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俺の黒小説が聖典になってた  作者: ぽんた7
Episode8 帰り道
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カルム

 そんなこんなでワイワイやりながら交易町カルムに到着した。なんだかんだで一ヶ月くらい旅をしていた事になる。長かった。


 馬車が町に入るや否や、子供たちに囲まれた。さらに大人たちも集まってくる。皆で馬車を出て挨拶する。


「カルムの皆様、ただいま戻りました。地殻炉をもう一度動かすための知識を得る事ができました。これも偉人様と聖獣様のおかげです」


 子供たちは目を輝かせている。鱗猫が増えてるのに気づいてわくわくしている。


「巫女様巫女様、お話聞かせてください!」「聖獣様のお話を!」「聖典のお話を!」「猫増えた!」「しっぽ!」「おなか!」


 前回訪問した時に聖獣が実在している事を証明してしまったため、人々が聖典に関心を寄せている。子供たちの興味は猫の比重が高いけど。


 一旦馬車を神殿に停めてから改めてリーネが聖典の物語を語る場を作った。人々が集まる。

 リーネが第五章、聖獣と主人公カイの出会い場面を読み始める。


―――

 フェインの裏切りで心が折れたカイは、ルティアだけを連れて灰域の荒野を彷徨う。詠唱を試みても炉は応えない。仲間を信じられなくなった心では、声は届かない。

 三日目の夜。岩場の窪みで野営していたカイとルティアの前に、一頭の獣が現れた。鱗と毛皮をまとった大きな猫。背に畳まれた翼。長く太い尾は鱗に覆われ、先端が刃のように扁平に広がっている。瞳は月光を受けて金色に光る。

 獣はカイたちを襲うでもなく、ただ岩の上からじっと見下ろしている。ルティアが『動かないで』と囁く。古い文献に記された「竜の血を引く獣」。極めて希少で、極めて危険。

 カイは恐怖を感じるが、同時に獣も傷ついている事に気づいた。脇腹に深い裂傷がある。血が黒く乾いている。単独で何かと戦い、辛うじて生き延びた姿だ。

 カイは立ち上がる。ルティアが止めようとするが、カイは前に出た。獣が低く唸る。鱗の間の毛が逆立ち、尾が持ち上がる。

 カイは詠唱しない。できない。代わりに自分の水筒を取り出し、手のひらに水を注ぎ、獣の前に差し出す。

『……おまえも、独りか』

 獣の唸りが止まる。金色の目がカイの手を見ている。

 長い沈黙。風だけが吹いている。

 獣が一歩降りてくる。もう一歩。カイの手のひらの水に、ざらりとした舌が触れる。

 その瞬間、カイの腕の紋章が——消えかけていたはずの紋章が——淡く光る。獣の背筋の鱗も、同じ色に光る。ほんの一瞬。しかし確かに。

 ルティアが息を呑む。『……共鳴している』

 カイは紋章を見る。獣の鱗を見る。同じ光。

『こいつも……炉と繋がっているのか?』

 ルティアは答えず、ただ二つの光を見つめている。

―――


 そういやこんなん書いたっけなあ。未熟な内容だよなあ。


 子供たちは目を輝かせてリーネの語る物語を聞いている。そして商人たちの表情にもかすかな変化が生じている。


「面白い」「続きが聞きたい」「しっぽ」「おなか」

 反応は様々だが大人にも感情の芽生えがごく微かに感じられる。


 ティアはそんな人々を見て少しだけ微笑んでいる。


 リーネの語りも、以前に比べてセリフなどに感情が見える。感情を抑えようという神殿の教えを反故にした事でリーネのそれもよみがえりつつあるのかもしれない。3000年の経過で遺伝子による感情抑制が機能を失いつつあるというのは考えられる事だ。感情抑制が神経伝達物質の制限だとすれば、それに対する抵抗力が出来ているとか。分からんけど。


 朗読会は、獣にリンドヴルムという名前が付けられたキリの良いあたりで一旦お開きになった。


---


 夜。食事の後。ティアの突っ込みに逆らいながらの口述筆記は続いている。


「『カイたちが灯してきた炉が、一つずつ消えていく』」


「炉、というのは地殻炉とは違うんですよね?」


「『そうだけど、あくまで創作だからな。まあ似たようなもんっていう理解でいいよ』」


「相変わらずいい加減ですねえ」


 すまんな。


「『遠くの町の炉が消えた。砂漠の炉が消えた。山岳の炉が消えた。ルティアの故郷の炉が消えた。灯したはずの火が、指の間から零れ落ちる砂のように失われていく』」


 リーネがつぶやいた。


「驚嘆すべき記憶力ですね。聖典をこれだけ暗唱できるのに、まだご自分は偉人ではないと主張されるのですか?」


『いや本当に偶然なんだよ。むしろこれを鍵に使った玲奈ばあちゃんが凄いだけで』


「偶然、ですか」


「そうですよ偶然だと思いますよリーネ様。ソーマにそんな大層な力があるとは思えないですよ」


 お?


『ティア、もしかして初めて名前で呼んでくれた?』


 リーネが通訳する。ティアは頬を仄かに赤くして顔を背けた。


「……他意はありません。リーネ様がそう呼ぶから合わせただけです」


 おうおう、ツンデレさんめ。


 そのとき、ふっ、と一瞬リーネとの接続が切れる。


『あれ? 今感応術切れた?』


「はい、こんなお近くにいるのに感応術が切れるなんておかしいですね。ソーマも私も疲れているのかもしれません」


「リーネ様は昼間も朗読していましたしお疲れなのでしょう。今日はもう休みましょう」とティア。


 少し早めだけど就寝した。



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