迷子
はぐれた。
次の日の昼頃。リーネとティアは神殿との打ち合わせとかで出かけている。用意されていたねこまんまを食べると、そのままリンの要望で散歩に出た。聖獣だ何だ言っても元々はただの猫。見知らぬ土地を歩き回って探検したい欲求に答えて体の制御を明け渡した。
そのまま神殿を出てうろつき始める。あ、リーネに出かけること言ってないや。まあ少しならいいか。
さすがに猫だけあって道路なんか通らない。塀の上とか屋根の上とか立体的に歩き回る。高い所から飛び降りる時には翼で滑空したりする。便利だ。ただ飛べても羽ばたいて上昇するのは疲れるらしい。翼のサイズ的に忙しく動かさないとダメなんだろう。非常用って感じか。
小鳥とかネズミっぽい小動物とかを追いかけたり、木登りして何かの実の匂いを嗅いでみたり、日向の良さそうな石の上で温まってみたり、フリーダムを満喫している。良かったね。
んで、ふと気づいた。リーネとの感応術のパスが切れている。距離が離れすぎると感応術も繋がらなくなるって聞いてたけど結構遠くまで来ちゃったんだなあ。あれ? これってマズくない? 神殿を探して戻れればリーネたちはいるだろうけど、叱られる未来しか見えない。感情が薄い人に怒られるのって正論責めになるからキツイんだよな。
リンに頼んで塀の上から家の屋根に飛び移る。神殿の尖塔を探そうと思ったのだが、周りの建物も結構高くて見つからない。
『まずくね?』
「にゃー」
『リンさん、あなた野生の勘で来た道戻れないんですかね?』
「にゃ↓」
おっまえ、マジかよ。仕方ない、とりあえず大きい通りを選んで、人の多い方に歩いていけば市場に出るだろう。そこからなら神殿見えるかもな。
しかし。見積もりが甘かった。人が多い=子供が多い。たちまち道ばたの子供たちに囲まれてしまう。
「猫さん!」「猫!」「捕まえよう!」
逃げようとするが、なんだか前からも後ろからもどんどん増えてくる。リンの身体能力なら強行突破も出来るだろうけど、もし怪我でもさせたら大変だ。子供も痛くて大変、俺の未来も大変。ティアの目付きがせっかく毛虫を見るような目から獣を見る目にアップグレードしたのに、また虫に戻ってしまいます。
仕方ない。翼を最大限に広げて唸り声を上げて威嚇する。
『ちょいと通してくれー!』「うなー!」
もちろん言葉なんて通じませんね。子供たちは大興奮。なんだなんだと大人も集まりだす。
「聖獣様だ!」
大人たちは昨日の騒動を知っている。子供たちもそれを聞いて目を一層輝かせた。
「聖獣さまー」「触らせてー」「撫でさせてー」「しっぽー」
ついに子供たちに捕まった。わっしゃわしゃ撫で回される。リンは諦めたのかひっくり返って腹を出した。子供たちが沸き返る。
「ぼくもぼくも」「私にも触らせて」「しっぽしっぽ」「つばさつばさ」
腹はともかく、尻尾触られても平気なのかリンよ。
しばらくの間なすがままにされていると、感応術が復活している事に気づく。つまりリーネが近づいてくるってことか。気まずいな-
「申し訳ありません、通して頂けますか」
数分すると輪の外からリーネの声が聞こえてきた。俺とリンの囲みに通路ができる。歩いてくるリーネさん。子供たちはリンから離れて大人と共に輪になって見守っている。
「…こんな所にいらしたのですね」
『…助かった』「にゃん」
「離れる時は前もって、というのはもう分かっていらっしゃるようですからこれ以上言いませんが。せめて宿のものに伝言くらいはしてください」
『いや、伝言なんて猫には出来ないんでわ』「にゃむにゃむ」
「何か仰いましたか?」
『いえ、何でもございません』「うにゃん」
うつむくリン。ざわつく人々。「叱られてる」「聖獣様叱られた」「尻尾垂れてる」「耳も垂れてる」
「神殿との協議も終わりましたので、今日もう一泊とまって明日出発です。ソーマ、リン、宿に戻りましょう」
『…はい』「にゃ」
歩き出すリーネの後にとぼとぼ付いていく。尻尾が垂れっぱなしだ。
「聖獣様さようならー」「叱られ聖獣様、またねー」「聖獣様元気だしてねー」
もう威厳も何もない。昨日の崇拝から一気にダメな猫に格下げになったが、でもその方が気楽か。
日が傾いている。すっかり夕方だ。どれだけモフられていたんだか。
...そして。
「リーネ様に迷惑をかけないようにと。あれほど言いました。あなたには。豆粒ほどの。脳みそも無いようですね」
宿には仁王立ちして腕組みする鬼がいた。
その夜はソファーで寝る事も許されず、部屋の隅で丸くなった。ティアは俺の寝ている横にゴミ箱を置いた。「ゴミ箱が小さくて残念です」ひどい。
リーネはティアを取りなそうとしていたが、本気度は低かったところを見るとこちらも割とお冠だったのかもしれない。すみませんでした。




