築は骨組みと壁だけになっていく。あれだ、超構造体って奴だな。そして同じ材料で作られてるのであろう老朽化しない道路が北に伸びている。雑草すら生えていない。北、というのは太陽が沈む方向から勝手に俺がそう思っているだけなんだが。


 俺は馬車には乗らず横を歩いている。乗って客車にティアと二人っきりになったら罵倒されるのが目に浮かぶ。幼女に罵倒されるのはご褒美、とか言い出すほど俺は達人ではないのだ。リーネには難色を示されたが、「猫の体に慣れるため」とか言ってごまかしている。


 あと、奥に追いやられている猫の精神が少しずつ表に出てきつつある、というのも大きい。彼女(こいつ雌だった)は運動したがってるみたいで、なら歩かせてやろうという事だ。鱗猫の身体能力は大したもので、何キロ歩いても全く疲れない。ただ途中で木に留まってる鳥に飛びつこうとしたり、モグラの穴を掘ろうとしたり、と野生な行動を取ろうとするのは頂けないが。その都度ティアの目線が冷たくなっていく。


---


 夕方になり、最初の野営準備をした。野営とは言っても寝るのは馬車だ。二人と一匹が寝るには十分な広さがある。その馬車を念のため広めの構造物の脇に付ける。タープの代わり。

 そこにリーネとティアが食事の準備をする。テーブルを置いてそこに蓄電池で動くコンロを載せる。食材は馬車に山ほど積んであった。


 鱗猫は人間と同じものを食べる事ができる。その辺の雑食性は地球の猫と一緒だ。さすがにこの世界にキャットフードなんてものは存在しなかったので、野営でもリーネの作った食事をもらう事になる。


 先ほどの馬車に積んでる「食材」だけど、これ肉とか野菜とか果物とかではない。肉っぽい色のバー、野菜っぽい色のバー、とかダイエット食品のような見た目で、そのままでも無理をすれば食べられなくはないが、コンロで加熱して調味しないと少々厳しい。

 そこで俺が猫なのが問題になる。つまり猫舌。この合成な食材を加熱すると、あんかけの中華丼みたいになかなか冷めないのだ。燃料消費率とか熱効率とか、そんな理由なんだろう。しかし猫の口には不都合。


「お待ちください、今冷ましますね」


 とリーネが言い、背の低い皿に移した肉っぽい何かを口でふーふー冷ましている。俺にとってはありがたいのだが、美少女がふーふーしたものを食べるというのはかなり恥ずかしい。

 しかし仕方ないのでその皿から食べていると、それを横目でじっとり見つめてくるティア。ぼそっと


「リーネ様。そこまでしてやらなくても宜しいのでは?」


 ううー。俺もそう思うんだけどね。


「こらティア。ソーマは偉人様とは言えお体は鱗猫なのです。必要な事なんですよ」


「そうですかー? なんだか甘えてるだけのような感じがしますよ?」


 ぎく


「ほら、今ビクっとしましたよ。尻尾も動いてます。絶対にやましい気持ちがあります」


「うーん、ティアはソーマに厳しいですね。まだまだ鱗猫の体に慣れていないだけだと思いますよ?」


「そうですかねえー」


 そりゃあ、「お姉様」を取られちゃってる訳だからね。我慢はするけど、居心地悪いなあ。


---


 川があれば二人は水浴びするが、そうそう水場があるわけでもない。大抵は建物の陰で体を水で拭く程度だが、その時にもティアにしっかり釘を刺される。


「覗いたら囓ります」


 え。猫を囓るの?


『猫を噛むって言われても! っていうか見ないよ!!』「にゃー!」


 近くにリーネがいないと何言っても「にゃー!」にしかならない。尻尾がバタバタ波打つ。


「……尻尾。語るに落ちてますね」


 どうしろというの。




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