アマナ
ついに聖都アマナに戻ってきた。
出発した時と何も変わらない。戻ってみるとルストやカルムとは違う事が明白だ。比べると住民がおとなしい。市場の雑然とした雰囲気や子供たちの賑やかさはここにはない。白い建物が延々と続く町並みには現実感がない。
他の町のように人々が集まってくる事なく神殿に到着する。神殿に入ると、長老のニナが迎えてくれた。
「無事戻りましたか。怪我などありませんでしたか? え、え、聖獣様増えてますか?」
「はい、ニナ長老。全員無事です。聖獣様は最初のお一人だけで、あとは普通の鱗猫です。途中でお友達になりました」
「おともだち……」
「灰域の奥で地殻炉の研究施設を見つけました。炉の再起動ができるかもしれません!」
ニナは、元気そうに報告するリーネを訝しげに見つめる。
「……リーネ、あなた少し変わりましたね?」
リーネは、はっとしたようにニナを見つめ返す。
「そうでしょうか? そうかもしれません。施設発見の経緯などと一緒にご報告させてください」
ここ神殿は感情をタブーとする総本山だ。そりゃあすぐにバレるか。
「偉人様もお疲れ様でございます。まずは旅の疲れを落としてください。明日、場を設けますので、それまでおくつろぎください」
ニナはそう言うと、後を神官に任せて立ち去った。リーネとティアは自室に、俺と猫たちはいつもの地下の寝場所に。神官たちが飲み物や食べ物を置いていってくれた。軽く食べると、豪華座布団に乗って伸びを一発。増えた猫たちの分も座布団を追加してくれた。そのまま昼寝に突入。猫だもの。
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夜になると、猫の座布団部屋にリーネとティアがやってきた。巫女服に着替えて髪も揃えられており、こざっぱり。改めて見ると二人とも美少女だよなあ。タイプは全然逆方向だけど。
「ソーマ、筆記の続きを片付けましょう」
『そうだな。やるか』
ティアが筆記用具を持ちスタンバイする。リーネの感応術がリンに入り込む。
「『【——諦めろ、守り手の少年】 ヴォイドの声が、どこからともなく響く』」
最終章の終盤。ヴォイドとカイが対峙する場面。
「『【おまえは十分に戦った。だがこれは戦いではない。これは安らぎだ。すべてが静まれば、誰も傷つかない。誰も泣かない。おまえの仲間も、おまえが守りたかった人々も、もう何も苦しまなくて済む】』」
かきかき。ティアはなめらかにペンを滑らせる。内容に特段疑問はないようだ。
「『
――カイは答えられなかった。ヴォイドの言葉に嘘がないことを知っていたから。静寂の中で、カイは自分の手を見た。紋章の光が消えかけている。選ばれし者の証が、今は何の力も持たないただの模様になろうとしている。
ルティアが傍に立っていた。何も言わない。ただ立っていた。
カイはルティアを見た。ルティアの目を見た。感情の乏しかった彼女の目に、今は確かに何かがある。
それは悲しみかもしれない。恐れかもしれない。でも確かに——そこに、光があった。
』」
ティアがペンを止める。
「この聖典が鍵に選ばれた理由が分かるような気がします。敵の有無はともかく、状況は今と一緒ですよね」
「ソーマが内容を覚えていなければ、私たちも滅びていたんですね」
『いや、まだ炉の停止が回避された訳じゃないぞ? この内容が本当に使えるかどうか分からないし、認証を通過するだけの感情が出せるかどうかはまだ分からん』
「それは確かにそうなんですが。でもまずは……」
フッ
話している途中で感応術がまた切れた。リーネの話す意味が聞こえなくなる。今度は長い。
更に、リンの精神も遠くなった気がする。体の操作も切り離された。
「……また切れましたね」
切断は数秒続いただろうか。一回一回は短いものの頻度が上がっている。時間も長くなりつつある。リーネは俺を見つめる。
「ソーマとの感応術も、リンとの融合も、炉の力によるものです。以前より炉の力が弱っていて、それが不安定の原因かもしれません」
『まずいな。急がないと。最終章終わる前に切断されたら炉の再起動もできん』
ティアも気づいていた。リンが動きを止めるとき、鱗の光も弱まっている。このままでは。
「急ぎましょう。猫からソーマが消えたら……」
「『消えたら?』」
「……リーネ様が悲しみます」
顔を背けるティア。まったくこいつは素直じゃないよ。とか言ったら殺されそうだけど。




