犬
それは、大昔に「犬」と呼ばれていた生き物だった。
ライオンより強い顎を持つ、犬最強と唄われた軍用のカンガール・ドッグ。この大型犬に遺伝子操作を行い、装甲となる鱗と強化された筋肉、増速された神経系により鋭敏な感覚器を持たされた生体兵器。それは遙かな昔にロシアで設計製造され、東ヨーロッパとの戦線に投入されていた。しかし何頭かが北海道に入り込み、生き延びたものがいた。ここにいるのはその子孫。体重は200Kgほど、寿命も100年を超える、シルエット以外に犬の面影はあまり残っていない超生物。
彼らは北海道の生態系の頂点に立ってはいたが、繁殖力は弱く数的には戦闘力で劣る鱗猫のほうがはるかに多かったので、捕食ピラミッドは均衡が保たれていた。また、地殻炉によるジャマーによって人間の集落に近づく事はできなかった。
アマナの南、えりもや広尾で鳥やアザラシを狩猟して生きていた一頭の犬がいた。
その犬は、北にあるジャマーの力が弱っている事に気づいた。彼は以前、広尾の地殻炉が停止した時に偶然立ち会っていて、そこにいた弱い二本足の生き物の味を覚えていた。柔らかく、抵抗もせず、逃げもしない。あれは至福の時だった。結局全部食べきる事などできず、腐らせて虫にほとんど食べられてしまったが。
北で、また弱った集落がある。彼は昔を思い出してよだれを垂らした。
彼は早足で大樹・アマナを目指した。ひさしぶりのご馳走が待っている。




