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俺の黒小説が聖典になってた  作者: ぽんた7
Episode6 灰の向こう側
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元集落

 巫女巫女猫猫猫猫猫メンバーで灰域を進んで行く。猫小隊は馬車の周りを囲んで歩いている。護送船団かい。


 進むにつれて気温が上昇している。鱗猫にとってはアマナなどよりむしろ快適な温度だが、女の子二人には少し厳しくなりつつあるかもしれない。

 風景からは緑がほぼ消えていた。背の低い草がまばらに生えてる程度。その他は荒涼とした白い地面が続く。カルムあたりでは遙か遠くに見えていた山々が近くなっている。ずっと緩い登りが続く。


 ごくたまに、遠くに動物の姿も見えた。ただよく見える距離に近づく前に逃げてしまう。馬車に搭載されたジャマーは効果抜群のようだ。


「仮に近寄ってきたとしても、鱗猫は大変強いので撃退は簡単だと思いますよ。」


 とはリーネの言。確かにカルムでは屋台を一撃でバラバラにしてたもんなあ。鱗猫が友好的で良かった良かった。ジャマーも効かないし。...ってそれも怪しいんだよなあ。選択的に効果がある動物避け、って不自然だよ。鱗猫側がジャマーに反応しないよう作られてる、という方が納得できる。古代文明、いろいろやらかしてる疑惑。


 そんな感じで進んで行くと、ところどころに骨組みだけの建物が集まっている場所がある。小規模な集落だったのだろう。今は人のいた痕跡すら残っていない。朽ちない物質で出来た家具や雑器が転がるだけだ。


「ここにも人が住んでいたのですね」


 リーネがぽつりと漏らした。ティアは辛そうな顔をしている。ティアの村も何年も経た今ではこんなふうになっているだろう、と実感しているのかもしれない。


『リーネ、悲しいか?』


「……よく分かりません。何かこう、胸に霧がかかっているような感じはするのですが」


『そうか』


 遺伝子レベルで感情が抑圧されているなら、おそらく前頭葉が強化されてるとか扁桃体が機能不全にされてるとかだろうか。以前生物学の授業でやったな。

 しかしこの辺の受け答えを見るに、完全に機能してないって事もないらしい。器官としては生きてるが抑制するホルモン的なものが分泌されてるとか。それなら感情を表出する訓練が可能かもしれないと思ってる。申し訳ないがリーネで実験させてもらおう。


 ティアについては、ある意味遺伝子異常なんだろう。感情を司る器官の抑圧が機能しなかった。先祖返りだな。


『まあ気長に行こう』


「はい」


 集落を少し進むと小さな神殿跡に到着した。馬車から降りて建物に入ると他の集落と同様に地下があり、そこには停止した地殻炉があった。ごくごくわずかにハム音がするのが猫の耳にはぎりぎり聞こえる、という程度だ。これも死んではいないようだ。壁がわずかに光っていて照明になっている。


「ここも止まっているのですね」


 とリーネはつぶやくが、ティアは両手を握りしめて


「私は悔しいです」


と声を絞り出した。


「あの時、私は何も出来なかった。もっとやり方はあったはずなんです。私はもっと大きくなって、人を助けられるようになりたいです」


「ティア……」


 そうだ。思いついた。


『リーネ、ティア。ルストでは炉の操作に失敗しちゃったけど、ここなら失敗しても被害は無いよな。ならいくつか聖典の呪文というか祝詞というか、その辺を試してみたいんだがどうだろう』


「聖典を試す、ですか。確かにこれ以上悪くはならないでしょうね。ティアはどう思いますか?」


 そんな判断を聞かれるとは思ってもいなかったんだろう。ティアは少しうろたえるが、しっかりと答える。


「良いんじゃないでしょうか。誰も住んでないですし」


 そもそも「蒼炎のルミナスクロニクル」は、


――

 異世界に召喚された少年が「炉の守り手」として仲間と旅をし、各地の「眠れる炉」を目覚めさせながら世界を脅かす闇の勢力と戦う。主人公は古代語の詠唱で炉の力を引き出す特別な能力を持つ。仲間との絆が深まるごとに詠唱の威力が上がるという設定。最終章で世界中の人々の想いを束ねた大詠唱で全ての炉を同時に起動し、世界を救う。

――


 という話だ。本当にこれが聖典として機能してるなら、何らかの反応はあるはず。実際ルストではそれで大惨事になった訳だし。

 うし。未だにこれを読むのは恥ずかしいけど、このメンツならもう今更気にもならない。おなかもワシワシされ済みだしな。


---


 それから炉の前で、聖典の第一章から順番にそれっぽい文言を選んでリーネ経由で唱えてみた。

 なんか反応があることはあるんだが、出力が上がったり光ったりというのは無くて、リーネを通じて何か短い言葉というか情報というか、そんなものが返って来てる。内容は全然分からないんだけど。


『うーん、炉が何か伝えようとしてるのかなあ。でも意味分からないし。どうしたもんか』


「なんとなく言葉のようにも思えますが、私にもさっぱりです」


 リーネも理解できないらしい。ティアは置いてけぼりだ。


『そろそろ最後にして、次の町にも行かなきゃな』


 次は、第六章、「灰の中の記憶 —— Memories in Ash」。悪の勢力であるヴォイドを止めるために炉を再起動しようとする場面だ。考えてみればこれが一番それっぽいよな。最初に試しておけば良かった。


 ええっと。


「『灰に還りし炉よ、我はおまえの沈黙を赦さず。かつておまえが抱いた熱を思い出せ。おまえが温めた大地を、おまえが照らした人々を。忘却の底に沈むな——我が声を薪として受け取れ。再び燃えよ。再び灯れ』」


 ぼそぼそぼそ。何かの反応はある。だけどそれだけ。


『ダメかあ。これなら行けると思ったんだけどなあ』


 うーん。でも何かボソボソ喋ってはいるんだよなあ。……いや、もしかしてこれ、エラーメッセージ?


『ちょっと方針を変えよう』


「と申しますと?」


『炉を再起動できそうな文を選んで試してたけど、現状再起動は無理そう。でも反応は返している。という事は、もう少しまともなエラー情報を出力するような命令を与えればいいんじゃないだろうか』


 情報工学実習でも、訳わからんエラーメッセージを調べるにはまずググれ、そしてログを取ってAIに食わせろ、みたいな事をしていたし。ここにグー○ル先生もAIもいないけど。


 リーネは首をかしげて手を頬につける。可愛ええな。いやそうでなく。

 炉に情報開示をさせる。蒼炎のうんちゃらには勿論そんな記述はない。それっぽい呪文をアドリブで作らなければならない。ステータスオープン的な。


 まいったな。今の俺に出来るかな。いや、やるんだ、唸れ、俺の厨二脳細胞!!


『リーネ、頼む』


「はい、どうぞ」


「『灰の底に眠る記憶よ、目覚めずともよい。ただ、おまえが見てきたものを伝えよ。炉よ、おまえが最後に灯していた時、何を照らしていた。おまえが沈黙した時、何を抱えて眠りについた。我が声はおまえの覚醒を望まず。しかしおまえの記憶を疾く我が眼前に示せ!』」


 結果は劇的だった。炉が「ブンッ」と音を立てて炉の前に縦1メートル・横2メートルくらいのグリーンに光る半透明のパネルが現れた。


『うおう!』「にぎゃ!」「きゃっ!」「何ですかこれ!」


 現れた光るパネルは空中に浮いている。ホログラム的な何か。ただ俺が知ってるホログラムと違って、視点を動かしても位置が変わらない。全然別の原理のスクリーンだ。実に未来的なものだった。古代文明すげえ。



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