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11 道を切り開く

「ゴゴゴ……ゴゴゴ……」


 Salv4は、ここに集結している適応者たちの気配を察知したのか、次第に苛立ちを強めていった。およそ十キロ離れているにもかかわらず、その進軍の轟音がはっきりと耳に届く。同時に、視界の中には空を覆い尽くすほどのsaliveの群れが現れた。


「みんな集中しろ。攻撃の合図を待て」


 高坂の一声で、俺たちは雑談を打ち切り、戦闘態勢へと入る。俺もその隙にポケットの中にある権核の三分の二を取り出し、剣へと叩きつけた。内に秘められた権能が剣を通して右手へ流れ込み、全身へと巡っていくのを感じる。


「シュッ、シュッ、シュッ!」


 後方から連続してミサイルが発射され、saliveの群れの中で炸裂した。


「攻撃開始!」


 高坂の号令とともに、俺たちは一斉に駆け出す。


 先頭を走るのは、黄金の閃光と化した高坂だ。わずか数秒で、俺たちを遥か後方へ置き去りにしていった。


 これこそが英才小隊の戦術だ。高坂が突入して道を切り開き、罠を排除する。その後に他の隊員が進路上の敵を完全に殲滅する。戦術とは言っても、実際には大半の危険を高坂一人に背負わせる形だ。それが、隊内最強の戦力を持つ者としての彼の責任でもあった。


「レイア、迎撃に注意!」


 野原さんの叫びとともに、一体のsalv2が一直線に俺へ突進してくる。


 salv2の頭頂にある鋭い角が反射する光を正面から受け止めながら、俺は足を止め、背中の剣袋から剣を引き抜いた。


 漆黒の剣身は周囲の光を飲み込むかのようで、鋭さを感じさせない刃先は、本当にsaliveの外殻を斬り裂けるのかと疑わせる。


 この剣にまつわる秘密は、機関から公表されていない。権核を吸収する能力も、俺自身の特異体質ということになっている。いつか他人に気づかれるかもしれないが、この剣を扱えるのは俺だけだ。だからこそ、世間を欺いているとは言えない。


 俺は両手で剣を構え、真正面からsalv2へと向かう。一歩踏み出した瞬間、無数の視線が俺一人に集中したような感覚を覚えた。


「グオオッ!」


 挑発するかのような俺の突進に反応し、salv2はさらに速度を上げ、鋭い角を俺の体へ向ける。犀のような姿をしたこのsalv2は「繇」と呼ばれ、権核は首元にある。低階のsaliveにはほとんど知性がなく、身体そのものを武器に単純な攻撃を仕掛けてくるだけだ。


 接触の直前、俺は体を低く沈めて角をかわし、右脚で地面を蹴り、左肩でその頭部へ体当たりを食らわせて軌道を逸らす。繇の重たい体は衝撃でバランスを崩し、慣性のまま地面を転がり滑っていく。


 その隙に駆け寄り、首元へ一突き。剣が触れた瞬間、権核は吸収され、繇の巨体はそのまま塵へと崩れ落ちた。


 体内の権能がさらに満ちていくのを感じながら、俺は次に突っ込んできたSalv1へ剣を振るう。剣気が土を巻き上げ、その身体を真っ二つに裂いた。再構築が始まる前に大きく踏み込み、剣身で権核に触れる。先ほど消費した権能が、十倍以上となって戻ってきた。


「蔦よ、我が敵を縛れ」


 俺が足を止めて戦っている間に、周囲からsaliveが徐々に包囲してくる。そこで早田墨の出番だ。


 彼女の詠唱とともに、土から次々と蔦が伸び、周囲のsaliveをきつく拘束する。さらに木の杖を地面に突き立て、再び詠唱する。


「炎よ、我が敵を焼き尽くせ」


 言い終えた瞬間、土でできた蔦が炎を纏い、拘束されたsaliveを炎の中へ包み込む。やがて残ったのは無数の権核と、地面に散らばる残骸だけだった。


「パチン」


 早田墨が指を鳴らすと、周囲の権核が一斉に彼女の元へ飛来し、腰のショルダーバッグへと収められていく。


 これが早田墨の能力だ。特定の属性に縛られず、本人曰く「魔法」。同階層の者よりも権能出力が高いため、視覚的な迫力は群を抜いている。


 だが、権能を伝導する武器を持たず、しかも攻撃距離が長い分、純粋な破壊力は他の者より特別高いわけではない。


 そう、彼女が「魔法の杖」と呼んでいるその木杖は武器ではない。世界中に生中継されると聞いて、どこからか拾ってきたただの木の棒だ。詠唱も確かに集中力を高める効果はあるが、毎回セリフが違う。


「先へ進もう」


 Auroraが俺の隣に来て、前進を促す。先ほど高坂獅尾が切り開いた道は、すでに無数のsaliveによって再び埋め尽くされつつあった。


「ああ」


 俺たちは高坂獅尾の後を追う。道中のsaliveの大半は早田墨とAuroraが片付け、俺は取りこぼされた個体を吸収し続け、権能を蓄積していった。


「あそこだ!」


 salv4まで残り二千メートル。野原稲の叫びとともに、前方にいる高坂獅尾の姿が見えた。


 彼は剣を地面に突き立て、両手で握り、背筋を伸ばして立っている。その周囲では、光の盾が円状に展開され、半径およそ十メートルの空間を確保していた。


 俺たちが合流すると、高坂獅尾は剣を引き抜き、Auroraに向かって言う。


「始めていい」


「うん」


 Auroraは頷き、背中の箱から装置を取り出した。地面に置くと装置は変形を始め、三本の爪が地面をしっかりと固定し、頂部の柱が上空へと伸びていく。


「ここからは俺たちの出番だ。正確に言えば、お前のステージだな」


 高坂獅尾は俺の元へ歩み寄り、肩を軽く叩いた。


 俺は頭上でカメラを担いでいる人物を見上げる。彼は親指を立ててみせた。


 さっきまでも戦ってはいたが、主役は他の連中に持っていかれていた。それはもちろん機関の意図ではない。


 今、高坂獅尾はこの空間の光盾を維持しなければならず、早田墨はほぼ権能を使い果たしている。Auroraは装置の稼働に専念中だ。


 となれば、絶えず集まり光の障壁を攻撃してくるsaliveを処理する役目は、俺と野原稲にかかっている。


 これまで蓄え続けてきた権能を、ここで世界中の観客へ披露する。


 そして野原稲の役目は、今の俺では少し手こずるsalv3をカメラの外へ誘導し、処理することだった。


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