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俺の黒小説が聖典になってた  作者: ぽんた7
Episode4 市場の風
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交易町カルム

 ルストを出て半日で交易町カルムに到着した。ルストもカルムもアマナからは北にあって、お互いはそれほど遠くない。

 交易町カルムはその名の通り商売の町だ。周辺の集落の生産物、炉による自動生産ではない農作物や工芸品などがここに集められ、取引されて再度町から出て行く。

 ルストにあったような市場が町の中心だが、規模は見た感じ10倍を超えている。町の奥まで店舗が並んでいた。町の別の場所にも市場はあるという。それぞれ食料品中心、衣料中心、など役割が異なるんだそうだ。アメ横とかっぱ橋と日暮里みたいな感じだろうか。


 我々は一旦馬車でカルムにもある神殿を訪ねた。

 例によって神官たちは巫女であるリーネを恭しく歓迎はしてくれる。表情は能面だが。案内してもらった3基目の地殻炉は、ルストやアマナのものより活発に見えた。発生している音も光も力強い。恐らくはこれが炉本来の姿なのだろう。

 この地殻炉の余力がカルムの外側の町を衛星集落として維持しているという事だが、最盛期ほどの出力は無いらしい。生活圏は徐々に縮んでいた。


 生活圏が縮小するとは、つまり仕入れ先も販売先も少なくなるという事だ。いきおい商人間の競争は激しくなり、淘汰されてしまう者も出てくる。神官によれば、最近はそのせいで市場でのトラブルが増えているそうだ。


 我々が神殿で出来そうな事は無さそうだ。仮にあったとしても俺はもう手を出す気にはなれないが。


---


 馬車を神殿に預けて町を見て回った。市場に入ると、一見穏やかな取引が行われているように見えるが、よくよく聞いていると言い争いになっている。語調は静かだが言っている内容は危なっかしい。例えば、「商品の入荷が少ない」→「値段をつり上げる」→「買い手が反発」、程度ならともかく、さらに「少ない商品の一部を無断で横流し」→「ばれて契約不履行で通報」→「役人にワイロ渡してうやむやに」とかも聞こえてくる。だいぶ腐ってるけど、それを淡々とやりとりしているのが不気味だ。感情は無くとも悪意は存在しうる、という事か。


 リーネ・ティアと共に市場を歩く。巫女を称える声や目線も多いが、そうではなく疎むようなものも混ざっている。リーネは平然としているが、ティアは後ろでビクビクしている。大人から悪意を向けられて平気な12才もいないか。俺は、リンが平然としているのに釣られるのか落ち着いている。


 進む道の真ん中で、男二人が喧嘩していた。殴るまでは行っていないが、片方は相手の胸ぐらを掴み相手を押し倒そうとしている。怒鳴ってないのが信じられない光景だ。慣れてきたけど。


 リーネはそんな二人に割って入った。『やめとけリーネ』と言ってみたが彼女は聞いちゃいない。


「一体何事でしょうか。争いは聖典の教義に反する行いです。まずは落ち着きましょう」


 男たちは手を止めてリーネを見る。一人は気まずそうな顔をして目をそらすが、もう一人は手を離すとリーネを睨みつけてきた。


「ああ? 神殿の巫女様ですか。何のご用でしょうかね?」


 淡々と言い放つ男だが、それが逆に怖い。スパイ映画の悪の首領っぽい。親切そうな見た目で部下を処分しまくるみたいな。


「争ってはいけません。あなたたちも聖典は理解してるでしょうに、意見の相違は話し合いのみで解決を…」


 男はリーネに詰め寄る。


「争うな? 話し合えば食料が増えるんですか? 聖典の通りにすれば取り分を確保できるんですか? 私は私の集落に物資を持ち帰らないといけないんですよ。それをこいつが約束を違えた。それを正そうとするのが悪だとでも仰るので?」


 今まで出会ってきた人間には無いタイプだ。感情が薄いだけで危機感はある。なるほど全人類が滅びを黙って受け入れてる訳ではないと。


「その通りです。全ては話し合いで…」


 リーネを遮り男は言葉を叩きつける。静かな口調で、でも苛烈に。


「巫女様巫女様言ってもしょせん子供ですか。もう話し合いでどうこうなる段階は過ぎてるんですよ」


「そんなはずはありま…」


「そもそも神殿が地殻炉をちゃんと管理できていればこんな問題も無かったんです。もう神官様や巫女様に口を出される謂れはありませんね。邪魔です、お帰りください」


 と言うが早いか、リーネの肩口を強く押した。彼女は後ろに突き飛ばされ尻餅をつく。「リーネ様!」ティアが駆け寄ってリーネの背中を支える。


 俺は、そしてリンは一気に頭に血が昇った。思いが一致し意識の重なる領域が体積を増す。体が俺とリンにシンクロする。


 金色の目が針のように細くなり全身の毛が逆立つ。小さかった背中の翼が巨大化して広がった。四肢を踏みしめると背中と尻尾の鱗が青い燐光を放ち出す。

 俺/リンは飛び出すと男たちを翼の一閃で吹き飛ばした。その場で半回転しながら堅い尻尾で屋台を横薙ぎにする。倒れた男たちの頭上を、光る鞭が致死の速度で通過する。打撃を受けた屋台はバラバラに砕け散った。不滅の謎物質以外ならリンの敵じゃない。

 もう半回転してリーネとティアの前に立ち、唸り声を上げながら男たちを凝視する。


 男たち、そして周囲で見守っていた人たちの目に浮かぶのは恐れか畏怖か。大きな翼を広げた光る猫が睥睨する前で、分解した屋台がもうもうと埃をたてている。それ以外の全てが動きを止める。


「聖獣様?」「聖典の聖獣様だ」「本当にいらっしゃったんだ」「巫女様に従ってるじゃないか」「猫じゃ無かったんだ」


 仁王立ちする鱗猫に起き上がったリーネが近づき、手を背中に置いた。


「ソーマ、リン、守って下さったんですね。ありがとうございます」


 男たち二人はこちらに向かって平伏していた。周囲の人たちも膝を地面に突いて行く。リーネは声を大きくして人々に語りかけた。


「神殿が不甲斐ないさま、本当に申し訳なく思います。皆様には不必要な苦労をおかけしている事でしょう。心よりお詫びいたします」


 誰も動かない。声も上げられない。


「しかし勿論、私たち神殿も座して滅びを待っている訳ではないのです。先日、聖典の偉人様が降臨されました。偉人様は鱗猫と一体化して聖獣となられ、私たちと巡礼の旅をしております」


 人々からは「おお」「偉人様が?」などの声が小さく漏れる。


「地殻炉が停止している理由を必ず突き止めます。ご不便だとは承知していますが、今しばらく私たちにお時間をください。皆さんを見捨てるような真似は決していたしません」


 俺も頭が冷えてきた。リーネ、それはちょっと言い過ぎなんじゃないだろうか。手がかりなんてほぼ無いぞ?

 しかし集まった人たちはみんな目を輝かせている。ティアは唖然とこっちを見ている。うーん。



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