玲奈
翌日。再度炉の前に来た我々二人と一匹。四匹は外出中。フリーダムだな。
見るとクリスタル的な机の上というか半透明な天板内で、小さな赤い光点がゆっくり点滅している。昨日はこんなの無かった。
『なんだろうなこれ』
リーネも光点を見る。
「夕べ、炉が話しかけてきたのと関係があるんじゃないでしょうか?」
『うーん、にしてはアピールがショボいな。とりあえず今日もコンソールを開けてみようか』
適当コマンド短縮入力。ティアが渋い顔をしている。いいじゃんか、このくらい。
昨日同様に開いたコンソールだが、下の方に新しいウィンドウが追加されていて、枠が明滅している。謎言語に加えて、日本語と英語で「お読みください」「ReadMe」と書かれている。
『俺にも読めるウィンドウがある。開くぞ』
ウィンドウをタップする。謎言語と英語と日本語を選択するパネルが開いたので「日本語」をタップ。
シュルシュル、とウィンドウが全画面に拡大して一人の中年女性を映し出した。中肉中背、白髪。なんか目鼻が日本人っぽい。
『こんにちは、陸別地殻炉研究所へようこそ。私は玲奈・トーヴ。この地殻炉の設計者です』
ビンゴ! 口の動きと音声が合っていないが、これは自動翻訳なのだろう。リーネたちには理解できないだろうけど、後で謎言語に切り替えてもう一度再生すればいい。
『このメッセージウィンドウは、炉に管理者アクセスがしばらく無かった場合、かつ管理者になり得るヒトが現れて用意されたメッセージが受信確認された場合に表示されるものです。遠い未来、技術者がいなくなってしまった場合を想定してこの録画を残します』
いやー、それならまずは厨二コマンド体系をなんとかしなきゃいけなかったんじゃないかなあと思いますよ。
『地殻炉は、複数の炉が協調動作をしてマントル層に振動波を打ち込む事により熱エネルギーを汲み上げます。単体でも汲み上げは可能ですが効率は激減します』
リーネとティアが頭上にハテナマークを浮かべている。『後で君たちの言語バージョンも流すから、ちょっと待ってて』
『炉の協調動作には間をつなぐネットワークが必要です。これは管理者不在になった場合に期間をおいて自動的に遮断するように設定されています』
その後もなんか色々説明されるが専門的でよくわからない。これが技術者向けじゃないって、どんだけ教育水準が高かったんだ俺の近未来。
『炉の再起動には感情を持つヒト種の脳による認証キー照合が必要です。これは人工知能による文明乗っ取りを防止するために組み込まれました。脳のスキャンにより感情を持った真性の人類であると認定された場合にのみ、認証キーが有効となる仕組みです』
嫌な予感がしてきた。
『認証キーは、別途ドキュメント化されています。奥のキャビネットに劣化しにくい素材のファイルがあります。その中の『蒼炎の書』というファイルの最終章を炉の前で朗読してください。それで休止しているネットワークが再起動します』
ほーら。ちくしょう。
『蒼炎の書それ自体に意味はありません。単なるパスワードです。私の先祖が残した文章がたまたま手元にあったため使いました。再起動以外のコマンドもこの文章に準拠していますが、緊急時のみのご使用にとどめてください』
なに、まさかこのオバサン俺の子孫なの? ありゃー。てかそんな理由で俺の黒小説を永久保存しちゃった訳かい。
『ただし適用にはもう一つ条件があります。再起動するネットワークの接続先にも生きている人間が必要です。片方だけでは再起動できません。朗読自体は片方の炉だけで構いません』
けち。でも朗読するのは一カ所だけで良いんだな。問題は途中の集落にどうやって感情を持つ人間を置くかだ。ティア分身の術とか使えねえかな。
『まだまだ人類から争いは絶えていませんが、地殻炉はいずれエネルギー争奪に終止符を打ってくれるでしょう。遠い未来でこれを見ているあなた。炉を生き延びさせてください。宜しくお願いいたします。以上、西暦2270年1月10日、玲奈・トーヴでした』
いやはや。まさか玲奈オバサンも当の本人に聞かれるとは思ってなかっただろうなあ。依然として何故俺がここに来てしまったのかは謎だけど。
ぽけっとしていた二人のために、今の録画を謎言語バージョンでリピートする。リーネとティアは静かにそれを見ていたが、終わると二人とも興奮して話しかけてきた。
「本当に聖典は地殻炉の鍵だったのですね」
リーネさん、キミ実は疑ってたの?
「あんな賢そうな方がいらしたんですね。どうせならこの方が偉人として降臨してくれていたら。こんな猫ではなく」
ティアさん、キミ相変わらず酷いね。
「うにゃん」
気を落とすな? うんうん、リンだけが俺の味方だよ。




