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俺の黒小説が聖典になってた  作者: ぽんた7
Episode1 降臨と憑依
2/15

儀式

 ふう。拷問も終わって少し落ち着いた。で思い出した。


 そう、俺は札幌から出てきて別の地方の大学に入学して一人暮らししていたんだ。ところが3年次の途中でアパートが建て替えになって追い出される事になって、荷物整理をしてたんだっけ。

 で実家から持ってきていた段ボールの底にあった草加煎餅缶から発見したのが小説『蒼炎のルミナスクロニクル —— Requiem for the Ashes』一式。高校生の時に書いた厨二爆発の異世界小説。まあよくある異世界召喚から仲間を集めて魔王討伐する感じのお話で、無理矢理ラテン語のタイトルを付けるという痛い小説だ。大学ノートまるまる一冊の陳腐な本編と、まるまる三冊の真っ黒に書き込みされた設定書。人物から敵から武器から、全てにこれでもか、ってくらい解説が付けられている。

 『蒼炎の書』はその中に出てくる「聖なる導きの書w」だ。もう小説自体の文章からして相当アレなのに、『蒼炎の書』はもう目も当てられない壊れっぷり。まさに正統派黒歴史。ほっとけや。


 こんな毒文書を残しておいてはいけないと誰でも思うだろう。思うよね? 俺は百均で手動のシュレッダーを買ってきて、ノートを分解して細断しようとしたんだ。


 んで、その後の記憶がない。気がついたらリーネの中にいた、という訳だ。どういう訳だ。


---


 他の長老、と呼ばれた老人が部屋というかホール? に集まってくる。皆同じような服装だ。お偉いさんっぽい人たちは何か協議しているようだ。


 一人、他より装飾が多めの長老が前に出る。


「キリューソーマ様、というのがリーネの想像上のもの、という疑いは捨てきれん」


「はい。私にはそうは思えないですが、私の心が異常をきたしている可能性は否定はできません」


「うむ。そこで真偽をはっきりさせるために『心明の儀式』を執り行う。台座に跪くがよい」


 なんじゃそれ。

 リーネが石像の前に作られた台に乗った。これはあれだ、ゲスト出演者が懺悔する台だ。失敗すると上から水とかタライとかが落ちてくる系。

 ……だったらいいなあ。ドッキリだと言ってくれ。


「お願いします」


 リーネが目をつぶった。もちろん俺の視界も暗くなる。

 周りで長老連中がもごもご呪文らしきものを唱え始める。なんだか妙に英語っぽい抑揚な気がするんだが、聞いた事ない単語ばかりだ。


 数分すると、突然リーネの体から浮き上がるような感覚。何か四肢がバラバラに独立したような、自分が自分ではなくなったような変な気分。

 するとリーネの口から予想もしない、しかし聞き覚えがある言葉が出始めた。


【——目を開けた時、最初に分かったのは、ここが自分の知っている場所ではないということだった】


 え"。


【空気が重い。光が遠い。体が動かない。声も出ない。頭の中だけが——】


 お"い


 リーネは『蒼炎のルミナスクロニクル』の内容を朗読しはじめた。ちょ、待って、やめて!


【深淵より立ち昇れ、忘却の炎よ】


『ぎゃー!!』


【凍てつく大地の底に、おまえの熱はまだ眠っている】


『うぎゃー!!!』


【我が声は鍵、我が魂は薪】


『やめー!!』


 リーネに声が届いていないのか無視されているのか、反応がない。ひたすら黒い文言を喋り続ける。


【蒼き炎の名において我が命ずる—— 目覚めよ】


 『もう殺して……』


 恥辱の文章の連続に、俺は考えるのをやめた。俺は無。俺は考えない葦。ノークレームノーリターン。


 延々と続いていた朗読が終わったようで、体の感覚が戻ってくる。リーネが目を開けると、石像がほのかに光っている。長老たちが動揺している。


「これが聖典本来の発音なのか……お言葉に炉が反応した……疑いようがない、『蒼炎の書』の偉人様が巫女に降臨なされたのだ……」


 俺の体(仮)がリーネの中で崩れ落ちた。


『ちがう……それは、それは。俺の厨二病の黒歴史……お願いもうやめて……』


---


 『心明の儀式』とは、憑依した魂を暴くメソッドらしい。ひどい。個人情報保護法違反です。所管の裁判所はどこですか。


 俺の抗議は、リーネがそのまま長老たちに伝えていた。


「キリューソーマ様は、自分は偉人などではないとおっしゃっています」


「聖典には『俺は普通の——ただの高校生だ。こんなところに来るはずがない』と記されている。自分を否定するのも偉人なればこそ」


『ちげーよ本心だよ。だいたいそれ登場人物のセリフ。俺のじゃない。話聞けや』


「話を聞いてくれ、と」


「なるほど、『まずは言の葉よ地にあれ』という事ですね」


 ……なんだか否定すればするほど聖典とやらの記述に関連付けられて、長老たちの偉人認定が強化されている気がする。誰だこんなの書いたの。


 ただリーネだけには俺の苦痛がほんのわずかに伝わっている気がする。見える感情は困惑。俺が本気で自分が偉人ではないと考えている事に気づいている。


「キリューソーマ様。改めて伺います。あなたは本当に、聖典の偉人ではないのですか?」


『……もちろん違う。俺はただの大学生だ。あの聖典は——』


 いや待て。確かに否定したい過去ではある。しかし何故俺の黒歴史ノートがこんな見知らぬ世界にあるのか。否定するのは簡単だが、もしかしたら何か重要な意味があるんじゃないか。

 どうにも夢とは思えないし、完全否定はそれを確かめてからでも遅くないかもしれない。


『いや、なんでもない。ちょっと今は俺も混乱している。今は説明しにくい』


 リーネは少し黙り込んでから答える。


「……わかりました」


---


 神殿は、偉人が降臨した事を聖都アマナ中に発表した。全体的にお祝いムードのようだが、俺がリーネの精神に同居したままのため疑う向きも多い。そりゃそうだ。俺だって信じてない。


 そして、そんな同居状態は地獄だった。リーネは日中は俺の要望を聞いてくれて神殿内の案内やこの社会の解説などしてくれたが、それ以外は何も自由にならない。彼女が食事をすればその味を感じ、入浴では羞恥に目をそらす事も出来ず、眠れば意識も遠のく。特にトイレなんてもう。もう。見るだけでも拷問なのに感触が……感触が…… 人によってはご褒美状態なのかもしれんが、俺には無理。まだ対異性性能レベル1なんだよちくしょー悪かったなあ。スライムに苦戦するような奴がいきなりドラゴンとかベヒモスとかの前に出されたようなもん。


 その苦痛に拍車をかけるのがリーネの見た目。これがまた。ほんとにまた。

 身長は160cmくらい?細身の体、細い手足。白い肌に青い目。16才らしい。もっともこの世界の1年がどのくらいなのか知らんけど。

 銀灰色の肩口くらいでラフに切りそろえた髪が体の軽やかな動きを追って翻る。後ろには水色のリボンが風を受けている。西洋風でもあり東洋風でもある顔立ちははっきりした、それでいてスリムな目鼻立ち。何も塗ってないくせにツルンとした唇。その口から出る声は少し高めだけど音質は柔らか。


 おわかりいただけるだろうか。俺に体が無くて良かったと心底思った。もしあったらきっとあれやこれやが……(検閲済み)


 ただ、リーネに限らないんだが会う人会う人どうも感情が薄いというか淡々としてるというか事務的というか。お祝いムード(祝われたくはないが、それはそれとして)にしては静かだ。普通どんな土地でも、飲み屋街で騒いでる人とか、公園でうなだれてるサラリーマンとか、オモチャ屋の前でギャン泣きするガキとか目にするもんだと思うんだが。一切そういうのを見かけない。神殿とやらの中もそうだ。事務連絡ばかりで役所にでもいるようだ。


 あとついでに、いちいち『キリューソーマ様』と呼ばれるのはMPにスリップダメージがあるので簡単に『ソーマ様』にしてもらった。様、は頑として外してもらえなかったが。



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